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「はあー。まさか佐畑さんまでそんな月並みな事を言うとはねー。がっかりだよ。どうせ佐畑さんもやってるんでしょ? 偽善者だなあ? もう。男なんてみんなその立場になればレイプの一つや二つやるもんですよ。それに犯罪…犯罪なんてないですよ。親父のグループは結構強いし、政治家ともつながりがあるから、そういうのはどうにでもなる。だけどね、こういうのを世間の馬鹿に言うと非難されるけど、そうじゃないんですよ。ただ、重要なのは力なんですよ。力、ただ力だけが問題なんです。やるかやらないか、それだけが問題です。馬鹿が非難するのはね、やるだけの力も勇気もないからですよ。力がないから犯罪になり、力がないから力がある奴を非難する。だけど、最後には力がある奴が勝つからね。レイプ魔であろうが人殺しであろうが、最後には力を持って、力を行使する人間にみんなひれ伏すんです。それに女なんてレイプされる為にあるようなもんですよ。そうじゃないですか? …こう言うと怒られるけどね。まあ、でも実際そうですよ。問題は誰に犯されるかという事なんですよ。ただそれだけが問題で…だから女はひらひらした服着て男を誘惑したり、おっぱいを強調してみたりするんですよ。問題はですね、どの男に犯されるか、ただそれだけなんです。男が女を犯す、レイプするのは決定なんです。だからどうせだったら、力のある相手に犯された方が得でしょう? だから俺がやるのは善なんですよ。相手がごねなきゃ、俺は、相手には分不相応な金をくれてやりますよ。それでごねる奴は馬鹿ですよ。ただの馬鹿。だから揉み消そうがどうしようが関係ない。俺の勝手なんです」
「でもそんな…」
僕は何か言葉を探した。腹が立つ所まで行かず、ただ困惑していた。
「相手の感情があるだろう? それは人間の尊厳を踏みにじるようなもので…」
「はあー。もう言わせないでくださいよ」
望月は心底呆れた、というポーズを取った。「佐畑さんならわかると思ったのに…」とボソッと言った。その時、望月の僕に対する特別扱いに疑問が生まれたが、それはまた彼の饒舌にかき消されてしまった。
「言わせないでくださいよー佐畑さん。そんな…。佐畑さんも気づいていると思うけど、人間の尊厳なんてものはないんですよ。どこにも、どこにもない。そんなものがあるなら見せてもらいたいくらいですよ。いいですか? あるのは力、力だけなんです。世間の馬鹿は力に従うんです。そして力とは振るうものなんです。好き勝手やりたいだけなんです、みんな。例えば、どうして底辺のカス共は集まって政治運動なんかするんですか? …それが自分達の得になるからですよ。理由はそれだけです。もっとうまいもの食って、いい女抱きたい。ただそれだけなんです。女からすればどうせ抱かれるなら、ホームレスよりも金持ちの方がいいじゃないですか? そうでしょ? 愛だの恋だの全部嘘で。今、彼氏とどれだけ親密でも、金持ちで力のある男が目の前に現れれば抱かれますよ。それにそれが正しい判断で、そこで抵抗するのはただ馬鹿なだけなんです。なぜかって? 理由は? 理由は簡単ですよ。世の中を支配しているのは利害だからです。利害でしかないからです。こういう帝王学を俺は親父にみっちり仕込まれました。徹底的に仕込まれましたよ。…尊厳なんてないんですよ。あるのは利害だけです。だから底辺のクズはわらわら集まって自分達の利益を主張するし、俺達は政治家に働きかけて犯罪を揉み消してもらったり、金の代わりに都合のいい法律を作ってもらったりする。でもそのどこがいけないんです? みんなやってる事でしょ? やりたい事でしょ? ブツブツ言ってる連中は、俺と同じ立場になったら絶対同じ事をやりますよ。レイプできる立場になったらやるに決まってます。愛だの夢だの恋だの、いくら言っても、結局は自分の得になるのをみんなで模索しているだけなんだから。だからやってもいいんです。俺だって、俺達の企業だってやられた事ありますよ。海外の、俺達よりももっと大きなグループだったけど。だけど、俺達は逆らわずに頭を下げた。しょうがないんですよ。俺だって負けてますよ。だけど大抵は勝ちます。勝ちも負けもない。あるのは力、力だけなんですよ。悔しければ自分で力持って振るってみろってね。法律も尊厳もない。そんなのは嘘っぱち。この世の中は闘いなんです。力で奪う争いなんです。人間ってそうでしょ? 他の生命殺して生命維持する生き物でしょ? だからいいんですよ。レイプしようが人殺そうが、いいんです。正しいんです。そこに力がある限りは。俺には力がある。力がなくなりゃ…どんな結論でも受け入れます。だけど悔しければ、闘ってみろと。俺らは全力で相手を黙らせますけどね」
