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寄生悪役令嬢は星間戦争の夢を見るか  作者: エシェリキア梱


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第11話 欺瞞の密室裁判


 公爵令嬢を人々の好奇の目に(さら)すわけにはいかない。

 そんなもっともらしい建前のもと、非公開の私的な裁判は、式典から一週間後、王城の奥まった一室で行われた。

 高い天井から吊るされた豪奢(ごうしゃ)なシャンデリア。重厚な調度で飾られた応接室。

 だが、本来ならば厳格な手続きが行われるべき裁判の場としては、あまりにも即席で、あまりにも内輪の空間だった。


 それは公平な審理を放棄し、王太子のわがままを法の名のもとに追認するためだけの、密室劇。


 被告――公爵令嬢クラウディア・リーベル

 原告――王太子ユリシーズ

 裁判官――国王エルドリック

 立会人――宰相ラグナ


 それだけ。

 書記も陪審(ばいしん)も、弁護人すらいない。

 事前の事情聴取も無しに、この少人数で一気に片をつけようというのだから、呆れたものだった。


 クラウディアが抗弁(こうべん)のため、罪状やそれが行われた日時について記載された書類の写しを要求したのは5日前。

 だが実際にそれが届いたのは、わずか1日前。

 反論の余地など与えず、一気に有罪まで駆け抜けようという、その稚拙(ちせつ)なまでの悪意。


 被告席に座るクラウディアを、ユリシーズは勝利者の余裕を(たた)えて見下ろしている。

 自分に圧倒的に有利な舞台であり、式典での宣告の後始末に過ぎない――そう思っているのだろう。


「まず最初に言っておくが」


 ユリシーズは腕を組み、鼻で笑った。


「僕は慈悲深い人間だ。お前がここで罪を認め、ニィナに誠心誠意の謝罪をするというなら、多少の情状酌量じょうじょうしゃくりょうは考えてやってもいい」


 その言葉は、慈悲を装った傲慢(ごうまん)そのものだった。

 クラウディアは答えない。

 ユリシーズはさらに声を大きくする。


「だが、お前のやったことは許されるものではない!」


 そこから始まったのは、彼が脳内で作り上げた『悪女クラウディア』の独演会だった。


 学園での嫌がらせ。

 暴言。

 陰湿(いんしつ)ないじめ。

 倉庫への監禁。


 果ては王妃のティアラの宝石盗難まで、辻褄(つじつま)の合わない罪が次々と積み上げられていく。


《おいおい、もはや創作文学の域だな。しかも随分とお粗末だ》


 独演会は言い過ぎたようだ。

 これは、お遊戯会だな。


 不完全燃焼だった式典の続きとばかりに、ユリシーズは滔々(とうとう)とクラウディアの悪行を(まく)し立てた。

 その一方で、クラウディア側に弁護する者はいない。

 戦況は完全に詰んでいる。


《まあ、俺がついてなけりゃの話だが》


 ジャスパーは、ユリシーズが熱弁を振るう間に、クラウディアの指先を動かしてティーカップに手を伸ばした。


「ユリシーズ様のお話、しかと(うけたま)りました。……さりながら、それは事実ではございません」


 その静かすぎる否定に、ユリシーズの顔が怒りで赤らむ。


「まだそんな嘘を!」


 机を叩こうとしたその瞬間。


「ユリシーズ。少しはクラウディアの話も聞きなさい」


 国王エルドリックの重い声が、暴走する息子を制した。


 その隙に、宰相ラグナが助け舟を出す。


「クラウディア嬢。申し開きがあれば、ぜひこの場で」


 ラグナとしては精一杯の助け舟だった。

 式典の夜からこれまで、自分に良くしてくれていた彼に、クラウディアは軽く頭を下げて謝意を示す。


「ありがとうございます。それでは反証のため、お呼びいただきたい方と、お持ちいただきたい資料がございます」


 用意していた紙をラグナに差し出す。

 ラグナはリストに目を通すと、その眉がわずかに動いた。しかしすぐに表情を戻し、部屋の外にいた部下へ指示を出した。

 リストのものが(そろ)うまでの間、部屋は奇妙な静寂に包まれた。

 沈黙で張り詰めた空気が、針のように肌を刺す。


 その沈黙を打ち破ったのは、クラウディアがキッシュを咀嚼(そしゃく)する、軽やかな音だった。


 本来ならば最も緊張と不安を感じているはずの彼女がなぜか平然と、目の前の三段ケーキスタンドから料理を取り、優雅に食べ、呑気(のんき)に茶を(すす)っている。


 ホウレンソウとブルーチーズのキッシュ。

 ミートパイ

 クロテッドクリームを添えたブルーベリーのスコーン。

 きゅうりのサンドウィッチ。

 小ぶりのエクレアとマドレーヌ。


 クラウディアはこの場にいる4人分の量を、次々と胃に納めていく。


 裁判の最中に、黙々と、しかし完璧な優雅さでスコーンにクロテッドクリームを塗るその異様な光景に、ユリシーズの背筋を得体の知れない寒気が走った。


(こんな太々しい女だったろうか…?)


 元々、可愛げのない女だったが、この状況でこの落ち着きは何だ。

 普通はもっと取り乱すものだろう。

 身も世もなく泣き叫び、僕に(すが)りついて許しを乞う。

 そうすれば、一夜くらい情けをかけてやってもいいと思っていたのに。


(まさか勝ち目があるとでも?)


 ユリシーズは鼻で笑う。


(馬鹿が。王家に楯突(たてつ)いてまでお前を(かば)う奴などいるものか)


 クラウディアがアリバイを訴えても、証人になり得る学園関係者や騎士はすべて王家の雇用だ。

 雇い主に逆らうはずがない。


(いつもいつも、取り澄ました態度で、(さか)しらに振る舞って、僕の顔をつぶしやがって……だが、今日こそ僕の勝ちだ)


 ユリシーズが心の中で勝利宣言をする一方で、クラウディアは最後のマドレーヌを食べ終えた。


《うっま。さすが王城。菓子までレベルが高ぇな》


 ティーポットの中の紅茶を全て飲み干し、薄い唇をナプキンで押さえる。


 その時、扉がノックされた。


「陛下。御所望(ごしょもう)の方々と資料が(そろ)いました」


 クラウディアの瞳に、獲物を追い詰めた狩人のような仄暗(ほのぐら)い輝きが宿った。


ご覧いただきありがとうございます!

完結まで書き溜めておりますので、順々に投下していきます。

お楽しみいただければ幸いです。

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