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望月とはじめて顔を合わせたのはその一ヶ月後だったと思う。授業にもサークルにも慣れてきて、僕は早速、「怠惰な文系大学生」の身分に落ち着こうとしていた。
その日は、授業と授業の間に長い休み時間があったから部室で暇でも潰そうと思って、だらだらとしていた。昼前で、僕以外の誰も部室にはいなかった。昔のスーパーファミコンが置いてあったので、一人で線をつないで遊んでいた。マリオをやった。小学校の頃を思い出しながらプレイしていた。昔はこういうのが飛び抜けてうまい奴が仲間内に一人くらいはいたものだ。あいつは今どうしているだろう、なんて少し考えた。
遊んでいると、急に部室のドアが開いた。派手な開き方だったので、先輩の木下さんだろうと思ってそちらを見たら知らない、同い年くらいの男がいた。その表情、態度から、既に普通ではない雰囲気が滲み出ていた。
「あれ? 一人しかいない。…っかしいな。もっといるって聞いてたのになあ…。まあ、いっか」
男はそう言って、ドアを閉めた。僕はゲームを止めて男を見た。赤い革のジャケットを着ていて、夏なのに暑くないのかな、と思ったのを覚えている。そのジャケットがいかにも高価そうに見えて、僕は「望月健」の事を思い出した。(こいつが望月かな?) 思った時、男が口を開いた。
「あ……何やってんすか?」
男はズカズカ入りこんできて、斜め向こうのソファにどっかり座った。バン、と音がした。
「ああー。マリオっすか。懐かしいっすね。昔やってましたよ」
僕は人見知りな事もあって、何も言えなかった。ただ相手の顔を見ていた。相手は僕が変な顔をしているのにやっと勘付いたようだった。
「あ、はじめてっすか? はじめてっすよね? 会うの? 会うのはじめてっすよね? あれでしょ? 先輩ですよね」
「いや。自分は……まだ、一年だけど。佐畑って言うんだけど」
「あ? サハタ? マジですか? あーそうか、そうか。サハタさんね…。一年? あーそうか」
男は一人でふむふむとうなずいていた。僕はじっと見ていた。男は顔を上げたが、今度はよそ行きの微笑を顔に貼り付けていた。
「あー。佐畑さん。一年かー。俺も一年なんすよ。望月って言うんです。望月健です。よろしくおねがいします。同じ…同じ新入生ですね。俺、忙しくて学校あんま来れないけど、来る時はまた、佐畑さんと話すかもしれない。はじめまして、ですよね。そう言えば。これからよろしくおねがいします。望月です」
望月は急に礼儀正しくなって、手を差し出し、握手を求めてきた。僕は面食らったが握手した。望月の手はひんやりと冷たく、女性のように華奢だった。望月は握手が終わってもまだ微笑していた。僕にはその時はまだその意味がわからなかった。




