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寄生悪役令嬢は星間戦争の夢を見るか  作者: エシェリキア梱


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第16話 新しい仲間


 公爵家では慌ただしく、クラウディアの出発準備が進められていた。

 箱入り令嬢の独り立ちである。しかも向かう先は、王国の版図(はんと)の果て――イアポニア。どれだけ準備しすぎても困るということはないだろう。


 家令は帳簿を片手に、広い倉庫と衣装部屋を何度も往復していた。

 手持ちのドレス、靴、装飾品の確認。

 それだけではない。気候風土の情報が少ないイアポニアで過ごすために必要となりそうな物を、思いつく端から買い集めていた。

 雨具。薬草。保存食。異国の礼儀作法を記した本。


「これも要るかもしれない……いや、あれもだ」


 半ば独り言のように呟きながら、商人へ次々と注文を出す。物自体は潤沢(じゅんたく)な資金でなんとでもなる。

 問題は帯同(たいどう)する使用人であった。


 公爵家の使用人には、身元が確かであることが求められている。当然、相応の家の出自を持つ者ばかりだ。王都に家族がいる以上、地の果てであるイアポニアへ行くとなれば、どれだけ忠誠心が(あつ)くとも、二の足を踏むのは仕方のないことである。

 かと言って、新規に雇用するにしても、この条件で応募する人間は、何かしらの事情を持った者ということになる。それはそれで、信用という点で不安が残る。


「そんなにたくさんは要らないわ。侍女と護衛、それぞれ1人もいれば十分よ」


 クラウディアはあっさりと言った。だが家令からすれば、とんでもない話である。

 公爵令嬢ともなれば、普通は10人程度の従者を連れて旅をするものだ。新天地での生活を思えば、それ以上の使用人を雇用しないと……。


 主人である公爵、ラドクリフに相談したいが、こんな時だというのに、何故か領地の視察へ行ってしまっていた。

 そもそも、主人と娘であるクラウディア様との間には、親娘としての関係性が非常に薄い。

 婚約破棄についても、慰謝料として捨て地イアポニアを拝領したことについても、王家に対して何の抗議もせず、ただ静観を貫いた。

 長年仕えてきた家令には、主人の考えがどうしても理解出来なかった。


 氷の公爵――ラドクリフ・リーベル。

 確かに感情表現は豊かとは言いがたい。だが領地に常に善政を施している、心ある人物だと尊敬している。

 奥様がクラウディア様を産んだ後、産後の肥立ちが悪く、すぐに(はかな)くなられた。そのことが原因なのだろうか。旦那様がクラウディア様を可愛がる姿を、家令は一度も見たことがなかった。

 血の(つな)がらない自分ですら、小さい頃から世話をしてきたお嬢様のことを、本当の娘のように思ってしまうというのに。


 そんな折である。

 公爵から招聘(しょうへい)を受けたという人物が、公爵邸の門前に現れた。公爵家の家紋の封蝋(ふうろう)が施された封筒。

 しかし、それを携えた3人は、どう見ても、公爵家に相応しいとは思えない風体だった。


 護衛騎士として招かれたという男は、確かに立派な体躯(たいく)の持ち主だった。鳶色(とびいろ)の髪と瞳。年の頃は30代前半。

 だが一方で、目を引くのはその顔である。大変な美丈夫でありながら、右頬に斜めに走る古い傷跡があった。受傷した際の矢に神経毒が塗られていたらしく、右半身には軽い(しび)れが残り、右眼の視力はほぼ無いという。


「果たしてこれで護衛が務まるのか……」


 家令の胸に不安がよぎる。


 だがその不安は、次の人物を見たことでさらに強くなった。

 フルフェイスの(かぶと)と鎧の戦士。痩躯(そうく)で、明らかに体格が鎧に追いついていない。相当な重量があるフルプレートメイルに、まるで着られているような状態だ。

 そのうえ面接の場でも(かぶと)を脱ごうとせず、こちらの質問に(うなづ)くか、首を振るだけで声すら出さない。

 筆談でユグドと名乗ったこの男は、護衛どころかコミュニケーションが成立するかどうかすら怪しかった。


 そして最後の1人。側付きの侍女、ソーニャ。

 分厚い眼鏡をかけた()せっぽっちの少女。くすんだ青鼠(あおねず)色の髪を野暮(やぼ)ったい三つ編みにしている。このセンスのなさで一体どうやって、クラウディア様の装いや髪を整えることが出来るというのか……。


 家令の頭の中では疑問符が乱舞(らんぶ)していた。

 色々と思うことはあれど、人員募集の結果は(かんば)しくない。

 何より公爵自ら選んだ人間を、家令風情(ふぜい)が断れるわけもない以上、選択の余地はなかった。結局、面接は形だけとなり、家令は3人をクラウディアの前に引き合わせた。


 直接の主人となるクラウディア様が断るのであれば、この話は無かったことに出来る。

 そう期待していたのだが――クラウディアはこの3人をいたく気に入ったらしい。

 しかも、スカーフェイスの男は顔見知りだった。


「グラハド将軍!」


 クラウディアが驚きの声を上げる。男は静かに頭を下げた。


「ご無沙汰しておりました、クラウディア様。もう将軍ではありません。どうかパーシヴァルとお呼び下さい」


 パーシヴァル・グラハド。その名は軍人でなくとも知っている。

 平民から一代限りの騎士階級へ、そして叩き上げで将軍にまで上り詰め、幾度も帝国軍を退けた英雄。王国の守護神。その武勲(ぶくん)により国宝の宝剣と領地を(たまわ)り、北の辺境伯にまで陞爵(しょうしゃく)した立志伝中の人物である。

 だが帝国の毒矢に倒れてからは、将軍の座を退き、自領で静養していたはずだった。


「こんな体では役に立てないと断っていたのですが……」


 パーシヴァルは少し困ったように笑う。


「公爵様から何度も熱心なお誘いをいただきまして」

「……お父様が?」

「ええ。貴女のことを深く愛していらっしゃるのが、手紙から伝わりました。私もその熱意に応えたいと思ったのです」


 クラウディアは言葉を失った。

 記憶の中の父は、親子らしい会話すらほとんど無い存在だった。この招聘(しょうへい)に何か企みでもあるのかと勘繰(かんぐ)らざるを得ない。


 だが――人選は文句のつけようがない。


《なんという強者か、気に入ったぞ!》


 ジャスパーが内心で歓声を上げる。


 その視線は、パーシヴァルの肉体を透かすように観察していた。右目の光を失い、右手に不具合を残しながらも、その(たたず)まいは1本の()ぎ澄まされた大剣のようだった。

 想像を絶する努力と、数えきれない死地を越えてきた気配がある。

 筋肉の収縮、重心の置き方、周囲への目配り、反応速度――すべてが大型の肉食獣のそれだ。


 そして、もう1人。


《こっちもただ者じゃないな》


 ヒョロっこい見た目とは裏腹に、実戦を重ねた猛者(もさ)の空気を(まと)っている。

 パーシヴァルのような正統派の剣ではない。暗器――裏の戦いに生きる者のそれだ。


 なかなか面白い人脈を持つ父親だ、とクラウディアは興味を抱いた。


 騎士1人。戦士1人。侍女1人。

 僻地(へきち)で静かに暮らすには、十分すぎる布陣だった。


ご覧いただきありがとうございます!

完結まで書き溜めておりますので、順々に投下していきます。

お楽しみいただければ幸いです。

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