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第40話 F級卵、採取依頼に出る

冒険者ギルドへ行った。



 昨日。



 薬師ギルドで。



 外でも認めさせる。



 そう決めたからだ。



 決めたのだが。



「薬草採取?」



 受付の男が。


 俺を見た。



 正確には。



 ミミルが抱えている。


 俺を見た。



「その卵も連れていくのか?」



「連れていくのではありません」



 ミミルが。


 木札を差し出した。



「エッグも参加します」



 言い直した。



 そこ。



 大事。



 受付の男が。


 木札を読む。



 薬師ギルド。


 同席助手。


 エッグ。



 昨日できたばかりの。


 俺の肩書きだ。



「薬師の仕事なら分かるが、採取で何ができる?」



 何が。



 できる。



 前なら。



 すぐに答えられた。



 薬草を探せる。



 毒草も。


 鉱石も。


 落ちている素材なら。



 だいたい分かった。



 今は。



 分からない。



 何も。



 右にも。


 左にも。



 ただ。



 草がある。



 石がある。



 それだけだ。



「以前は、採取物を見つけるのが得意でした」



 ミミルが答えた。



「以前は?」



「今は、できません」



 受付の男が。


 俺を見た。



 俺も。



 見返した。



 目はない。



 気持ちだけ。



「なら、荷物が一つ増えるだけじゃないか」



 正論。



 刺さる。



 殻に。



 ひびは入らない。



 でも。



 別のところに。



 少し。



 入った気がした。



「それを確かめるためでもあります」



 ミミルは引かなかった。



「危険があれば、私がエッグを守ります。採取量が不足した場合、私たちの取り分は求めません」



 俺は。


 左へ揺れた。



「エッグ?」



 取り分なし。



 それは違う。



 役に立たなかったなら。


 仕方ない。



 でも。



 最初から。


 なしにするのは違う。



 ミミルが。


 少し困った顔をした。



「参加者として扱ってください。働いた分は、エッグにも」



「働ければな」



 採取班の護衛らしい男が。


 壁際で笑った。



 革鎧。


 剣。


 傷のある腕。



「戦えない。歩けない。探せない。割れれば依頼どころじゃない。荷袋より面倒だ」



 荷袋。



 俺は。



 荷物から。


 素材になって。



 助手になって。



 今度はまた。


 荷物に戻った。



 忙しい。



 俺の扱い。



「危険地帯には近づけません」



 ミミルが言った。



「私のそばで、安全を確かめながら――」



 左。



「ですが」



 左。



「エッグ」



 左。



 安全なところで。



 抱えられているだけなら。



 本当に。



 荷物だ。



 俺は役に立ちに来た。



 守られるためだけではない。



 ミミルが。


 俺を見下ろした。



「自分で試したいんですか?」



 右。



「危険でも?」



 少し。



 止まる。



 右。



 怖くない。



 わけではない。



 一度死んだ。



 死ぬ前より。



 今の方が。



 死ぬのは怖い。



 失うものが。



 何か。



 分かったからだ。



 次に死んだら。



 何を忘れる。



 どの力が消える。



 それでも。



 守られているだけで。



 外から手を伸ばされるのを待つ方が。



 もっと嫌だった。



「分かりました」



 ミミルの指が。


 殻を撫でる。



「でも、無理だと思ったら止めます。私も、エッグも」



 右。



 それでいい。



 護衛の男が。


 肩をすくめた。



「割れ物注意ってことだな」



 違う。



 参加者注意だ。



 たぶん。



    ◇



 街の外は。



 広かった。



 前にも出たことはある。



 ただ。



 そのときは。



 どこに何があるか。



 薄く感じ取れていた。



 右の茂みに薬草。



 左の岩陰に毒茸。



 土の下に根。



 遠くに。



 妙な素材。



 世界の方から。



 ここだ。



 と教えてくれていた。



 今は。



 静かだ。



 風が吹く。



 草が揺れる。



 鳥が鳴く。



 分かるのは。



 それだけ。



「日陰を見ていきます」



 ミミルが。


 採取班へ声をかけた。



「葉の裏が青白く、茎に細い毛があるものです。傷んだ葉は薬効が落ちるので避けてください」



 採取するのは。


 低級回復薬に使う草だった。



 見た目なら。


 俺にも。



 分かる。



 はず。



 ミミルが。


 地面へ下ろしてくれた。



 草。



 草。



 草。



 どれだ。



 目はない。



 それでも。



 見えてはいる。



 どういう仕組みか。



 俺にも分からない。



 卵だから。



