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リン・インカーネーション  作者: 天音亜入
第3章 幻想の赤月《ドリーミング・ブラッドムーン》
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第六五話 『U』nderground 『C』ommunity



「あいつら幼馴染なんだよ。小学生の時のお隣さん。雲雀と現場が一緒になるといっつも菊田の話を聞かされてた。『お隣の飛鳥ちゃん、好きなんだ』って」


「きゃっ! 甘ったるい恋バナだ。で、で、で?」


「食いつきがすごいな。初めて見た」



 学校からの帰り。わたしの勘でなんとなく雅が事情を知ってると思い、それとなく話を振ってみた。

 そうしたらビンゴ! 本人の口からは絶対に聞けないマル秘情報がサクサク出てくるわ出てくるわ。おかげでわたしの心の深層で眠っていた人類最古のロマンスが暴走してしまった。



 菊田飛鳥と祖父江雲雀は東京の家が隣同士。ちなみに祖父母の家が蒼月にあり、そこと瀬戸杏奈の祖父母の家がご近所さんで家族ぐるみの関係があったという。


 菊田が祖父江をどう思っているかはわからない。だが少なくとも祖父江の初恋の相手は菊田飛鳥で、高校は同じ学校でクラスメイトになったのは紛れも無い事実。

 こんなロマンス、神様の悪戯としか考えられない。きっとあの子かアイツの仕業。わたしとしてはもうゴールしちゃいなよ、と囁きたいところなのだが、どうもうまくいってないみたい。

 わたしの印象としてはむしろ逆で、二人ともいっつも喧嘩してるイメージ。



「焦ったいなぁ。祖父江も好きなら好きって言えばいいのに。飛鳥も喧嘩腰にならないで素直になればいいのに。他人の恋心に鈍感なんて信じられないっ! そういうのって普通は気づくと思うのに、わからないものなのかね」


「あぁ、まったくだっ!」



 学園の門を潜り、守衛さんに頭を下げて下校。まっすぐ家に帰ろうとモノレールの駅に向かうと道端に人影があった。



「おや、一緒にいるなんて都合がいいね。それともなに? 付き合ってるの?」


「……何か用ですか? 一条先輩」



 ふらりと姿を現したのは一条暁(いちじょうあきら)。

 長らく蒼月の地で信仰を集める月賀野寺の住職のご子息で、三年生の先輩で、学園祭の時にわたしを攫った誘拐犯の一味。彼は比較的に話が通じる方なのだが、信用に欠ける。


 開幕早々、人をおちょくるような発言に睥睨する。が、わたしの視界に雅が割り込んだ。



「警察呼びますけど」



 雅が珍しく怒ってる。キレてるレベル。でも当然だろう。



「冗談だって。気を悪くしたら謝る」



 一条は深々と頭を下げる。敵意はなさそうだ。

 雅と目を合わせてアイコンタクト。彼も同じようなことを考えていたようで、半歩下がってわたしの隣に立った。


 

「で、要件は?」


「贖罪、かな。とりあえずゆっくり話せるところに移動したい」


「……九十九先輩は?」


「アイツは自主的に謹慎中。僕に一任してくれたよ」



 周りに一瞥向けるも他に人影はない。当事者が揃わないなら話し合いの意味がないと思ったが、一任されているなら大丈夫……なのだろうか。ひとまずは一条の言葉を信じてみることにする。



「な、どうする?」



 耳打ちしてくる雅。彼はまだ一条を信用できない様子だ。その気持ちはよくわかる。

 だけどここで一条との対話を拒否すれば前には進めない。わたしも雅も知らないことだらけ。


 この蒼月で何が起きているのか。九十九と一条の動機。リドルとの関係。


 彼を許すか許さないかは話を聞いてからでも遅くはないはずだ。



「ならわたしの家にしましょう。誰かに聞かれる心配もありませんし。雅くんもうちに来るのは『初めて』でしょうけど、いいよね?」


 こちらの提案に吃驚する彼に無言の圧を飛ばす。雅の反応で一条に怪しまれたかもしれないが、まっ、そこは年頃の女の子の家に行くから、ということで。



    ◇



「まず話し始める前に……君たち二人には迷惑をかけた。謝罪する」



 マンションに到着し、一応は客扱いとのことでリビングに通したあとに麦茶でもてなそうとした。今は雅の家でもあるが、彼は役者の本能に則って部屋の中をキョロキョロとおぼつかない足取りであたかも初めて来たような素振りをしていた。適当に座ってて、と促すも到着早々、一条先輩が深々と頭を下げた。


