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寄生悪役令嬢は星間戦争の夢を見るか  作者: エシェリキア梱


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第26話 歓迎の宴


 “浴衣(ゆかた)”という簡素ながら機能的な衣に身を包み、一行は広間へと足を踏み入れた。

 廊下の床は木で出来ており、歩くたびにかすかに柔らかな軋みを返す。磨き込まれた柱からは樹脂の甘い香りが漂い、障子(しょうじ)と呼ばれる紙張りの引き戸からは淡い光が差し込んでいた。


 広間に入った瞬間、クラウディアは思わず足を止めた。そこには5人の人間が、床に手をついて待っていたからだ。


 両手を床に置き、深く頭を下げるその姿は、王国の礼とは明らかに違う。異教徒が神に祈りを捧げる時のような、徹底した恭順(きょうじゅん)の姿勢だった。


「ようこそクラウディア様。一同、御到着の日を、心よりお待ち申し上げておりました」


 Vの字に並んだ五人の中央にいた、白髪混じりの男が静かな声で言う。父ラドクリフが話していた、王領だったときの管理人だろう。

 年の頃は60手前。背筋はぴんと伸び、眼差しは鋭く、それでいてどこか誠実な温かみを感じさせる人物だった。


「私はイブリムと申します」


 そう名乗ると、男は再び深く頭を下げる。


「クラウディア様がこの地を統治されるにあたり、公爵家にて我々を引き続き雇い入れていただきましたこと、職員一同、心より感謝申し上げます」


「いいえ、いいえ。こちらこそ、よろしくお願いします」


 あまりにも深い礼に()(たま)れなくなり、クラウディアも慌てて膝をついた。

 父ラドクリフが、なぜ彼らを雇用し直したのか。その理由は、彼らの瞳を見ればわかる気がした。


 広間に敷かれている床材は、乾いた草を編んだような不思議な素材だった。足をつくと、わずかに沈み、柔らかな感触を返してくる。干し草に似た香りが鼻をくすぐった。

 足裏に伝わる畳の感触は、王宮の冷たい石床とは対照的な、生命の温もりを宿している。これなら絨毯(じゅうたん)などいらない。

 しかし床に直接座ることに慣れていないクラウディア達を見て、イブリムはすぐに小さな椅子を用意させた。


「どうぞこちらを」


 互いに挨拶(あいさつ)と自己紹介を終えると、イブリムが軽く二度手を打つ。

 すると奥の戸が開き、給仕達が現れた。

 小さな卓を両手で持ち、静かな足取りで広間へと入ってくる。彼らは一列に並び、次々と料理の乗った(ぜん)を並べていった。その動きは流れる水のように滑らかで、優雅だった。

 プロの給仕だ。それは間違いない。


 だが――どうしても、どうしても気になってしまう。

 クラウディアの横では、パーシヴァルが石像のように固まっていた。


 理由は単純だ。

 給仕達の姿が、どう見ても(ねずみ)だったからである。


 体長は50センチほどの彼らは揃いの着物を身に(まと)い、(ひげ)を誇らしげにピンと立てて、一切の音を立てずに膳を運んでいる。


「クラウディア様の御着任を祝しまして、ささやかながら宴を用意させていただきました」


 目の前に並べられたのは、見たことのない料理ばかりだった。

 山の幸、海の幸をふんだんに使った祝祭の御膳。野菜は花のように飾り切りされ、魚は光るような(つや)を持ち、皿の色彩は目にも楽しい。

 だが使われている食材は、どれも王都では見たことのないものばかりだった。

 箸を使えないクラウディア達のために、ナイフやフォークなども用意されている。繊細な味を邪魔しないようにと、カトラリーは金属製ではなく、木製だ。


 まずはスープに見える料理を口に運ぶ。澄んだ金色の汁の中に、円柱形の白い野菜が浮かんでいた。

 (かじ)った瞬間、クラウディアは思わず目を見開いた。口の中で汁が弾けたからだ。


《う……ぅ……っまぁ……はあ……!》


 驚くほど濃い旨味。海の香りが一瞬で口内に広がる。ブイヤベースよりずっとシンプルなのに、味は(はる)かに深い。繊細で、静かに味蕾(みらい)を開いていくような感覚だった。

 見た目は華美ではない。だが、一皿ごとに滋味(じみ)がある。

 気付けばクラウディアは夢中で食べていた。


「お気に召していただけたようで、何よりです」


 イブリムが微笑む。見た目からは想像できない食べっぷりに感心したのか、彼は追加の膳を注文した。


「もしよろしければ、こちらも」


 差し出されたのは、小さな容器。中には無色透明の液体が入っている。


「ワインもよろしいですが、その土地の料理には、その土地の酒を合わせるのが一番でございます」


 クラウディアは盃を口へ運んだ。花のような甘い香り。舌に触れた瞬間、驚くほど滑らかに広がる。

 アルコールはワインと同じくらいだろうか。だが後味は鋭く、すっと切れる。辛口。好みの味だ。


「これは?」

「ポンシュ、と言います。イアポニア特有の穀物を(かも)した酒でして」


 イブリムは楽しそうに言う。


「温めても良し、冷やしても良し。魚にも肉にも合う、懐の深い酒ですよ」


 旨い料理。旨い酒。これで機嫌が悪くなる人間などいるはずがない。

 酒に酔わない体質のクラウディアですら、心地よい浮遊感を覚えていた。ふわりとした気分のまま、クラウディアは思い出したように口を開く。


「あの……この街について、聞いてもよろしいでしょうか」


 ――その問いに、イブリムは意外そうに首を傾げた。


ご覧いただきありがとうございます!

完結まで書き溜めておりますので、順々に投下していきます。

お楽しみいただければ幸いです。

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