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寄生悪役令嬢は星間戦争の夢を見るか  作者: エシェリキア梱


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第84話 敵兵狩り


 王都の至る所で、パレードの喧騒(けんそう)を切り裂く悲鳴が上がった。

 パレードに紛れていた大公国の兵士たちが一斉に仮装を脱ぎ捨て、その牙を剥き出しにしたのである。

 武器を持たぬ民衆を相手に、一方的な蹂躙(じゅうりん)の始まりだった。


 石畳には仮装の残骸が散らばり、祝祭の篝火(かがりび)が皮肉にも街を不気味に照らし出す。

 一人の兵士が若い男を斬り伏せ、返り血を浴びた剣をそのまま傍にいた幼い子供へと振り下ろした――その瞬間。


 パレードの群衆の中から、巨大な影が飛び出した。


「ギィッ!!」


 鈍い金属音と共に、兵士の剣が根元からへし折れる。

 立ちはだかったのは、鋼鉄の被毛を纏った巨大な(ねずみ)の異形――鉄鼠(てっそ)である。


 鉄鼠(てっそ)が鋭い鳴き声で合図を送ると、路地の暗闇から数千、数万という(ねずみ)の群れが津波のように(あふ)れ出し、兵士たちの足元へ吸い付いた。


「な、なんだこれは! どけ、離れろッ!」


 必死の抵抗も虚しく、体が見えなくなるほどの大群に覆われる兵士。

 絶叫する兵士の肉に、無数の鋭い前歯が食い込む。

 来た時と同様の素早さでその群が引いた後、そこに残ったのは鎧と血と骨のみ。

 この間、わずか数分の出来事だった。


 平和なはずの王都で、いきなり剣を向けられた幼子の恐怖は計り知れない。

 危機から脱した後も、声も出せないまま震える子供を見つめ、鉄鼠(てっそ)はふと、その恐ろしい形相を和らげた。

 黒目がちな目をウルウル、小さなお鼻をモヒモヒ、張りのあるお(ひげ)をピクピクさせ、精一杯、愛らしい(ねずみ)の仕草をした。

 元は徳の高い僧侶であり、そして子供が大好きなのだ。


 異形の優しさは、言葉を介さずとも幼子に伝わった。

 子供がその弧を描く尻尾にそっと触れ、「ありがとう」と呟くと、鉄鼠(てっそ)は牙を隠して満足げに目を細めた。


 一方、行き止まりに母娘を追い詰めた小隊長の前に、不自然に優雅な影が落ちた。


「あら、殿方が女子供相手にそんな物騒な玩具(オモチャ)を振り回して、何が楽しいのかしら?」


 霧の中から現れたのは、夜の闇に溶け込むような漆黒の着物を崩した美女――飛縁魔(ひのえんま)

 兵士がその美貌に目を奪われた刹那、彼女の背で漆黒の翼がバサリと展開した。


「な、化け物かッ!」


 指揮官が剣を振るうが、彼女は風よりも速い。

 空へ舞い、剃刀(かみそり)のような羽の雨を降らせて兵の手足を切り刻む。さらに彼女は地上へ降り、兵の口元へ紅い唇を寄せた。

 瞬間、兵の体から青白い燐光が吸い出される。

 精気を抜かれた男は一瞬にして老人のように干らび、その場に崩れ落ちた。


「……ふふ、大公国の兵というのは、存外に味が濃いのね。気に入ったわ」


 街の各所では、(あやかし)たちがそれぞれの能力を活かした戦いを繰り広げていた。


 一反木綿が人々を屋根の上へ避難させ、袖引き小僧が敵兵の進軍を物理的に引き留める。

 煙羅煙羅(えんらえんら)の紫煙が敵の視界を奪い、塗り壁が路地を封鎖して退路を断つ。

 暗闇から放たれる鎌鼬(かまいたち)の真空刃は、逃げ惑う人混みの中でも寸分の狂いなく敵の腱だけを断ち切った。

 弓兵の陣地には、矢の攻撃を一切受け付けない狂骨と馬骨が、(むくろ)の馬に跨り、死の旋風となって突っ込んでいく。

 さらに、司令部にはぬらりひょんが客として居座り、指揮官たちの思考を霧散させ、軍の統制を内部から崩壊させていた。


   ◇


 王都近郊の深い森。

 潜伏していた大公国の別働隊は、真の地獄を味わっていた。


 一歩先も見えぬ闇の中、背後からカサリと乾いた音が響く。


「……誰だ!」


 兵士が振り返った瞬間、空から巨大な風呂敷のような野衾(のぶすま)が舞い降り、顔面を覆い尽くす。

 森の奥からはひょうすべの「ヒッヒッヒッ」という、泣き声にも似た引き()った笑い声が響いた。

 パニックに陥り、森の奥へと走り出した兵士のすぐ傍で、幼い子供の声が響く――


「……みーつッけたァ」


 それは、イアポニアからやってきた(あやかし)の子供たちだった。


 普段、里では「お友達にケガをさせよう、力をセーブしなさい」と厳しく教育されている彼らだが、今宵に限ってはクラウディアから特別な許可が下りていた。


「思いっ切り、遊んでいいわよ!」


 その言葉は、幼き捕食者たちにとって最高の福音だった。


 視界の効かぬ闇の中で、逃げ惑う兵士。

 追う(あやかし)の子。

 特に鬼の子たちは、時速数十キロという猛スピードで森を駆け抜け、重い鎧を着た兵士を軽々と追い詰めた。


「助けてくれ、来ないでくれ!」


 泣き叫ぶ兵士の背中に、鬼の子の小さな、しかし岩をも砕く拳が“タッチ”される。

 それだけで、兵士の体は木の幹まで吹き飛び、意識を失った。

 鎧兜があるため、死にはしないだろう――たぶん。


 秘密基地のフォレストアスレチックで鍛えた子供たちはターザンロープを駆使して、敵兵を華麗に翻弄し、隊列を分散させる。

 森は竹切狸(たけきりたぬき)篠吉(しのきち)が仕掛けた迷路と罠だらけ。ちなみに、落とし穴の下には竹槍が仕掛けてある。

 散り散りに逃げた兵は、蟻が蟻地獄の巣へ落ちるように、次々と罠へ誘い込まれていった。


「ねえ、次はあっちの人がいい!」

「僕が追い込むから、反対から挟み撃ちにしようよ!」


 無邪気な笑い声と、兵士たちの絶望的な悲鳴が交錯する森。

 凄惨(せいさん)な“リアル鬼ごっこ”はまだ始まったばかりだ。


   ◇


 森が人間をターゲットにした狩猟場と化す中、木々に宿る木霊たちが一斉に騒ぎ出した。


 数キロごとに配置された彼らは、波紋が伝わるように沿岸部の異常事態を王都へと伝達する。


“テキ・フネ・タクサン”

“タイホウ・フネ・タクサン”


 王都の南の港へと続く海域。

 そこには、戦艦20隻を超える大艦隊が静かに佇んでいた。

 巨大な船体。両脇に並ぶ巨大な砲台。

 大公国がこれほどの規模の海軍を、密かに編成・維持していたとは……。


 それは、制海権は自分たちにあると過信し、南岸の警備を緩めていた王国の隙を突いた計画的なもの。

 クラウディアたちにとっても予想を遥かに超える、最大にして最悪の誤算であった。


ご覧いただきありがとうございます!

完結まで書き溜めておりますので、順々に投下していきます。

お楽しみいただければ幸いです。

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