 そこは。



 諦めた。



 近くの葉へ。


 体を傾ける。



 緑。



 裏。



 青白い。



 たぶん。



 これ。



 右へ揺れた。



 ミミルが摘み取る。



 葉を確かめた。



「似ていますが、違います。茎に毛がありません」



 違った。



 次。



 青白い葉。



 茎。



 毛。



 ある気がする。



 右。



「これは傷んでいます。黒い斑点が出ていますね」



 また。



 違った。



 護衛の男が。


 少し離れたところで。


 鼻を鳴らした。



「卵に草の区別は無理だろ」



 分かってる。



 今。



 痛いほど。



 似た草を。


 何度も見た。



 形。



 色。



 傷。



 分からない。



 前なら。



 見た目など。



 関係なかった。



 素材か。


 違うか。



 それで済んだ。



 便利だった。



 なくなってから。



 よく分かる。



 俺は。



 思ったより。



 あの力に頼っていた。



「今日は、私が探します」



 ミミルが。


 俺を持ち上げた。



「エッグは周囲を――」



 警戒して。



 そう言いかけて。



 止まった。



 魔物も。



 感じ取れない。



 薬草も探せない。



 敵にも気づけない。



 俺にできる仕事が。



 ない。



「籠に入れておけ」



 護衛の男が言った。



「帰りまで割れなければ、それで十分だ」



 採取籠の中。



 摘まれた草の隣。



 俺は置かれた。



 薬草。



 俺。



 荷物。



 並びは。



 完璧だった。



 終わってる。



    ◇



 籠の中で。



 揺れた。



 微振動。



 意思表示に使う。



 攻撃力はない。



 魔力も使わない。



 俺に残った。



 最初からある力。



 震える。



 それだけ。



 草の葉が。



 わずかに触れ合った。



 かさ。



 かさ。



 摘み取られた薬草。



 その奥に。



 傷んでいるから捨てると言われた葉。



 俺は。



 もう一度震えた。



 かさ。



 かさ。



 同じ音。



 いや。



 違う。



 片方は。



 震えがすぐに消えた。



 もう片方は。



 葉の中で。



 何かが遅れて揺れた。



 水。



 ではない。



 もっと。



 薄いもの。



 薬液を出したときに。


 殻の内側を流れたものに似ている。



 薬の。



 魔力。



 俺は振動を止めた。



 もう一度。



 弱く。



 震える。



 生きた葉。



 遅れて返る。



 傷んだ葉。



 返らない。



 空気にも。



 何かが混じっていた。



 草から漏れた。



 薬に似たもの。



 細い。



 薄い。



 前のように。



 場所が分かるわけではない。



 だが。



 震えを広げると。



 混じったものが。



 少しだけ。



 震え方を変える。



 俺は。



 籠の中で。



 強く揺れた。



「エッグ?」



 ミミルが。


 足を止める。



 俺は右へ傾いた。



 籠の外へ。



「出たいんですか?」



 右。



 地面へ下ろされる。



 俺は震えた。



 前。



 何もない。



 右。



 少し。



 返る。



 左。



 もっと。



 返った。



 俺は左へ傾く。



「そちらに何かありますか?」



 右。



「薬草?」



 答えられない。



 分からない。



 右か左しか。



 言えない。



 だから。



 俺は左へ揺れた。



 薬草と断言はできない。



 でも。



 何かある。



「別のものですか?」



 左。



「分からない?」



 右。



 ミミルが。



 少し考えた。



「確かめたい?」



 右。



 通じた。



 さすが。



 俺の共同研究者。



 ミミルが俺を抱え。



 左の茂みへ進む。



「そっちはさっき見たぞ」



 護衛の男が言った。



「使える草はなかった」



 ミミルが。


 茂みをかき分ける。



 倒れた木。



 湿った土。



 その根元。



 葉の裏が青白い草が。



 数株。



 重なるように生えていた。



「あった……」



 ミミルが。


 葉を一枚ずつ確かめる。



「どれも生きています。傷みもありません」



 採取班が集まった。



 俺は。



 もう一度震えた。



 一株。



 二株。



 三株。



 返ってくる。



 端の一株。



 弱い。



 俺は。



 そちらへ傾いた。



「これは?」



 ミミルが根元を見る。



 茎の裏に。



 小さな黒い斑点があった。



「病変が始まっています。見た目では、葉にまだ出ていないのに」



 護衛の男が。



 黙った。



 俺は。



 震えた。



 薬草が。



 返した。



 素材を探しているわけではない。



