ヒロインは聖女で、なぜか俺を処刑しようとしてくる
翌朝。
佐藤悠斗は、久しぶりに静かな朝を迎えられるかもしれないと、ほんの少しだけ期待していた。
空気は澄んでいる。
鳥の鳴き声も穏やかだ。
焚き火もきれいに消えている。
よし。今日は平和だ。
そう思った。
「悠斗♡ 朝ですよ♡」
右からアリス。
「起きて」
左からユイ。
「おはよー!」
正面からミナ。
完全に囲まれていた。
「距離感どうなってるんだよ!!」
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背後では魔王がコーヒーを淹れている。
「豆は挽きたてがいい」
「どこから持ってきた」
「オフの日に準備した」
「オフ万能すぎるだろ!!」
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賢者は相変わらず地図を逆さにしている。
「今日は南に進みましょう」
「それ北じゃないか?」
「そうとも言います」
「言い換えじゃねぇよ!!」
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タケシは丸くなって寝ている。
ゴンザレスは直立したまま見張りを続けていた。
なぜかこの二体が一番安定している。
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朝食を終え、俺たちは再び歩き出した。
ヒロイン三人に挟まれながら。
精神的にはすでに圧迫されている。
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「悠斗♡」
「なんだ」
「今日はどこで結婚式にします?」
「しない」
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「悠斗」
「なんだ」
「このままだと四人目来る」
「やめろ」
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「悠斗ー!」
「なんだ」
「次の街で服買おうよ!」
「なんでだ!」
「結婚式用!」
「増やすなその話!!」
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会話が収束しない。
むしろ増殖している。
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その時だった。
遠くから鐘の音が聞こえてきた。
カン、カン、と澄んだ音。
同時に空気が少し張り詰める。
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「なんだ?」
「来る」
ユイが短く言った。
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空から光が差す。
一点を照らすように、まっすぐに。
その中心に、人影が降りてくる。
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白い衣装。
長い金髪。
神々しい雰囲気。
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「聖女か……?」
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ふわりと地面に降り立つ。
空気が張り詰める。
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「見つけました」
静かな声だった。
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「あなたが対象ですね」
「対象?」
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聖女はゆっくりと手を上げる。
光が集まり、剣の形になる。
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「世界の歪みを正すため、あなたを排除します」
「なんでだよ!!」
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いきなり処刑宣言された。
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アリスが首を傾げる。
「勇者様が処刑対象なんですか♡」
「そこじゃない!!」
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ミナが笑う。
「モテモテだね!」
「方向がおかしい!!」
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ユイが呟く。
「第四ヒロイン」
「違う!!」
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「理由を説明してくれ!」
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「あなたの存在は、この世界の法則から逸脱しています」
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その一言だけ、妙にまともだった。
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「いや俺普通の人間なんだけど!?」
「それが問題です」
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「この世界に“普通”は存在しません」
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一瞬、空気が変わる。
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だが。
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「勇者様♡ 大丈夫ですよ♡」
アリスが前に出る。
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「聖女さんも疲れてるんです♡」
「やめろ」
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「最近、無理してませんか?」
「やめろ!!」
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聖女の動きが止まる。
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「あなたはちゃんと頑張ってますよ♡」
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剣がゆっくりと下がる。
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「……そう、でしょうか」
「効いた!?」
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聖女はその場に膝をついた。
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「……少し、休んでもいいですか」
「落ちたぁぁぁぁぁ!?」
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ミナが笑う。
ユイが頷く。
魔王が腕を組む。
「見事だ」
「違う意味でな!!」
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「名前、教えてくれ」
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「エリナです」
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「ではエリナさん♡ 一緒に行きましょう♡」
「え?」
「仲間なので♡」
「早い!!」
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エリナは少し戸惑いながらも頷いた。
「……はい」
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ヒロインが四人になった。
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俺は空を見上げる。
青い。
とても青い。
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「……もうやめてくれ」
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「悠斗」
ユイが言う。
「まだ増える」
「聞きたくない」
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「楽しみだね!」
ミナが笑う。
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「大家族ですね♡」
アリスが嬉しそうに言う。
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「……にぎやかで、いいですね」
エリナが呟く。
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「順応早いな!!」
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――この異世界は、俺を休ませる気がない。
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ヒロインは、まだ増える。
第4話を読んでいただきありがとうございます。
ついにヒロインが4人になりました。
しかも今回は“主人公を処刑しに来る聖女”という、また一段階ズレたタイプです。
少しだけ世界観に関わる要素(“普通が存在しない世界”)も出てきましたが、基本はこれまで通りコメディ重視で進みます。
ヒロインが増えるほどカオスは加速していくので、ここからさらに賑やかになります。
次回はもっと日常が壊れます。
よければ続きも読んでいただけると嬉しいです。




