表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したら、ヒロインが全員ボケだった件  作者: 関澤諭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/13

ヒロインは“正常”で、だから一番おかしい

 静かだった。


 信じられないくらい、静かだった。


 朝。


 鳥の声。風の音。焚き火の残り香。


 誰も騒いでいない。


 誰もボケていない。


 誰も意味不明なことを言っていない。


---


「……」


---


 佐藤悠斗は、ゆっくりと目を開けた。


 違和感があった。


 ものすごく、違和感があった。


---


「……誰もいない?」


---


 周りを見渡す。


 アリスもいない。

 ユイもいない。

 ミナもいない。

 エリナもいない。

 ミルフィーナもいない。


 魔王も賢者もタケシもゴンザレスもいない。


---


 全員、いない。


---


「……え?」


---


 嫌な予感がした。


 ものすごく嫌な予感がした。


---


「……平和すぎる」


---


 思わず口から出た。


---


 その時だった。


---


「おはようございます」


---


 声がした。


---


 振り向く。


---


 そこにいたのは、一人の少女だった。


---


 黒髪。

 落ち着いた服装。

 穏やかな表情。


---


 そして。


---


「今日はいい天気ですね」


---


 普通だった。


---


「……」


---


 悠斗は、しばらく何も言えなかった。


---


 普通だ。


 完全に普通だ。


 言葉の選び方も、距離感も、反応も。


 全部が普通。


---


 この世界に来てから、一度も見たことがないレベルで普通だった。


---


「……誰だ?」


---


「通りすがりです」


---


 普通の返答。


---


「ここで何してる?」


---


「少し休んでいました」


---


 普通。


---


 会話が成立している。


 ちゃんと繋がっている。


 変な方向に飛ばない。


---


 悠斗は、ゆっくりと一歩近づいた。


---


「……お前」


---


「はい?」


---


「普通だな」


---


「はい?」


---


 少女は少し首を傾げた。


 その反応すら普通だった。


---


「あなたこそ、少し様子がおかしいですよ?」


---


「……」


---


 その言葉に、悠斗は一瞬だけ固まった。


---


「どこがだ」


---


「会話の途中で叫びますし、落ち着きがありませんし……」


---


 完全に正論だった。


---


「あと」


---


 少女は少しだけ考えてから言った。


---


「ずっと誰かに話しかけているみたいでした」


---


「……え?」


---


 空気が、少しだけ変わった。


---


「一人で?」


---


「はい」


---


 悠斗の背筋に、冷たいものが走る。


---


「いや、そんなはず……」


---


 振り向く。


---


 誰もいない。


---


 もう一度見る。


---


 誰もいない。


---


「……」


---


「どうしました?」


---


「……いや」


---


 おかしい。


 何かがおかしい。


---


 あのカオスなメンバーが、いない。


---


 それなのに。


---


 違和感がある。


---


「……静かすぎる」


---


 口に出していた。


---


「静かな方がいいと思いますが?」


---


「いや」


---


 悠斗は首を振る。


---


「うるさい方が、落ち着く」


---


「……」


---


 少女は、少しだけ目を細めた。


---


「それは」


---


「それは、普通ではありませんね」


---


 その言葉が、妙に重く響いた。


---


 悠斗は、しばらく黙った。


---


 そして。


---


「……なあ」


---


「はい」


---


「ここ、どこだ?」


---


「森の近くですよ」


---


「そうじゃなくて」


---


 言葉を選ぶ。


---


「……この世界って、なんなんだ?」


---


 少女は、少しだけ考えた。


---


 そして、静かに答えた。


---


「“歪んだ世界”です」


---


「……」


---


「普通の人間は、ここでは長くいられません」


---


「……どういう意味だ」


---


「すぐに、染まってしまうからです」


---


 風が吹く。


---


 その言葉は、冗談には聞こえなかった。


---


「あなたも」


---


 少女は悠斗を見る。


---


「少しずつ、変わってきています」


---


「……」


---


 悠斗は何も言えなかった。


---


 思い当たることが、あったからだ。


---


 ツッコミが当たり前になっていること。

 ボケを受け入れ始めていること。

 この状況に、慣れ始めていること。


---


「……まさか」


---


「はい」


---


 少女は小さく頷いた。


---


「それが、この世界です」


---


 その瞬間。


---


「悠斗ぉぉぉぉ!!」


---


 聞き慣れた声が響いた。


---


「見つけた♡」


「いた」


「やっと追いついた!」


「お兄さん!」


---


 一気に戻ってきた。


---


 アリス。ユイ。ミナ。エリナ。ミルフィーナ。


 全員。


---


「うるさっ!!」


---


 思わず叫ぶ。


---


 そして。


---


 安心した。


---


「……ああ」


---


 悠斗は小さく呟く。


---


「こっちの方が、落ち着く」


---


 少女が、その様子を見ていた。


---


「……やっぱり」


---


 小さく呟く。


---


「遅かったですね」


---


「何がだ?」


---


「いえ」


---


 少女は首を振る。


---


「何でもありません」


---


 そして。


---


「私はシオンです」


---


 静かに名乗った。


---


 ユイが言う。


---


「第六ヒロイン」


---


「やっぱりそうなるのか!!」


---


 ミナが笑う。


「普通すぎて逆に怪しいね!」


---


 アリスが頷く。


「家族が増えましたね♡」


---


「だからやめろ!!」


---


 シオンは、ただ静かに微笑んでいた。


---


 その笑顔は。


---


 この世界で、一番違和感があった。


---


 ――ヒロインは、まだ増える。

第7話を読んでいただきありがとうございます。

今回はこれまでと少し違い、「普通のヒロイン」を登場させました。

ですが、この世界では“普通”であること自体が一番の違和感になります。

悠斗の中にも少しずつ変化が出始めていて、

ここから物語はコメディだけでなく、ほんの少しだけ核心に近づいていきます。

とはいえ基本は変わらずコメディ全開なので、気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。

次回はまた一気にカオス寄りに戻しつつ、さらに展開を加速させていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