 何かの名前が。



 頭に浮かぶわけでもない。



 ただ。



 空気へ漏れる薬の魔力を。



 震えで揺らす。



 生きている草は。



 返す。



 傷んだ草は。



 返さない。



 これは。



 前の力ではない。



 失った力の。



 代わりでもない。



 今の俺が。



 今。



 見つけたものだ。



「もう一度、できますか?」



 ミミルが聞いた。



 右。



 できる。



 たぶん。



    ◇



 できた。



 一度目。



 薬草。



 二度目。



 苦い匂いのする葉。



 違う。



 三度目。



 薬草。



 ただし傷みあり。



 完璧ではない。



 何の草かは。



 分からない。



 似た薬性を持つ草が混ざれば。



 区別も難しい。



 それでも。



 薬の力がある場所。



 生きた反応。



 傷んだ反応。



 それは。



 見分けられた。



 採取籠が。



 半分を越えた。



「荷物よりは役に立つな」



 護衛の男が言った。



 褒め方。



 下手か。



 まあ。



 最初よりはいい。



 俺が右へ揺れようとした。



 そのとき。



 空気が。



 乱れた。



 薬の魔力ではない。



 重い。



 湿った。



 何か。



 違う。



 これは。



 俺が感じたのではない。



 地面だ。



 振動が。



 返ってきた。



 草の反応より。



 大きい。



 速い。



 近い。



 俺は。



 強く震えた。



「また薬草ですか?」



 左。



 何度も。



 左。



「違う?」



 右。



 地面が。



 揺れた。



 茂みが割れた。



 牙。



 灰色の毛。



 四本脚。



 俺には。



 それが何という魔物か。



 分からない。



 分かる必要もなかった。



 大きい。



 怖い。



 こちらへ来る。



 十分だ。



「下がれ!」



 護衛が剣を抜いた。



 遅い。



 魔物は。



 採取籠を持っていた女へ。



 飛びかかった。



 護衛が。



 間へ入る。



 剣。



 牙。



 ぶつかった。



 男の体が。



 横へ飛んだ。



 腕から。



 血が出た。



 多い。



 魔物が。



 もう一度飛ぶ。



 別の護衛が。



 横から棒で殴った。



 牙がずれる。



 剣が。



 首元へ入る。



 灰色の体が。



 土の上を転がった。



 動かなくなる。



 静かになった。



 俺は。



 ミミルの腕の中で。



 震えていた。



 怖い。



 遅かった。



 前なら。



 茂みの向こうにいるうちに。



 分かったかもしれない。



 今回は。



 飛び出す直前だった。



「傷を見せてください!」



 ミミルが。


 倒れた護衛へ駆け寄る。



「浅い」



 男が言った。



 強がり。



 腕の傷は。



 浅くない。



 牙が通ったところから。



 血が流れ続けている。



 ミミルが布を当てる。



「圧迫します。薬は――」



 採取依頼だ。



 持ってきた薬は。



 最低限。



 その瓶は。



 さっき。



 魔物に飛ばされた籠の下。



 割れていた。



 俺は。



 殻の内側へ。



 意識を向けた。



 あった。



 薬液を作ったときの。



 感覚。



 自分の中から。



 何かを出す。



 できる。



 でも。



 前より。



 殻は脆い。



 どこまで出していい。



 分からない。



「エッグ」



 ミミルが俺を見る。



 俺は。



 右へ揺れた。



 何を聞かれるより。



 先に。



「薬を出せるんですか?」



 右。



「無理はしませんか?」



 止まった。



 約束は。



 できない。



 だから。



 左。



 ミミルの顔が。



 曇った。



 それでも。



 俺は。



 もう一度。



 右へ揺れた。



 やる。



 無理をしないとは。



 言えない。



 でも。



 やる。



 男の腕から。



 血が落ちる。



 俺に。



 荷物よりは役に立つ。



 そう言った男だ。



 かなり失礼だった。



 だからといって。



 見捨てるほどではない。



「少量だけです」



 ミミルが言った。



「ひびに痛みが出たら、すぐに止めます」



 右。



 殻のひびへ。



 力を集める。



 内側が。



 熱くなる。



 透明な液が。



 一滴。



 にじんだ。



 ミミルが。



 傷の端へ落とす。



 男が息を呑んだ。



「熱い……いや、違う」



 血の流れが。



 少し遅くなる。



 もう一滴。



 痛い。



 ひびが。



 内側から押される。



 三滴目。



 ミミルの指が止めた。



「ここまでです」



 まだ。



