第六三話 断罪執行
時はいろいろと遡る。一体どこから説明しよう。どこから説明すればこの面倒事を平和的に処理できるのだろう。
裁判官に呼び出され、教壇に立つわたし。衆目に晒されたわたしに一切の間違いは許されない。こちらの不安なんて気にも留めず、聴衆は今か今かとわたしの言葉を待っている。
というかもう、赤城先生来てるんだけど。可哀相なことに空気と読んだ大人は口を挟まず扉の前で待機していた。
まず、ここで何が起きたのか説明しよう。
数日前の学園祭にて、我らが一組は「蒼月異性装総選挙カジノ」なるトンチキな催し物を行った。
要はカジノ。しかし掛け金は金ではなく投票券。それを使って参加者はメイドや執事のコスプレをした生徒に投票する。メイドだからといって女性だけじゃなく女装した男子生徒もいる。その逆も然り。
集計し、敗北した陣営は翌日に教室の片付けをしなければならない。なんて過酷で残虐な罰ゲームなのだろう。これにはわたしも恐れ慄いた。ちなみに各陣営で一位に選ばれた人同士でキスするとか言ってたけど関係ない話なので割愛。
そんなこんなで迎えた当日。わたしは柄にもなくサボらず懸命に仕事をこなした。
が、知っての通り誘拐されてしまった。おかげさまで三日目はサボり。そして四日目はステージの一件でお休み。思う存分周囲に迷惑をかけたほろ苦い祭りだった。
だからわたしは結果は何も知らないし、学園祭委員の志保の好意に甘えて片付けを休んでいた。
今回の学級裁判は学園祭三日目、わたしが誘拐されていた間に起きたこと。
わたしが不在にしている間、カジノに穴ができないようにと代理を務めてくれた鳥越葵お姉様の扱いだ。
「凛の代理なんだから俺たち、執事陣営に決まってる」
「だーかーらー、非常事態に陣営とか関係なくない?」
そーだそーだ。
ルールはルールだ。
その葵お姉様……あぁ! もう「お姉様」ってつけるのめんどくさい!
――葵は大役を務め上げてくれた。腕に自信ある強者相手に半日も頑張ってくれたのだから文句はない。
ゲーム部の部長や麻雀部の連中もちぎっては投げ、ちぎっては投げ、と、無双したとかなんとか。
だったら何も問題ないじゃないかと思うだろう。わたしもそう思う。
しかし、そんな正常に機能していた世界に予期せぬ来客が現れたのだ。
「ハイパー級のやつも負けすぎなんだよ。担当誰だっけ」
「……あたし」 東雲女史がゆっくりと手を挙げる。
「だけどさぁ、別にわざと負けたわけじゃない。あのちっさい子供が強すぎたんだ。ロイヤルストレートフラッシュなんて初めて見た。それを何回やられたことか!」
そう、アキハと名乗るあの大馬鹿。現代でも大暴れしやがった。
葵がコスプレして接客してると聞きつけたアキハは彼女を投票トップにするため、教室にあるありったけの投票券をカジノで掻き集めた。葵に勝てないとわかっているアイツは卑怯なことにハイパー級で勝ち星を稼いだのだ。
結果は、
「あの子の投票をなかったことにすると勝者はメイド陣営。凛ちゃんの代理とすると執事陣営。あ、でも葵さんにはメイドの衣装を着てもらったからメイド陣営になるのかな。いろいろとややこしいねっ!」
「学園の生徒じゃない人を一位にしても面白くないよなぁ」
「でしょうね。だから本当はメイド陣営が勝ってるの」
「威張れるほどじゃないだろう。そっちは雅票におんぶにだっこ」
「そんなこと言い出したら投票の意味がないじゃない。ルールがどうのこうのって言い出したの誰?」
「は?」「ああん?」
これは全面的にわたしが……や、わたしの身内が悪い。
「ごめんなさい。わたしが変なことに巻き込まれたせいで」
「凛は悪くないって」
「いいえ。すべての責任はわたしがとります。判決を述べましょう」
「えっ? あのめんどくさがりが面倒を引き受けるの? へぇ、面白いじゃん。どうするの?」
東雲女史の目からは敵意が消え、興味が宿る。周りを見渡せば一様に固唾を吞んでわたしを見つめている。
女史の言うとおりだ。わたしらしくない。だけど身内の不祥事なら別。責任を取らなくてはならない。
二度と会うこともなければ会いたくもなかった。しかしこれで被ったわたしへの損害賠償とメイド姿の葵の写真をもらうべく、いずれまた会わなくてはならないみたいだ。
ま、しょうがない。
「葵の票は全部無効。勝者はメイド」
地上でも自己犠牲なんて我ながら虚しい。面倒なんて死んでもごめんだが、大半の面倒はもうすんだこと。過去の労働についてとやかく喚く人はこの学園にはいないはず。
ふふっ、勝った。我ながら最短で最適解に辿り着いてしまったようだ。
けどどうしたことだろう。わたしの目に映る全員がポカンとしている。
あれ、どしたん? 話でも聞こか?
「えーとねー、それならそれでいいの。ただ――」
なんだかバツが悪そうに話す志保。わたしに一任したくせ、どうしてそんなに気まずそうにするのだろう。
「メイド陣営トップはもちろん雅くん。仮に鳥越さんを凛ちゃんの代理とするとトップはあの人だけど、無効票にすると執事陣営でトップは凛ちゃんだよ?」
「ほっ?」 はっ?
「天塚がいなくなったっていうから心配してくれた人が票入れてくれたんだ。浮遊票が集まった結果、あたしを抜いて見事一位! おめでとう!」
唐突に沸いた手拍子。そこは人の意思が罷り通らない地獄の世界。
人が怖い。獲物を見据えるギロギロした目玉。不敵に笑う悪魔のような口。逃げ道を封じる手拍子のリズムと一体感。
あぁ、最悪。こんな仕打ちを受けるなんて、わたしは天に背いた極悪人ってこと?
あ、でも実家に帰らないならある意味正しい……ではなくっ! こんな現実、あんまりだっ!




