第六七話 ゴーストバスターズ
「まさかあの二人と会長があんな関係だったとはなぁ。一条はーーまぁ、あの三人の中では信用できる方かな。九十九に比べたらだけど」
「まーまー。あの人が来たら話が拗れてただろうから来なくて正解」
「だけどなぁ、誠意ってのを見せてもらわないと」
「まーまー」
「悠長な反応してる場合か。あの時は本気で心配したんだぞ。俺だってクラスのみんなだって、それに黒金さんも」
「ん?」
今日の夕食はパスタ。クリームたっぷりのカルボナーラ、雅はナポリタン。なんだかんだと一条と長く話したせいで夕食を用意する時間がなく、雅がおすすめの店でデリバリーディナー。フォークでぐるぐると麺を巻いていた瞬間だった。雅の口から聞きなれない名前が飛び出る。
「あれ、言ってなかったっけ。お前が誘拐された時に協力してくれた人。アンティークコレクターだっけな。鞠沙のドラマで使うティアラとか……あとなんつったっけ。貴重なコレクションのーー」
「『レリック』」
「そうそう! それを譲ってくれた。結局リドルに取られたけど。よく知ってんな? 年の功?」
「・・・あ?」
「ひっ」
今、コイツは踏み入れてはいけない領分に踏み込んだ。
それは紛れもない事実。経験豊富といわれるのはまだいい。けど、なに? 年の功? そんな言い方、まるでわたしがヨボヨボのばぁさんじゃないか。元気かといわれると悩む、けど、育ち盛りな十代だ。
わざわざこの身体はピっちピチの若い娘に調整してもらったんだぞ。それをわかってるのか? あぁん?
「……雅、くん?」
「は、はぃっ」
「今後、わたしの経験値をバカにしたら大変なことになりますから。口を慎むように」
「はいっ! ち、ちなみに大変なこと、とは?」
「ここでまた事件が起きるでしょう。世にも奇妙な完全犯罪。小説じゃないの。現実のやつ。証拠がないからだーれにもわからないの。怖いでしょう? 雅くんも困っちゃうよね?」
「承知しましたっ!」
◇
威勢のいい返事の効果か、うんともすんとも言わずとも片付けを率先してくれた。なのでわたしは優雅にテレビ鑑賞。
といっても観たいものがあったわけじゃなく、ただ単に権力とこの家の主人を誇示するため。せっせと働く横でゲラゲラ笑って怠けるほどの至福はない。わたしはそう学んでいる。
たまたま他の番組に切り替えると芸能人のクイズ大会、頭のいい人もおバカも混ざった早押しクイズをやっていた。生憎わたしは全くといっていいほど芸能人を知らない。そんな中ただ一人、顔馴染みの女優がいた。
「日本では『ミシュランマン』の愛称として親しまれているマスコットの名前は?」
「……マシュマロマン!」
「それは映画のやつや!」
会場がドッと湧く。鞠沙は「はずかしー」と顔を真っ赤にして両手で顔を隠す。あどけないフリをして周りを賑わせる。テレビの向こう側にいる鞠沙と学校の鞠沙、そして雅といる鞠沙とでは丸切り別人だ。どれが彼女の本体なのだろう。魔性の女というのは恐ろしい。
「アイツ、すごいよな。ドラマの撮影した後、これだぜ」
先ほどのご機嫌取りのつもりなのだろう。ぼうっとしていたわたしの前に雅がみかんを運んできてくれた。
へぇ、気が利くじゃないか。やっぱり冬にはみかんだよね。みかんといえば無性にこたつが恋しくなる。東京で暮らしていた時は愛用していたんだけど壊れて引越しの時に捨てちゃった。新しいの買おうかな。
でもコイツがいるとなぁ、ちょーーーっと籠ってるだけでうるさそう。コイツがいると熱々のおいしージュースも飲めないし、悠々自適な一人暮らしのためにも早めに引越し先を見つけないと。でもないよなぁ……
「いや! ある!」
「急にでかい声出すな」
「おバカっ! あるんだよ、雅の新居!」
隣の芝生が青いとはこういうことを言うのだ。
この部屋の右隣は山本さんの家。そして左隣はわたしが引っ越してきてから一度も顔を合わせていない。てっきり事故物件に恐れをなして避難しているのかと思えば、梓さんが「お隣さん引っ越したみたい」と言ってたのを思い出した。
あれはいつだっけ。学園祭の少し前なのは確かだ。
雅が隣人になるのは良くはないが、同居人よりかは全然マシだ。生活に困るなら家政婦として雇っても構わない。
それを雅に伝えるの、なんとも神妙な表情を浮かべる。わたしだって隣人はやだ。だけどこれが最良の選択肢だと思う。今日はもう遅いから明日の昼にでも、蒼月に来る前に世話になった不動産屋に連絡しよう。そう、雅も納得してくれたーーが、やはり現実はわたしに残酷なことをする。
翌日、家を出ると外の共通廊下には無数のダンボール、そして、その荷物は次々と403号室へと吸い込まれていく。
その予感は時間を置くことなく、二重になって的中した。
「黒金燈凛です。なんだか変な時期の転入になりますが、一日でも早く慣れたいです」