 出せる。



 俺は右へ揺れようとして。



 できなかった。



 ミミルの手が。



 俺を包んでいる。



「ここまでです」



 同じ言葉。



 でも。



 今度は。



 俺に向けてだった。



 傷へ巻いた布に。



 血が広がる。



 速度は。



 落ちている。



 男の顔色も。



 さっきよりはいい。



「止血の補助になっています。街まで戻れます」



 ミミルが言った。



 よかった。



 俺は。



 小さく右へ揺れた。



 今度は。



 止められなかった。



    ◇



 冒険者ギルドへ戻るころには。



 日が傾いていた。



 採取籠。



 三つ。



 必要量は。



 越えていた。



 負傷者。



 一人。



 歩いて帰った。



 俺。



 ひび割れ率。



 少し上がった。



 たぶん。



 見たくない。



 でも。



 見る。



 後で。



 受付の男が。



 採取物を確認した。



「状態がいいな。廃棄分も少ない」



「エッグが、傷みのある株を見分けました」



 ミミルが答えた。



「草の薬性らしきものを、振動で確かめています。正確な仕組みは、まだ分かりません」



 技能の名前は。



 誰も知らない。



 俺も。



 新しい名前はつけない。



 分かっているのは。



 起きたことだけ。



「魔物への警告も、こいつが先だった」



 腕に包帯を巻いた護衛が言った。



「ぎりぎりだったがな」



 余計な一言。



「それと」



 男が。



 包帯を持ち上げた。



「こいつの出した液で、血が止まった。薬が割れてたから、あれがなければ帰りは遅れた」



 受付の男が。



 俺を見た。



「薬草を見つけて、傷を治した?」



 俺は。



 右へ揺れた。



 治した。



 は。



 少し大きい。



 応急処置。



 くらい。



 だが。



 右と左しかない。



 不便。



「依頼達成だ」



 受付の男が。



 報酬を数えた。



 一つ。



 二つ。



 三つに分ける。



 採取班。



 護衛。



 ミミル。



 そこで。



 手が止まった。



「二人分でいいか?」



 ミミルが。


 俺を見る。



 俺は。



 右へ揺れた。



 俺たちは。



 二人だ。



 受付の男が。



 硬貨を一枚。



 ミミルの分から。



 分けようとした。



「違う」



 護衛の男が言った。



 受付の手を止める。



「採取の上乗せ分があるだろ。傷みが少なかった分だ」



「ああ」



「そっちを卵に出せ。あれはそいつが見つけた分だ」



 硬貨が。



 小さな木皿へ置かれた。



 俺の前。



 報酬。



 エッグ。



 素材代ではない。



 薬効液の代金でもない。



 殻片の値段でもない。



 働いた分。



 俺の取り分。



 硬貨は。



 俺より。



 ずっと小さい。



 それでも。



 今まで見た金の中で。



 一番。



 大きく見えた。



「受領しますか?」



 受付の男が聞いた。



 俺に。



 聞いた。



 ミミルではなく。



 俺に。



 俺は。



 右へ。



 一度。



 強く揺れた。



 木皿の上で。



 硬貨が。



 小さく鳴った。



 荷物は。



 報酬を受け取らない。



 素材も。



 受け取らない。



 受け取るのは。



 依頼に出た。



 一員だけだ。



 ミミルが。



 俺と硬貨を。



 一緒に持ち上げた。



「初報酬ですね」



 右。



 そうだ。



 俺は今日。



 薬草を探した。



 敵に気づいた。



 傷を塞いだ。



 全部。



 十分ではなかった。



 遅かったし。



 危なかったし。



 ミミルにも。



 心配をかけた。



 でも。



 できた。



 失った力は。



 戻っていない。



 前と同じには。



 なれない。



 なら。



 前と違うやり方で。



 役に立てばいい。



 ひび割れたまま。



 震えるだけでも。



 見つけられるものは。



 あった。



 受付の記録板に。



 筆が走る。



 採取依頼。



 達成。



 参加者。



 ミミル。



 エッグ。



 そこに。



 荷物とは。



 書かれなかった。

失った力の代わりを、今の身体で探し始めたエッグでした。

初めて自分の働きで得た報酬は、小さくても大きな一歩です。


お読みいただきありがとうございます!


「続きが気になる」「卵、がんばれ」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆やブックマークで応援してもらえると嬉しいです。感想もひとこと置いていってくれたら、殻にヒビが入るくらい励みになります。


廃棄推奨の最弱卵が世界を孵すまで、どうか見届けてやってください。

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