表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寄生悪役令嬢は星間戦争の夢を見るか  作者: エシェリキア梱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/113

第27話 良き隣人


「失礼ですが、お父上からは、何も?」

「その、父はただ……『良き隣人によろしく』、と」


 その瞬間、イブリムは思い切り吹き出した。


「なんと! 公爵様もお人が悪い。何の予備知識も無くこの状況とは……さぞ驚かれたでしょう」

「……はい」


 別れ際、ラドクリフが見せた含みのある笑顔を思い出す。

 なるほど、このサプライズのためか。

 本当に食えない父親である。


 おかしくて(たま)らないといった様子のイブリムは、肩を震わせながら言った。


「“良き隣人”とは、妖精のことですよ」


 妖精は知っている。蝶や蜻蛉(とんぼ)に似た羽を背中に生やした、神話や御伽話(おとぎばなし)に出て来る生き物。小さくて可愛いらしい外見だが、気まぐれで、悪戯(いたずら)で、時に人間に害を加えることもある。

 ゆえに、“良き隣人”というのは、妖精たちの機嫌をうっかり損ねたとしても、どうか悪さをしないでほしい、という願いを込めた呼称らしい。


「……私が知っている妖精とは、随分(ずいぶん)違うようですわ」

「ええ。神と人間の間にある存在、という意味では近いのですが」


 イブリムは静かに続けた。


(はる)か昔、古代イアポニアの人々は、山や川、木々、雷、風……あらゆるものに神が宿ると信じていました。人智(じんち)を超えたものは、善悪では簡単に分けられない。そのため、時に神と呼び、時に妖怪と呼んだのです。この地では、それらをまとめて(あやかし)、と呼んでおります」


 クラウディアは給仕達を見る。小さな(ねずみ)の姿の彼らは、真剣な顔で料理を運び続けていた。

 イブリムがクラウディアの視線の先を追い、補足した。


「彼らは衛生に関して、人間以上に厳しいですよ。この地では皆、風呂好きで、毎日入ります。仕事前の手洗いはもちろん、毛一本落とさぬようブラッシングも欠かしません」


 そして説明を続ける。


「街までお供したのが“送り(すずめ)”。屋敷まで案内した日吉(ひよし)が“猿神”。湯殿にいたのが“水の精(みづのたま)”。この街では、(あやかし)たちが人間と共に暮らし、働いているのです」


 イブリムは遠くを見るような目をした。


「私もここへ来たばかりの時は驚きましたよ。人間より遥かに大きいもの、見目の恐ろしいものもおりますからね。共通しているのは、彼らが人間に対して(えき)になるか災いになるかは、その人間の行い次第、という所です」

「見た目で判断できないということ?」

「ええ。人間にだって善人と悪人がいますが、一見しただけでは分からないでしょう。美しい顔で容易(たやす)く人を(あざむ)く者もいれば、強面(こわもて)で心優しい者もいる」

「ええ……本当にそうね」


 クラウディアは小さく頷いた。

 ユリシーズの顔が一瞬、浮かぶ。ユリシーズも、見た目は優しげな貴公子だったが、中身はあの通りだ。


 イブリムは言った。


(あやかし)たちは義理堅い。恩を受ければ必ず返す。逆もまた然り。彼らはとても純粋なので、その反応が非常に顕著(けんちょ)なのです。慣れてしまえば、恩知らずの人間なんかより、よっぽど付き合いやすい連中ですよ」


 そう言った彼の目には、少しだけ遠い過去の影があった。

 イブリムは29歳の頃、上司の不正を告発したが、その男は上位貴族の息子だった。結果、逆に罪を被せられ、彼はこの地へ左遷(させん)された。

 他の職員も似たように、(あざむ)かれ、故郷をも追われ、行き場を失った者達。

 この地で彼らを迎えたのが、(あやかし)たちだった。

 情を情で返す存在は彼らの傷を、少しずつ(いや)したに違いない。


「街で人間の姿を見かけましたが、彼らは?」

「流刑者や管理人の子孫もいますが、重税で食い詰めた者も他領から流れてきます」


 捨て地イアポニアには税が無い。餓死(がし)するくらいなら、とこの地を目指す者は少なくない。

 一本道の峡谷(きょうこく)には監視がおり、悪人は追い返すが、善き者はこの街へ案内する。そうやってこの地に定着した者には、(あやかし)と結ばれる者もいるという。

 イブリムは少し照れくさそうに「……実は私もその一人でして」と言った。


 彼が(あやかし)と結ばれたという告白に、ソーニャが初めて「……生物学的に、生殖は可能、なのですか?」と無機質かつ明け透けな疑問を呈したが、イブリムは笑って「愛があれば、そんなことは些事(さじ)ですよ」と返した。


「領地の詳しい話は、また明日、改めて管理事務所でご説明いたしましょう。」


 (あやかし)たちと過ごす初めての夜。

 宴は、まだまだこれからだった。


ご覧いただきありがとうございます!

完結まで書き溜めておりますので、順々に投下していきます。

お楽しみいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