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異世界転生したら、ヒロインが全員ボケだった件  作者: 関澤諭


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8/20

日常をやろうとすると一番壊れる

 街が見えた。


 それだけで、佐藤悠斗は少しだけ安心した。


「やっと普通の場所だ……」


 石畳。木造の建物。行き交う人々。

 どこからどう見ても“ファンタジーの街”だが、この世界に来てからの状況を考えれば、十分すぎるほど普通に見えた。


---


「今日は買い物ですね♡」


 アリスが嬉しそうに言う。


「そうだな……とりあえず情報収集だ」


 街に来た理由はちゃんとある。

 宿、食料、装備、そしてこの世界のこと。


 まともに動けば、まともな結果が出るはずだ。


---


「悠斗」


 ユイが言う。


「この街、ちょっと変」


「もうやめてくれ」


---


「でも普通の人がいっぱいいるよ?」


 ミナが周囲を見回す。


 確かにそうだ。


 笑っている人。話している人。普通に歩いている人。


 少なくとも、今までのメンバーよりは普通だ。


---


「よし」


 悠斗は頷いた。


「今日は普通に行動する」


---


 全員がこちらを見る。


---


「……普通に?」


 ユイが確認する。


---


「そうだ」


---


「それは無理」


「なんでだよ!!」


---


 だが悠斗は決めた。


 ここで一度、まともな行動をする。


 そうしないと、この世界で生きていける気がしない。


---


「まずは宿だ」


---


 そう言って、目の前の宿屋に入る。


---


「いらっしゃいませ」


 店主が普通に対応してくる。


 普通だ。


 やっと普通の人間だ。


---


「一泊いくらですか?」


---


「銀貨一枚です」


---


 会話が成立している。


 ズレていない。


 ちゃんと繋がっている。


---


 ――いける。


---


「人数は……」


 悠斗は後ろを見る。


---


 ヒロイン五人+その他。


---


「……多いな」


---


「家族です♡」


「違う」


---


「大所帯ですね」


 店主は普通に笑った。


 いい人だ。


---


「では、部屋を二つ――」


---


「一つで大丈夫です♡」


 アリスが即答する。


---


「足りない」


 ユイが言う。


---


「全員で一つがいい!」


 ミナが言う。


---


「私は一人でも大丈夫です」


 エリナが言う。


---


「私はキラキラした部屋がいいです!」


 ミルフィーナが言う。


---


「静かな部屋がいいです」


 シオンが言う。


---


 バラバラだった。


---


 悠斗は店主を見る。


---


 店主も、こちらを見ていた。


---


「……どうされます?」


---


「俺が聞きたい」


---


 数秒の沈黙。


---


「……では」


 店主が言う。


---


「全員で一部屋にしますか?」


---


「なんでそうなる!!」


---


「楽しそうなので」


---


「巻き込まれるな!!」


---


 店主、ちょっとおかしい。


---


 悠斗は一瞬で理解した。


---


 この街も、完全に安全ではない。


---


「次行くぞ」


---


 宿を出る。


---


「次は武器屋だ」


---


 店に入る。


---


「いらっしゃい!」


 店主は元気な声だった。


---


「剣ありますか?」


---


「あるよ!」


---


 普通だ。


 やっとまともな流れ。


---


「じゃあ一本――」


---


「この子に似合うのがいいね!」


 店主はアリスを指す。


---


「いや俺のだ」


---


「この子は回復タイプだね!」


「勝手に設定つけるな!!」


---


「こっちは盗賊だね!」


「当たってる!」


「なんで当たるんだよ!!」


---


「この子は……観察者だね」


「なんで分かるんだ」


---


 店主、ちょっと怖い。


---


「あなたは……」


 店主が悠斗を見る。


---


「ツッコミ役だね」


---


「なんでだよ!!」


---


「いやなんとなく」


---


「当たってるのが怖いわ!!」


---


 シオンが小さく呟く。


---


「この街、普通じゃない」


---


「知ってる!!」


---


 その時だった。


---


「見つけたぞ」


---


 あの声。


---


 黒ローブの敵。


---


 街の中なのに、普通に現れた。


---


「なんで追ってくるんだよ!!」


---


 周囲の人々が振り向く。


---


 そして。


---


「またか」


「今日は多いな」


「順番待ちか?」


---


 普通に受け入れた。


---


「慣れてる!?」


---


 悠斗は叫ぶ。


---


 店主が言う。


---


「外でやってくれる?」


---


「対応が現実的!!」


---


 結局。


---


 街の外に出ることになった。


---


 全員で。


---


「もう嫌だ」


---


 悠斗は心からそう思った。


---


 だが。


---


「悠斗」


 ユイが言う。


---


「この街も同じ」


---


「何が」


---


「普通じゃない」


---


 シオンが静かに続ける。


---


「だから、この世界なんです」


---


 その言葉だけが、妙に残った。


---


 ――日常を求めるほど、この世界は壊れていく。

第8話を読んでいただきありがとうございます。

今回は「街=安全」という常識が通じない回でした。

日常をやろうとすると逆に壊れていく、というこの世界の特徴を強めています。

少しずつですが、“この世界の異常さ”が広がってきています。

次回はさらに展開を動かしていきます。

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