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 「佐畑さんはレイプした事あります?」

 

 それは急な質問だった。しばらく沈黙があって、部室をどう理由つけて出ようかなと僕が思案していると、急に望月が言ったのだった。僕は唖然として尋ねた。

 

 「え? 何が?」

 

 「いや、だから。佐畑さんはレイプした事あるのかなって。…ここだけの話ですよ。もちろん。世間の馬鹿には話せないですけどね。やった事ってあります?」

 

 僕はじっと望月の顔を見た。本気で言っているのか、からかっているのか、頭がおかしいのか。望月は普通の表情で、からかうような素振りもなかった。僕は答えた。

 

 「いや。ないけど」

 

 「そうっすか。俺はありますよ」

 

 僕は再び望月の顔を見た。そこにはふざけているような様子も、ユーモアのニュアンスもなかった。意味がわからなかった。

 

 「でも意外だな。佐畑さんはやってるって気がしたんだけど。…ほんとはやってるんでしょ?」

 

 「いや…やった事はないよ」

 

 僕は混乱した。何を言っているんだろう、と考えていた。

 

 「でも…やろうと思った事はあるでしょ? あ、わかった。佐畑さんはホモなんだ! …そうでしょ。ズバリ当たりでしょ!?」

 

 望月はにやにやとしていた。少年のような笑顔だった。僕は釣られて半笑いになりそうになったが、なんとか自制した。

 

 「ないよ。違うよ。ホモでもないし、レイプした事もない」

 

 「ふーん。そうなんだ」

 

 望月は机の上にあった安物のプラモデルを取り上げ、手で弄び始めた。僕は見ていて不快になった。何か言おうと口を開いた時、望月が先に口を開いた。

 

 「実はここ一ヶ月くらい大学に来れなかったのも、その後処理が大変だったからなんすよねー。レイプした相手がごねてね。ま、よくある話なんですけど、親父の部下とか使って黙らせたんですけど。でも、黙らせるのは思ったよりも簡単ですよ。法律に訴えるとか相手は言うけどね、俺達からすれば法律ってそんなに怖くないんですよ。知ってます? 大切なのは公平である事ではなく公平に見せかける事だって。…どっかの漫画に描いてあったな。で、俺はやったんですけど。仲間と一緒に連れ込んでね。ヤリ部屋を渋谷に借りてて。親父も、認めてます。若い時にはそれくらいのエネルギーの発散が必要だ。俺だって若い頃はそれくらいやった。でもまた元の道に戻ってきて、立派な経営者になればそれでいい。大事の前の小事だから……佐畑さん。俺、佐畑さんだからこんな話するんすよ。他の連中だったら話さないっす。馬鹿ですからね。他の奴は」

 

 僕は話を聞きながら、まるで違う世界の事を言われてするようで、ぐらぐらと混乱した。望月の僕への奇妙な特別扱いも、頭がふわふわして、理由を尋ねる気になれなかった。僕は、自分がこの時間、ここに、部室にいる事を後悔していた。望月が何の話をしているのか、冷静に捉えられなくなっていた。


 「でも…」

 

 僕は反論しようと言葉を探した。

 

 「犯罪じゃないか。それは…犯罪じゃないか。間違ってるよ」

 

 望月はあからさまに(あきれた)という表情をして、ため息をついてみせた。彼はすぐ言葉を投げつけてきた。


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