 誠意はすでに伝わった。だから頭をあげてくれ。そう言おうとしたのに先に雅が口を開いた。



「まず、あの陰湿な怪盗との関係を教えろ」


「ちょっと、雅。それは今関係……」


「や、それが春夏冬くんの疑問なら先に解決しよう」



 雅は止まる気はなさそうだ。かの怪盗に相当恨みがある様子。これだけ入れ込んでいるとは思ってもおらず、今になって金美社長の言い分に少しだけ共感できた。



「結論から言うと僕も千早もリドルと会ったこともないし正体を知らない。僕らはただ『蒼月の至宝』を探すという利害の一致で協力しただけ。現に最後は裏切られたーーそれは春夏冬くんがわかってるだろう?」


「どうやってコンタクトを?」


「電脳掲示板さ。怪盗リドルの名前は現実の蒼月でもネットでも情報規制がかけられている。でも人の噂まではさすがに統制できないようで、蒼月に神出鬼没の怪盗がいること事態は知ってる人は少なくない。単に話題には出さないだけ。だから掲示板では『リドル』と呼ばず『UC』って呼ばれてるんだ」


「『UC』? どんな意味だろう」


「『リドル』を和訳すると『なぞなぞ』。キーボードのひらがな入力で『な』『そ』を打とうとすると『U』と『C』」


「ほう、さすが数々の名探偵を演じてきただけあるね」


「ごたくはいいので、さっさと続きを。要はネットの掲示板で知り合ったんです?」


「知り合ったというより向こうからコンタクトを取ってきたんだ。リドルの噂を語り合う板で千早が『蒼月の至宝を探してる』って書き込んだ翌日に、彼女の家のポストに連絡先が書かれた紙が投函されていたらしい」


「えぇっと、つまりリドルはネットに書き込まれたものを狙うってことですかね」


「いや、千早も吃驚してた。元々『蒼月の至宝』ーー八月朔日の行方を探していた彼女はダメ元で縋るようにリドルのファンコミュニティに書き込んだんだ。それをまさかリドル本人が見ているとは思わなかったし、リドルが食いついてくるとも思ってもいなかった」


「その連絡先ってのは?」


「メッセージアプリさ。そこで文字のやり取りを何回か重ねた。僕らが『蒼月の至宝』を探していることを伝えるとリドルも手を貸してくれることになった。僕らは……本人たちを前に説明するのは憚れるところだけど、当初の予定は八月朔日と最後に接点があったと思われる春夏冬雅から無理やり話を聞き出そうとしただけ。だけどそれを伝えたら成功率を高めたいと言い出して、バス停爆破で警察の出方を窺ったり、人質を使おうと提案してきたのもリドル。天塚さんを選んだのは春夏冬くんと面識があるからだと千早が話していた」


「……正直に教えてくれてありがとうございます。つまり最初からリドルは一人勝ちを狙っていたわけですね」


「あぁ! わかんねぇな! リドルは最初から《蒼月の至宝=八月朔日会長》ってわかってたのか?

 それともリドルはリドルで別の『蒼月の至宝』を探していて、先輩たちを利用しようとした……っ、わけわけんねぇ。あんたらはあんたらでリドルの正体を探らなかったのかよ?」


「もちろん試したともさ。だけど向こうは外国のサーバーを経由していたり、生半可なやり方じゃ本人に辿り着けないようになっていた。それに……最初に話したけど千早は掲示板に書き込んだだけ。それなのに次の日には本人の元に直接手紙が届けられていたんだ。これって要は『リドルは俺たちを特定できる』ってことだろう? 利害は一致していたとはいえ気味が悪かった」



 あらかた情報が出終わると重苦しいため息が連鎖した。

 結局リドルの正体はわからないまま。雅の鬱憤も晴らせないまま。全部リドルの手の上で踊らされていたという事実があまりにも重くのしかかった。



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