僕は相手の言葉に圧倒されていた。(何が帝王学だ…何が「力」だ…ふざけるな…)と思ったが、うまく言い返す事ができなかった。僕は苦し紛れに言った。
「でもそんな…力の支配する世界だなんて…野蛮だよ。野蛮な…望月さんだって寝首をかかれるかもしれないよ、そのうち? それに…よくわからないけど…。それにしても大学生でよくそんな経験をしているなあ。ほんと…ほんとなのか? レイプだなんて…嘘だ…」
僕はもごもご言った。望月は微笑していた。
「フフ…。あーあ。佐畑さんは俺と一緒だと思ったんだけどなあ…。やってると思ったから、わざわざこんな話振ったんだけどなあ。がっかりだなあ。リスク負ったのに。偽善者……。まあ、話続けると…あの、俺の初体験は13才の時だったんですよ。親父に女あてがわれてね。親父の秘書で、親父の愛人でした。優しくしてくれましたよ。最初だったんで、俺もビクビクしてたけど。でもまあその内、その女じゃ物足りなくなってね。親父に女を変えてくれるように頼んだけど、その内、仲間とつるんで自分達で調達するようになりました。不良もやってたんで。けっこうめちゃやりましたよ。でもまあ…こんなのは経営者になる人間にはありがちなコースらしいっす。そうでしょ? 若い時の遊びって誰でもある。エリートの宿命ですよ。みんなそんなもんですよ。でしょ? …でもなあ、そんな偽善ぶっててもいい事ないっすよ。別に殺したっていいんです。殺したってね、結局は、権利も尊厳もない。ただ殺す側になればいいだけの話なんです。殺される側になるから間違ってるだけの事なんですよ。殺す側になれば万事問題は解決。駄目なのは、みんなは本当は殺したり犯したりする側になりたいのに嘘ばっかりついている事。この偽善が気持ち悪い。だけど最後には力には従います。従わせます。必ずそうなります。みんなそうですよ。だってほら、犯罪者でも、力のある人間はテレビに出たり本出したりして引っ張りだこ。人気でしょ? そうでしょ? みんなが望んでるのはそれなんですよ。綺麗なものなんてどうでもいいんですよ。ただ綺麗と見せかけるのは必要でしょうけど。馬鹿にはそういう仮装が必要だから。だからね、権利とか正義とか、そんなものは鼻で笑えばいいだけのもんなんです。ごちゃごちゃ言うのはてめえに力がないだけの話ですよ。俺は犯すと決めたら犯します。それだけ。金をドンと積んでね。性欲って発散させる必要があるでしょ? 一人でシコってるオタクになるのは嫌だからね。メスは強いオスが好きなんですよ。だってそれが力関係だし、それに従うのが幸せだから。みんな、何か大きなものに従っているし、従いたがっている。じゃあそれを提供すればいいよね、ってだけです。それだけです。どんな残虐な事もこの世界では許されてるんですよ。みんな偽善者ぶってるだけの話でね。馬鹿ですよ、あいつらは。永遠に力を持つ事ができない者の僻みでしかない」
「嫌だ」
僕は言った。望月は口を閉じて僕の目を見た。「嫌だ」 僕はもう一度言った。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。そんなのは僕は嫌だ。君の言っている事は間違っているし…僕は…絶対に嫌だ。そんなのは嫌だ」
「それは佐畑さんの好みの話ですよ。そんな事を言っているのは子供なんですよ」
望月は駄々をこねるガキをあやすように言った。僕は何か言い返そうと思ったけど、何も口から出てこなかった。部屋を静寂が支配した。僕は危うく、テーブルに置いてある灰皿で望月を殴りそうになった事を今でも覚えている。
だがあの瞬間を思い返すと、本当に殴った方が良かったかもしれないという気もする。腹が立つとかむかつくからではない。彼の言葉に反証するには結局はそれしかなかったのだから…。力を…低俗な「力」というやつを見せつければよかったのではないか? …たとえ犯罪者になったとしても…たとえそうなったとしても…。
部屋には嫌な沈黙が流れていた。どうやら望月の僕に対する目線は最初とは変わってきたようだった。沈黙の後、望月はポツリと口を開いた。




