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寄生悪役令嬢は星間戦争の夢を見るか  作者: エシェリキア梱


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第98話 春の庭と大公国の使者


 突然の大公国公子の訪問に、王城は上を下への大騒ぎとなった。


 本来であれば、厳重な警備の敷かれた貴賓室で迎えるのが外交の通例である。

 しかし、クラウディアは「春の陽光が心地よいから」という一言で、王城中庭のガゼボを会談の場に指定した。


 ガゼボ内に座すのは、王国側がクラウディア、宰相、近衛隊長パーシヴァル。

 大公国側は使者2名と警護兵1名。

 ガゼボの外には大公国の兵5名が彫像のように控えていた。

 そういう文化なのか、大公国の兵士たちは一様に面頬(ビザール)で顔を隠していた。


 3月の柔らかな日差しが降り注ぐ中、つい先日まで殺し合っていた国同士がテーブルを挟む。

 クラウディアの傍らに控える宰相ラグナの胃は、あまりの緊張感に、もはや崩壊寸前であった。


「この度は、突然の訪問にも関わらず、温かいもてなしをいただき感謝いたします」


 大公国特有の浅黒い肌に彫りの深い顔立ち――そんな人物を想像していた王国側を裏切り、第七公子ナイジェル・バーブロストは、正反対の風貌をしていた。

 青白い肌、細い目、薄い唇。

 大公国としては珍しいほど色素の薄い痩身の男。

 高貴な身分とは裏腹に、彼が纏う豪華な民族衣装から浮いているようにも見えた。


「リーベル公爵が娘、クラウディア・リーベルと申します。遠路遥々(えんろはるばる)お越しいただき、ありがとうございます」

「こちらこそ、素晴らしい贈り物をいただきました以上、礼を尽くすべきとの、大公殿下のご意志です。こちらをお受取りいただけますか?」


 ナイジェルは人懐こそうに細い目を更に細め、補佐の使者に命じて数々の贈り物を捧げさせた。

 絢爛豪華な絨毯、金の彫刻、滑らかな絹織物。

 だが、それら宝物の山の中に、場違いな見窄(みすぼ)らしい木箱が混じっており、逆に異様な存在感を放っていた。


「粗末な入れ物で失礼いたします。生憎と、手頃な大きさの箱がこれしかなくて。……されど、こちらこそが我らの『誠意』でございます」


 ナイジェルは菓子箱でも渡すような軽い調子で、その木箱を差し出した。

 クラウディアが蓋を開ける。


 中には、2つの生首が仲良く並んでいた。


 普通の令嬢なら、いや大抵の人間なら、悲鳴を上げ、椅子ごと転げ落ちる凄惨な光景。

 だが、クラウディアは眉一つ動かさず、天気の話でもするように静かに問いかけた。


「こちらは、どなたかしら?」


 ナイジェルの細い目が、驚きに一瞬見開かれた。


(声ひとつ上げない、か。これはこれは……面白い)


「我が国の第一公子と、第四公子にございます。この度の不始末の責任を取らせるべく、ご用意いたしました」

「彼らが主犯である、と?」

「如何にも。証拠もございます」


 大公国の王族が使用する封蝋印には、全て同じものではなく、誰の印かが分かるような微差があるのだという。

 ナイジェルが証拠となる印璽(いんじ)と、襲撃の実行犯が持っていた書簡の封蝋を合わせてみせると、それはぴたりと一致した。


「お気に召しませんか? もちろん、金銭的な賠償の話もこれから……」

「いいえ。貴国の誠意、しかと受け取りましたわ。ですが、我が国は賠償金を要求するつもりはございません」


 これには、ポーカーフェイスを貫いていたナイジェルも絶句した。

 王国に少なからぬ被害が出ているのに、賠償金が要らないとは。


 ――まさか、国そのものを差し出せと……?


「……恐れながら、非才な私には貴女様の真意を汲み取ることができません」

「あら、別に不思議はないでしょう。前にお出しした書簡に書いた通り、貴国の民のためです」

「しかし、サツマイモの件といい、それはあまりに王国に利が無さ過ぎる」

「今後、貴国とは仲良くしていきたいのです。これはその先行投資とお考えいただければ」

「……」


 沈黙。


 張り詰めた空気の中で、風がガゼボに絡まる薔薇の葉をわずかに揺らした。

 やがて、クラウディアは、ふっと笑みを浮かべた。


「私、事業を起こすつもりですの。王国内の全てのダイヤモンド鉱山と提携して、原石を一括で買い上げます。市場に流通する量をコントロールして、価格を高値で維持するつもりです。」


 戦後処理の会議はずが、突然の商談。

 話が見えず混乱する聴衆の中、1人舞台のクラウディアは子供が悪戯でも思いついたかのような調子で無邪気に続ける。


「貴国は世界でも有数のダイヤモンドの産出国。良い鉱山をいくつもお持ちでしたわね? 是非、この計画にご協力いただけないかと思いまして」

「……理屈はわかります。しかし、提携に乗らない他国の鉱山が原石を安く売れば、この筋書きは成り立たなくなるのでは?」


 顔にこそ出さないが、ナイジェルの声には揶揄(からか)うような響きが宿っていることが分かる。

 事業だなんだと言っても、所詮は世間知らずのお姫様が考えることだ。

 市場原理とはそんな甘いものではない。

 商売上手の砂漠の民であるナイジェルは内心で彼女を嘲っていた。


 しかし、今日のところは王国の機嫌を損ねないように、このお姫様に花を持たせないといけない。

 つい反論してしまったが、おべんちゃらでなんとか切り抜けよう。


 そう思って微笑みの仮面を貼り付けながら、再び視線を向けると、そこには何故か自信で(みなぎ)っているクラウディアの顔があった。


「いいえ。どの鉱山も、競って私に売るようになりますわ」


 ふいにクラウディアが空を仰いだ。


 それを合図として、巨大な羽ばたき音が響き、ガゼボの横に一条の影が舞い降りた。

 大公国の兵たちが反射的に剣を構えたが、降り立ったのは金髪金眼の美少年――(からす)であった。


「驚かせてごめんなさい。うちの者です」


 クラウディアは(からす)から黒革の箱を受け取り、ゆっくりと蓋を開けて、ナイジェルの前へ差し出した。

 覗き込んだナイジェルは凍りついた。


「な……なんですか、これは……っ!?」


 


「もちろん、ダイヤモンドですわ」


ご覧いただきありがとうございます!

完結まで書き溜めておりますので、順々に投下していきます。

お楽しみいただければ幸いです。

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