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第五三話 黒金のレガリア



 ぷつりと電話が切れた。待ち合わせの時間の場所。こちらは向こうの提案を全て飲んだ。むしろこちらに優位な面もあったものの電話の相手には伝えなかった。けれどやっぱり手がかりはない。


 こうなれば頼りになるのは台本より交渉術(アドリブ)。役者にしてはアドリブはそこまで得意ではない。俺より鞠沙、鞠沙より雲雀が得意だ。かといって今から雲雀を呼んで技を磨くにしては圧倒的に時間が足りない。


 そんな後悔を抱えていると今度もまた電話がなる。しかし今回は私用の方だ。



「どう? なにか進展は?」



 黒金さんからだった。彼は無事に娘に会えたのだろうか。しかしそんな雑談をする余裕もなくこちらの事情を説明した。

 黒金さんから連絡がかかってくるまでとにかく境内を走り回って手がかりを探したが、混雑諸々の影響で捜索はままならなかった。

 彼からすれば娘とのかけがえのない時間を赤の他人にあげたのだ。それで徒労に終わってしまったのだから起こるのも無理はない。のに。彼はすごくこちらの身を案じてくれた。



「そうか……なら、蒼月の至宝とまではいくまいが、とっておきのお宝――『天使の短剣』なんてものもある。これも天使とのつながりがあるという逸話持ちのコレクション。それを持ってってみるかい?



 世界を動かしてきた偉人たちはこの短剣を御信用として常に所持していたらしい。所持した本人は前任者の名前を知らず、いつしか「短剣」が「主人」を選んでいるとも語り継がれている。

 ちなみに最後の持ち主はアインシュタイン。というのもヴィンテージに今日もがなかった彼は抽斗にしまったきり存在を忘れていた。公になったのは彼の死後、違反整理をしていた時である。そこからアインシュタインゆかりのものということで競売にかけられ、そこでとあるコレクターが競り落とした。



「それからしばらく調べていくととんでもない偉人に受け継がれていることがわかったんだ……」


「アインシュタイン、ナポレオン、カリオストロ、マリアテレジア、フェルメール・・・歴史の教科書のオンパレードですね」


「あくまでも護身用だったから武人とは関係ない人も持っていた。歴史の表舞台に現れることはなかったけど。ナポレオンが残した手記には記述があった。

『『これはユリウス・カエサルが天人からもらったものだと』

カエサルが存命していた時代はまだイエス・キリストは誕生していなかった。

だから彼が天使という存在を知らなかった可能性が大いにあり得る。なのに天使とは、奇妙は話だね。少なくともキリスト教を敵視して残したものじゃない。そういった天使の遺物を『レガリア』と呼び、我々黒金財団は蒐集している」


「そんなの、そう残っていないんじゃ」


「そのとおり。厄介なことに偽物の方が多いんだ。最近はライバルも多くてねぇ。うちには向かい風さ」



 はぁ、というと『蒼月の至宝』を狙っているあの九十九そのライバルの一人である可能性もある。金で買えないなら強行策に出た可能性だって十分あり得る。


 たとえ『蒼月の至宝』が見つからずとも『レガリア』を渡せば納得して凛を解放してくれるかもしれない。


 だけど黒金さんから見えば赤の他人にそんな宝を託すメリットなんてなかった。さすがの俺でも断るしかなかった。



「人の命がかかってるんだ。これくらい安いものさっ」


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