第六四話 二度あることはなんとやら
「にしても身体大丈夫なの? ほんとに天塚から翼が生えて撃たれたのかと思った」
「最近の技術はすごいですよね。わたしもビックリ」
「でも悪趣味だよ。血が流れるなんて心臓に悪い」
「雅くんにはちゃんと文句言っておきましたからご安心を。あれにはわたしも気絶しちゃいました」
「私が知らない間にステージの出演を取り付けるなんてちゃっかりしてるよね」
「急にアイツが頼んでくるからさぁ。誘拐の件もあるし、しょうがないなって」
「それもそっか。でもよりにもよって凛ちゃんに天使だなんてセンスないよ」
「ふふっ、だよね。めんどくさがりのづかちゃんには似合わないよ」
「アハハ、ドーモ」
散々な言われようだけど、こうして学食でクラスメイトと昼食を食べていると日常に戻ってきた実感が湧く。
これにて1年生最大のイベントは閉幕。来年からはどんなイベントが待っているのだろう。今年みたいなのはお断りで、次があればもっと純粋に楽しみたい。
学園祭の打ち合わせ頃から結月志保、瀬戸杏奈、菊田飛鳥の四人で行動する機会が増え、昼食も自然と四人で集まって済ませるようになった。
さすがは現役女子高生だと感心することばかりで、わたしはうどんとかそばとか定番のオーダーばかりなのに、他の三人はアボカドサラダとかガパオライスとか、キラキラしたランチを注文する。わたしも彼女らを真似しようとしたけれど考えるのが億劫になってしまって結局いつものメニューで満足する。
わたしがめんどくさがりがどうかはさておき、今日はどうも周囲に目が気になってしまう。
今朝の視線の正体はもちろんステージで見せた「純白の翼」の件。削除申請は出したとはいうが、数日で人の頭に残った記憶までは簡単に消えない。
でもこれはわたしに課せられた罪だと思えばまだ耐えられた。
「でもさ、わたしが勝者を決めちゃってよかったのかな。みんなに迷惑かけちゃったのに」
「ん? 天塚が迷惑かけるのは元からだろう。誰も気にしてないって」
「介護は慣れてる」
「だったら早く『Hozumi』のスマホを買って、少しでも方向音痴を治してくれるとありがたいな。部活動でもその、凛ちゃんを一人で行動させられないから」
・・・・・・わたしの扱いってなんなんだろう。今一度、近日中にきっちりと確かめる必要がありそうだ。
ひんやりしてしまった心を温めるようにうどんのつゆを飲み込んだ。
ん? なんかおかしい。今までこんな味じゃなかったような。
「今日のうどん、なんだかすっごい味が薄い」
「どれどれ……や、ほんとだ。薄味だ。関西風って感じ」
関西風という言葉に惹かれて次々と器が回され、菊田と志保も口にした。
「私はどっちかっていうと前の濃い方が好みかなぁ」
「うちはこっち」
「んー、わたしも前のほうかなぁ。やっぱりしめには濃いのが一番」
「なんか居酒屋みたいな会話になってきたからやめようね」
よくわからないけど志保に怒られてしまった。話を変えるのもいいけど学園祭関連の話はもうお腹いっぱいだ。
別の話題、別の話題っと……、なら定番のあれはどうだろう。女子高生ならこういうのに食いつきそうだし。
「祭りが終わると寂しいですね」
「まーなっ。このまま寒くなってきて、気づいたら期末考査が始まって、あっという間に年末だ」
「おっと、肝心なイベントを忘れてませんか?」
その問いになぜか反応はまちまちだ。はて、と、首を傾げる瀬戸。あははと苦笑いをする志保。それから無表情になる菊田。三者三様だが、共通するのは反応がぎこちない点。どうしてだろう。答えをもったいぶるなと怒ってるのかな。
「もちろんクリスマスですよぉ! みなさんのご予定は?」
その言葉を発した途端、世界が凍えた。時が止まった。
あれ、蒼月ではクリスマスを祝わないのかな? そんなわけないと思うけど。家族や友達と祝ってパーティーして楽しい夜を過ごすはずだ。
そんな凍えた世界をかち割るように、瀬戸が声を振り絞る。
「ま、まぁ? そもそも寮生活だしね。それともみんなでパーティーでもする?」
「ネー、そうしよう。ならプレゼント交換会もしよう」
その瞬間に雪解けが起こり、楽しい楽しいパーティーの計画が始まった。
わたしも地上での生活に慣れてきた。仲のいい人と過ごすのがこの国の慣わしだって学んでいる。
なのにさっきのぎこちない反応はどうしたんだろう。
あっ、もしかしてクリスマスの話題になるって気づいたけど、実はみんな既に用事があるのかもしれない。断りづらくて気まずくなった、とか? ふふん、しょーがない。ここは助け舟を出してやろう。
「あっ、でもわたし、今年はどうだろう」
「そういやづかちゃんは一人暮らしか。家族と過ごすの?」
「いいや? 彼氏と」
そう言葉を発した途端、世界に氷河期が訪れた。しかもさっきより範囲が、このテーブルだけでなく食堂全体が凍えてる。もしかしてわたしの声、デカかったかな。うるさかったなら謝るけれど……ヒィッ、舌打ちがこだまする。反響する。こ、こわいぃっ!
「え、えと……なぁんちゃって! 冗談ですよー」
「なぁんだ。天塚はおませさんだなぁ」
場が一気に和やかになった。窮地に立ったわたしは肝心なことを思い出した。この国ではクリスマスは恋人と過ごすって。つまり冷ややかな反応をしたってことは、ここにいる大多数は独り者ってこと。案外みんな、人寂しいのかもしれない。
わたしにはよくわかんないけども。いつ壊れるかもわからないし、学びたいとも思わない。
ん? でもおかしい。独り者が嫌なら探せばいいじゃないか。ここにはいろんなヒトオスがいるのだし。
クラスメイトでもなんでもいいから誘えばいいんだ。特に菊田なんてーー
「でも菊田さんには候補がいるでしょう」
「誰かと勘違いしてない? いないって、そんな人」
「だって、祖父江くんのことが好きなんでしょう?」
ーーまた場が凍えた。え、なんで、どうして。
わたしは間違ったこと言ってないはず。それに喧嘩するほど仲がいいともいうだろう。二人の教室での態度を見てれば「あぁ、こいつら好きあってるな」ってすぐわかる。わたしでなくてもすぐわかる。
勘のいい志保ならぴぴーんと来るはず。なのに志保は天を仰ぎ、瀬戸は頭を抱えている。
そして茹蛸みたいにミルミル顔が赤くなる菊田。顔を抑えてパタパタと出ていってしまった。
「怖い物知らずは恐ろしいね」
「恋路も方向音痴とは、私も手が負えないよ」




