Re:Start
「ひとーつ」
「絶対にバレてはいけない」
「ふたーつ」
「プライベートの不可侵と相互協力」
「みーつ」
「死んでもいいから絶対にバレるな。特に結月には」
新しい物事の始まりには程よい絶望だった。
生きる目的と生きていくための力を失った天塚凛。命を賭して歩んできた役者の道を断たれた春夏冬雅。
大切なものを失った二人。拠り所さえ無くなった二人が寄り添うのは自明の理だった。
わたしの感情を事細かに述べるとすれば、これは、そう、保護である。事務所を解雇された雅が蒼月を離れて実家に帰るなんて言い出すから咄嗟に止めてしまっただけ。雅がいなくなれば蒼月中がパニックになるのを優秀なわたしが見越したのだ。
それに、だ。雅を近くに置いておけば「いざ」という時、わたしの身に起きたことを説明する代弁者になってもらえる。
三日後かひと月、半年後なのか、明日なのかわからない。
けどそう遠くない未来、わたしは壊れる。里帰りすれば元の身体に戻れるらしいけど、それには三年以上を要するという。
この蒼月での暮らしにやっと慣れてきたこの頃。それを手放すなんてとんでもない。かといって自分が壊れるのも嫌なので、壊れる寸前まで粘ってみるつもり。粘って、粘って、限界が来たら雅に託そう。急にふらりといなくなるよりよっぽど健全だろう。
「やっ、肝心なこと言っておかないと。お金のことさ。家賃は折半として――」
「おいおい、雅は収入がないんだ。家賃なんて要らない。ここって結構お高いんだから」
「いや、でもそれは悪いって」
「生活費もわたしが出す。けどその代わり家事全般担当してもらおう。もちろん食事もね。雅の手料理は割と美味しいし」
「お、おう」
「ついでにゴミ捨てもね。家事分担って融通が効かないし、いちいち日程を決めるのも面倒」
「家主様には逆らえない、か」
・・・・・・勝った。この契約、わたしの大勝利だ。
家賃が高い? ふふっ、何を言ってるんだ。ここは事故物件というのを忘れていないか?
家賃なんて諭吉一人。折半なんてするよりか、居候に面倒な家事を押し付けた方が何よりも最善。そう思わないかね、ふふん。
開幕は絶望からのスタート。生憎手持ちには絶望から這い上がる道標が記された地図なんてない。
けど、失うものがない以上、兎に角、もう前へ進むしかないのだ。




