日常をやろうとすると一番壊れる
街が見えた。
それだけで、佐藤悠斗は少しだけ安心した。
「やっと普通の場所だ……」
石畳。木造の建物。行き交う人々。
どこからどう見ても“ファンタジーの街”だが、この世界に来てからの状況を考えれば、十分すぎるほど普通に見えた。
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「今日は買い物ですね♡」
アリスが嬉しそうに言う。
「そうだな……とりあえず情報収集だ」
街に来た理由はちゃんとある。
宿、食料、装備、そしてこの世界のこと。
まともに動けば、まともな結果が出るはずだ。
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「悠斗」
ユイが言う。
「この街、ちょっと変」
「もうやめてくれ」
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「でも普通の人がいっぱいいるよ?」
ミナが周囲を見回す。
確かにそうだ。
笑っている人。話している人。普通に歩いている人。
少なくとも、今までのメンバーよりは普通だ。
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「よし」
悠斗は頷いた。
「今日は普通に行動する」
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全員がこちらを見る。
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「……普通に?」
ユイが確認する。
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「そうだ」
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「それは無理」
「なんでだよ!!」
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だが悠斗は決めた。
ここで一度、まともな行動をする。
そうしないと、この世界で生きていける気がしない。
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「まずは宿だ」
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そう言って、目の前の宿屋に入る。
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「いらっしゃいませ」
店主が普通に対応してくる。
普通だ。
やっと普通の人間だ。
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「一泊いくらですか?」
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「銀貨一枚です」
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会話が成立している。
ズレていない。
ちゃんと繋がっている。
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――いける。
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「人数は……」
悠斗は後ろを見る。
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ヒロイン五人+その他。
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「……多いな」
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「家族です♡」
「違う」
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「大所帯ですね」
店主は普通に笑った。
いい人だ。
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「では、部屋を二つ――」
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「一つで大丈夫です♡」
アリスが即答する。
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「足りない」
ユイが言う。
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「全員で一つがいい!」
ミナが言う。
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「私は一人でも大丈夫です」
エリナが言う。
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「私はキラキラした部屋がいいです!」
ミルフィーナが言う。
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「静かな部屋がいいです」
シオンが言う。
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バラバラだった。
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悠斗は店主を見る。
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店主も、こちらを見ていた。
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「……どうされます?」
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「俺が聞きたい」
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数秒の沈黙。
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「……では」
店主が言う。
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「全員で一部屋にしますか?」
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「なんでそうなる!!」
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「楽しそうなので」
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「巻き込まれるな!!」
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店主、ちょっとおかしい。
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悠斗は一瞬で理解した。
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この街も、完全に安全ではない。
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「次行くぞ」
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宿を出る。
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「次は武器屋だ」
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店に入る。
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「いらっしゃい!」
店主は元気な声だった。
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「剣ありますか?」
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「あるよ!」
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普通だ。
やっとまともな流れ。
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「じゃあ一本――」
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「この子に似合うのがいいね!」
店主はアリスを指す。
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「いや俺のだ」
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「この子は回復タイプだね!」
「勝手に設定つけるな!!」
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「こっちは盗賊だね!」
「当たってる!」
「なんで当たるんだよ!!」
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「この子は……観察者だね」
「なんで分かるんだ」
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店主、ちょっと怖い。
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「あなたは……」
店主が悠斗を見る。
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「ツッコミ役だね」
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「なんでだよ!!」
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「いやなんとなく」
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「当たってるのが怖いわ!!」
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シオンが小さく呟く。
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「この街、普通じゃない」
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「知ってる!!」
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その時だった。
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「見つけたぞ」
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あの声。
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黒ローブの敵。
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街の中なのに、普通に現れた。
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「なんで追ってくるんだよ!!」
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周囲の人々が振り向く。
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そして。
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「またか」
「今日は多いな」
「順番待ちか?」
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普通に受け入れた。
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「慣れてる!?」
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悠斗は叫ぶ。
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店主が言う。
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「外でやってくれる?」
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「対応が現実的!!」
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結局。
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街の外に出ることになった。
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全員で。
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「もう嫌だ」
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悠斗は心からそう思った。
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だが。
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「悠斗」
ユイが言う。
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「この街も同じ」
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「何が」
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「普通じゃない」
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シオンが静かに続ける。
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「だから、この世界なんです」
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その言葉だけが、妙に残った。
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――日常を求めるほど、この世界は壊れていく。
第8話を読んでいただきありがとうございます。
今回は「街=安全」という常識が通じない回でした。
日常をやろうとすると逆に壊れていく、というこの世界の特徴を強めています。
少しずつですが、“この世界の異常さ”が広がってきています。
次回はさらに展開を動かしていきます。




