表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寄生悪役令嬢は星間戦争の夢を見るか  作者: エシェリキア梱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/113

第79話 ハロウィンパレードあるいは百鬼夜行


 人は辛いときほど、熱狂を求めるものらしい。


 はるか昔、約300年続いた江戸という時代が終焉(しゅうえん)を迎えようとした折、民衆は「ええじゃないか」と(はや)し立て、歌い踊りながら町を練り歩いたという。

 家々に押しかけ、酒や食事をねだり、秩序も身分も一夜の夢のように忘れ去る――破滅の匂いと高揚が入り混じった狂乱の祭り。


 衰退の一途を辿るこの国の王都もまた、不気味なほど似た熱気に包まれていた。


 10月31日。王太子ユリシーズの結婚式前夜。

 近隣の村々から人がなだれ込み、城門前は人波で埋め尽くされている。

 入念な仮装を施した人々が通りを埋め、太鼓と笛の音が重く夜気を震わせていた。


 “死者の日”の風習に従い、白塗りの顔に黒い眼窩(がんか)を描いた骸骨たちが、陽気に死を象徴して踊る。

 妖精、魔女、悪魔、怪物、幽霊。

 おとぎ話や伝承の住人たちが、現実を侵食するように街を闊歩(かっぽ)する。


 だが、パレードの列に、明らかに質の違う“何か”が混じっていた。


 首が異様に長く伸びた女。

 風もないのに脈打つ意思を持った布。

 人間よりも大きな蛙が、ぬらりと黄金の瞳で瞬きをする。


「見て、あれ妖図鑑(あやかしずかん)のやつじゃない!?」

「どうやって動かしてるのかな?」

「すごい、リアル。本物みたい!」


 ――みたい、ではない。

 正真正銘、本物の(あやかし)である。


 しかし人々はそれを、趣向を凝らした仮装だと思い込んでいる。

 屋根の上から巨大ながしゃどくろが覗き込んでも、人々は「最高の演出だ!」と拍手を送った。


 イアポニアには“百鬼夜行”という文化があったという。

 囃子(はやし)に合わせて練り歩き、人間と肩を並べ、酒を(あお)る。

 (あやかし)たちはその再現に、非常に気を良くしていた。


 今宵は境界が曖昧(あいまい)になる夜。

 誰も、本物と偽物の区別など気にしない。


 (あやかし)たちの一団は、皮肉にも王都の狂乱に完璧に溶け込んでいた。


   ◇


 お祭り騒ぎの(あやかし)たちとは対照的に、西門の警備を固めていたパーシヴァルは、焦燥を隠せずにいた。


(たる)の中も調べろ。(ほろ)の裏もだ。蟻一匹逃すな!」


 入る者は絶えないが、出ようとする者は皆無に近い。

 混乱に乗じて脱出するには絶好の夜のはずなのに、獲物の影すら掴めない。


(……おかしい。ニィナなら、もう動いているはずだ)


 クラウディアから聞いていたニィナ像は、現実的で計算高い女。

 王城と王都が戦乱の舞台になるのは時間の問題だというのに、そこに留まる愚か者ではない。


(……まさか)


 そう。

 クラウディアの見立て通り、ニィナは現実的で計算高い。


 だからこそ――


 大公国の連絡係、マダム・アルマが、襲撃の混乱に乗じて自分を“消す”つもりでいることすら、読んでいた。


 ゆえにニィナが王城を抜け出したのは、結婚式前夜ではない。

 2日前の朝だった。


   ◇


 10月30日の早朝。

 ニィナは城に魚を届ける商人の馬車に潜り込み、何食わぬ顔で王都を出る。

 馬車は西門を出てゆっくりと街道を抜け、その日の夕方、西の港町に着いた。

 王都から一番近い港町は、明日の祝祭を前に浮き足だっており、よそ者であるニィナにも注視する者はいない。

 ニィナは明日の乗船までの時間を、宿屋でのんびり羽を伸ばして過ごすことに決めた。


「勝ち確ね♪」


 今頃、王城は蜂の巣をつついたような騒ぎだろう。

 王太子の結婚という国を挙げてのイベントを前に、肝心の花嫁が消えたのだから。


「ホント、バカばぁ~っかり!」


 港町の夜風は潮の匂いを運ぶ。

 せっかく海辺にいるのだ。新鮮な魚とエールで祝杯といこう。

 ニィナは軽やかな足取りで宿を出た。


 ――その背を。


 夜空の上から、“何か”が静かに見下ろしているとも知らずに。


   ◇


 一方、王城内はニィナの予想通り、地獄の様相を呈していた。


 3日前から体調不良を訴え、部屋に引きこもっていたはずの婚約者。

 食事も取っていないと聞き、心配したユリシーズが、廊下から声をかけたが応答は無い。

 鍵を使って扉を開けると、そこにあったのは、もぬけの殻の部屋だった。


 贈った宝石は全て消え、争った形跡もない。

 ユリシーズが教えた王族用の隠し通路には、彼女のイヤリングが片方だけ落ちていた。

 状況から見て、自らの意思で去ったとしか考えられない。


「どういうことだ。ニィナ……何故……」

「泣いている場合か、この愚か者がッ!」


 王エルドリックの怒号が玉座の間に響く。

 しかし、その声もユリシーズの耳には届かないらしく、焦点の定まらぬ瞳が泳ぎ、ぶつぶつと虚空に向かって呟いている。

 愛と信じていたものが、砂のように崩れていく。

 それを受け止めきれていないのだろう。


「すでに各国の使節は到着している。今更、中止にはできぬのだぞ? 行き先に心当たりはないのか?!」


 男爵邸も捜索されたが、手がかりは無し。

 一日経っても消息は(よう)として掴めなかった。


「仕方がない。ニィナの体調不良により、結婚式は明後日に延期。明日の結婚披露パーティーは花嫁不在で執り行うと触れを出せ」

 

 大国であるこのゼフィロス王国の威信にかけて、花嫁に逃げられたことは、何があっても外部に知られてはならない。

 だが、パーティーはまだしも、結婚式は流石に花嫁無しに行うことはできない。

 時間稼ぎをしている間にニィナを捕えるか、背格好のよく似た女を代役に立てるか……。


「ニィナ……ニィナ……」

「黙れ!」


 愚かな後継者を持ったことに、エルドリックは深く息を吐く。


 狂乱の夜が続く王都の上空で、祝祭の灯りが揺れている。

 笑い声と太鼓の音の裏で、追跡と裏切りの糸が、静かに絡み合っていた。


ご覧いただきありがとうございます!

完結まで書き溜めておりますので、順々に投下していきます。

お楽しみいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