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リン・インカーネーション  作者: 天音亜入
第3章 幻想の赤月《ドリーミング・ブラッドムーン》
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第六二話 学級裁判



 次の登校日までわたしたちは各々自分の時間を過ごした。

 身の回りのことなのか、買い物なのかはよくわからないが彼は昼は不在で夕方帰ってくる。対してわたしはというと目まぐるしい疲労との戦いにより連日ぐうたら。そんな姿を冷ややかな目で見られるが小言は言ってこなかった。


 そしていよいよ明日というところで夕食の時、雅はこう切り出した。



「金美社長と会ってきた」



 金美社長というのは雅がかつて所属していた芸能事務所の社長さん。会ったことがあるが、なんというかやり手って感じですごく苦手。わたしの心の内を見透かしてるんじゃないかって怖くなるくらい貫禄があって、何を考えているかわからない。

 その証左に、超売れっ子俳優春夏冬雅をクビにした。

 同じく超売れっ子女優の龍閃鞠沙はその判断に激怒していたが、正直わたしも同感。溜飲を下げて元鞘に収まってくれないかと願っていたものの、まさかこんなに早く元通りになるとは思いもしなかった。



「よかったじゃん。これでめでたしめでたし……」


「ちげぇよ。いろいろあるんだよ、いろいろな。復帰はしないけど絶縁だけは避けられた」


「それは前向きなことなのか?」


「ま、それはどうでもいいんだ。肝心なのはお前のアレっ!」


「えっ? あ、あぁ、あれは……」



 あれとはアレだ。雅を押し倒した時に生えた純白の翼。その正体は誰だって気になるだろうに、雅はあれから何も尋ねてこない。気遣ってくれてるのか、ただ単に興味がないのか、はたまた説明せずとも勘付いているか。

 ま、彼にはいろいろと話してしまっている。今は無きガラス玉の件もあれば会長のことも、誘拐の時も助けてくれた。

 ……あれっ? わたし、意外とコイツと何かしてるな。特段仲良くしているわけでもないのに。



「ステージ上の演出ってことで金美社長が誤魔化してくれるとさ。今時VRとかAIとか言い訳の種ならいくらでもあるから大丈夫だろうって。だから表向きのステージ中止は機材不良。ネットで当時の映像が出回ってるけど全部削除申請を出したから数日以内には全部消えるだろうさ。下手すりゃみんな、もう忘れてるんじゃないか」






 そう、言ってたはずだ。だけど実際は――




 なんか、ものすっごく見られてる。気のせいではなくガン飛ばされてる。隣に雅がいるけどそのせいではないと思いたい。だってこれまで雅と一緒に行動していても歩いているだけで恨まれたことなんてなかったもの。

 まさか、雅の引退がバレた? 一緒に暮らしているのもバレた?

 学園の門扉から校舎へ続く中庭、昇降口に廊下。兎に角落ち着かない。そんなわたしを気にも留めずに雅は平然としていた。慣れとは恐ろしいものである。わたしも彼を見習っていつもどおりを振る舞ってみる。

 しかしいくら平静を装っていても、目の前に異変が起きれば動揺するのが人としての(さが)なのだと思い知らされた。



「おはよう……え、なにこの空気」



 教室に足を踏み入れた瞬間、猛烈な重苦しい空気に襲われる。既に教室は七割ほど埋まっていて人気(ひとけ)はある、のに、不気味なほどに静まり返っていた。

 異変はまだまだある。いつもなら教壇に向かって席が並んでいるが、なぜか今は教壇を境に空間が二分割。まるで裁判所。向き合うように腰掛けているが、その形相は傍聴人ではなく戦国武将。天下分け目の大決戦寸前だ。



「さて、主役も揃ったことだし、そろそろシロクロ決着つけようよ」


「え? えっ? 志保、どういうこと?」



 裁判長はクラスを仕切る結月志保。何も知らないわたしは雅に助けを求めるも、彼も同様に困惑していた。裁判長に促されるがまま、わたしは近くの席に腰を下ろす。その隣に雅も座ろうとしたが「雅くんは反対側に」と向かい側の席に座らせられた。

 それとわたしが腰掛けた席の周りを見て、ようやく合点がいった。

 あぁ、これは学園祭のメイドと執事陣営に分けられている、と。



「つーか、シロクロもなにも、最初の取り決めどおりだろう。なのにそっちが急にルールを捻じ曲げて、勝者は結局休みなし」



 口火を切ったのは執事陣営の祖父江(そふえ)雲雀(ひばり)だった。

 しかしすかさず反論したのはメイド陣営の菊田(きくた)飛鳥(あすか)である。



「緊急事態だったんだから仕方ないじゃない。臨機応変に動かなきゃ」


「だとしても、そもそもクラスの半分で片付く計算だったんだから俺たちは必要なかったろう」


「せせこましいね。困った時はお互い様って言葉、知らない?」



 二人の舌戦が繰り広げられる中、事情を知らないわたしは対面にいる雅にアイコンタクトを送る。だけど向こうは首を振るばかりで、なんだかこっちも言い合いになりそうな予感がした。そんな中で志保は急にこちらに水を向けてきた。



「被告人、証言を」


「わたし?」



 と、舌戦を繰り広げていた二人は途中で口を止め、揃いも揃ってわたしを見てきた。



「だな。そろそろ教えてもらおうか」


「えぇ、そうね。そろそろ教えてもらいましょう――あの超絶妙技のイケメン美少女の彼氏さんは何者なの?」

 

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