表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寄生悪役令嬢は星間戦争の夢を見るか  作者: エシェリキア梱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/112

第20話 海辺の街


 クラウディアの一行はゼフィロス王国を横に突き切る形で、東端の港町に到着した。


「これが、海なのですね……!」


 王都の(おり)を抜けた一行を迎えたのは、潮の匂いと、自由だった。

 港には大小さまざまな船が停泊(ていはく)し、帆布(はんぷ)がきしむ音や、縄を引く掛け声、荷を運ぶ男たちの怒号(どごう)が絶えない。


 ここからは海岸線に沿って南下しながら、イアポニアを目指す予定だ。まっすぐ東南の進路を取らなかった理由の一つ――それは、新鮮な北の海の幸を楽しむためである。


「美味しい!」


 到着早々、市場の屋台で貝の串焼きに(かじ)り付いたクラウディアが、感嘆の声を上げた。炭火の香ばしさと、(あふ)れ出す出汁が口いっぱいに広がる。

 王都の洗練された宮廷料理にはない、シンプルな調理ゆえの、命そのものの味。

 ジャスパーは、クラウディアの味覚神経から送られてくる強烈な塩分と旨味のパルスを、歓喜(かんき)と共に処理していた。


 屋台飯を立ち食いとは、貴族令嬢としてはあるまじき行為だろう。だが(ごう)に入っては(ごう)に従え、である。それに、この一行はすでに主人の行動に慣れ切っていた。

 見た目に反してお転婆(てんば)な主人が、串焼きを口一杯に頬張(ほおば)っていても、誰も(とが)めはしない。


 内陸から海沿いへ移動すると、空気がまるで違う。湿(しめ)り気を含んだ風。肌を()でる潮の匂い。遠くから聞こえる波の音。

 海からの距離で、気候はこれほど変わるものかとクラウディアは驚いた。これも書物ではけして得られぬ知識である。


 各領地ごとに衣装にも特色がある。

 そのためクラウディアは、領地ごとに新しい服を買って着てみることにした。

 王都からかなり離れたこの港町では、装いもまた実用的だった。男は漁へ出て、女は市場で魚を売る。ゆえに男女ともに動きやすさが重視される。


 港町の街娘の衣装に着替えたクラウディアは感動した。

 ドレスは膝丈(ひざたけ)、袖も短く、腰回りは圧倒的に軽い。


《コルセットが無いとこんなに楽だとは…!》


 すらりと伸びた健康的な脚、潮風で少し乱れた結い髪。

 その姿は、まるで海神の愛娘が地上へ遊びに来たかのような、奔放(ほんぽう)(まばゆ)い生命力に溢れていた。


 そして、初めて見る水平線。

 どこまでも続く水の風景に、ジャスパーは圧倒されていた。


《すげー量の水だ!》


 水の無い惑星の方が多いというのに、この星の大半は海なのだという。この水は、どこへ繋がっているのだろう。


 クラウディアは防波堤(ぼうはてい)から身を乗り出すように海を(のぞ)き込んだ。


「ね、パーシヴァル卿。貝がこれほど美味しいんですもの、きっと海の水も美味しいのでしょうね」

「いや、塩辛くて飲めたもんじゃないですよ……って、おい、バカ、あまり身を乗り出すな。落ちたらそれこそ海水の味を嫌というほど知ることになるぞ」


 後ろから声をかけたパーシヴァルもまた、この街に馴染(なじ)んでいた。

 港町の男たちと同じように、胸元を大きく開けたシャツ姿。

 日焼けした肌、シャツの隙間から(のぞ)く厚い胸板。彼が歩くだけで、地元の女たちの視線が吸い寄せられ、空気の温度が上がる。


《これまでは鎧で隠していたが、この男、生物としての『(おす)』の出力が高すぎるな》


 女性からの秋波(しゅうは)には慣れっこなのか、気にも留めていない様子。

 ナチュラルボーンモテ男のパーシヴァルに少しもやっとしながら、クラウディアは屋台に視線を戻した。


「それより、今度は白身魚のフリットが食べたいわ。あと、エールももう1杯……ああ、うそ、やっぱり2杯ね!」

「はいはい、お姫様。待ってな」


 パーシヴァルは肩をすくめた。クラウディアの護衛をユグドに任せ、屋台の方へ向かう。

 将軍まで務めた男をパシリに使う令嬢など、そうそういない。だが不思議なことに、パーシヴァルはそれを嫌だと思わなかった。


 ――むしろ、この距離が、妙に心地よい。


 屋台の親父から揚げたてのフリットとエールを受け取り、戻る。その頃にはクラウディアは、貝焼きを5串も平らげていた。そしてすぐにフリットへ手を伸ばす。


「ユグドは?」


 パーシヴァルが差し出すと、ユグドはフルフェイスの(かぶと)の下部だけをぱかりと開けた。そこからフリットを差し込み、もぐもぐと食べる。

 相変わらず謎の食事スタイルである。


 北の港町は風が心地よい。だが暑い領地でも、ユグドは(かたく)なにフルプレートアーマーと兜を脱がない。それでもへばる様子はないところを見ると、細身に見えるが体力は相当あるらしい。


 そういえば侍女はどこだ、と周囲を見回すと、ソーニャは露店(ろてん)甘味(かんみ)を仕入れて戻って来るところだった。


(おいおい、まだ食うのかよ)


「んー、おいしー!」


 クラウディアは、砂糖を振った一口大のカステラを栗鼠(りす)のように頬張る。もぐもぐと咀嚼(そしゃく)に合わせて頬がふくらむ。

 砂糖が口の端に付いている無防備な顔を見た瞬間、パーシヴァルの胸の中で、ある境界線が音を立てて(きし)んだ。


(かわい……いや、いかん)


 視線を逸らす。

 だが一度生まれた感情は、そう簡単には消えない。

 冷たいエールで喉の奥の熱を流し込む。


 ――それでも、目の端で追ってしまう。


「……パーシヴァル卿、顔が赤いですよ? 潮風に当たりすぎましたか?」


 無表情な侍女の冷静な指摘に、元将軍は慌てて顔を背けて海を見据えた。


ご覧いただきありがとうございます!

完結まで書き溜めておりますので、順々に投下していきます。

お楽しみいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