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異世界転生したら、ヒロインが全員ボケだった件  作者: 関澤諭


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3/13

ヒロインは盗賊で、自称“幼なじみ”だった

 その日の夕方、俺たちは森の近くまで来ていた。


 異世界に来てまだ半日も経っていないのに、仲間はすでに増えすぎている。


 婚約者を名乗るヒロイン・アリス。

 観察者ポジションのユイ。

 オフの魔王。

 方向音痴の賢者。

 ドラゴンのタケシ。

 ゴーレムのゴンザレス。


 どう見てもパーティーの構成がおかしい。


---


「今夜はこの辺で野営にしましょう♡」


 アリスがにこにこと言う。


「そうだな……って、その前に一つ聞く」


「なんですか♡」


「お前、今さらだけど名前なんだ?」


「まあ♡」


 アリスは手を口元に当てて驚いた。


「私としたことが♡ 夫婦なのに自己紹介がまだでした♡」


「だから夫婦じゃないって言ってるだろ」


「私はアリスです♡」


「もっと早く言え」


---


 ユイが枝を拾いながら呟く。


「アリス。名前かわいい」


「ありがとうございます♡ 第二夫人さん♡」


「仮」


「何の仮だよ」


---


 その時だった。


 がさり、と茂みが揺れた。


 全員の視線がそちらに向く。


 次の瞬間――


「もらったぁぁぁ!!」


 小柄な少女が飛び出してきて、俺の腰の袋をひったくった。


「うわっ!?」


「盗賊」


 ユイが即答する。


「見れば分かる!!」


---


 少女はそのまま森の方へ走り出す。


「待て!!」


 俺も反射的に走り出そうとした。


 だが――


「待ってください♡」


 アリスが手を上げた。


「なんだよ!?」


「ここはあの子の気持ちを考えましょう♡」


「盗った側の!?」


---


「奪わなければならなかった事情があるのかもしれません」


「あとで聞く!!」


---


 アリスはその場から動かず、大きな声で呼びかけた。


「大丈夫ですよぉぉぉ♡ 返してくれれば怒りませんからぁぁぁ♡」


「信じるやついるか!?」


---


 すると。


 少し先の木の陰から、ひょこっと顔が覗いた。


 赤茶色の髪を束ねた少女だ。


「……ほんとに?」


「ほんとです♡」


「アリスそれ以上喋るな!!」


---


 少女は少し迷ったあと、ゆっくりと戻ってきた。


 そして――


 俺の顔を見た瞬間、固まった。


「……え?」


 数秒の沈黙。


 次の瞬間。


「ゆ、悠斗!?」


「なんで名前を!?」


---


「やっぱり悠斗だ! 変わってない!」


「何が!?」


「そのツッコミ待ちみたいな顔!」


「どんな顔だよ!」


---


 少女は勢いよく近づいてきた。


「私だよ! ミナ! 幼なじみ!」


「違う!!」


---


「小さい頃よく遊んだじゃん!」


「記憶にない!」


「川に落ちて泣いてた時、励ました!」


「知らない思い出を増やすな!」


---


 ユイがぽつりと呟く。


「第三ヒロイン」


「増えるの早すぎるだろ」


---


 アリスは嬉しそうに頷く。


「賑やかになってきましたね♡」


「お前が一番楽しそうなの何なんだ!」


---


 ミナは急に真顔になった。


「でもよかった」


「何がだ」


「ちゃんと生きてて」


「意味深なこと言うな」


---


 だがすぐに、いつもの調子に戻る。


「まあいいや! これ返すね!」


 袋を差し出してきた。


「返すのかよ!」


「確認したかっただけ」


「何をだ!」


---


 中身を確認する。


 全部入っている。


 ……なぜかリンゴが増えている。


「なんでだよ」


「サービス!」


「雑だな!」


---


 ミナは胸を張る。


「盗むだけの盗賊じゃないからね!」


「今盗んだばっかだろ!」


---


 魔王が興味深そうに言う。


「お前、ただの盗賊ではないな」


「分かる?」


「騒がしさが常人じゃない」


「褒めてないよな!?」


---


 賢者が尋ねる。


「どこから来たんですか」


「森の向こう!」


「雑だな」


---


「でも今は悠斗のところに来た!」


「来たで済ませるな!」


「幼なじみだし!」


「それが崩れない!」


---


 アリスが手を叩く。


「では歓迎会ですね♡」


「なんでだよ!」


「家族が増えたので♡」


「また家族扱い!!」


---


 こうして。


 またヒロインが増えた。


---


 俺は焚き火の前で座りながら思う。


 まだ一日も経っていない。


 なのにヒロインは三人。


 このペースで増えたらどうなる。


 考えたくない。


---


「悠斗」


 ミナが小さく呼ぶ。


「なんだ」


「……ほんとに覚えてないんだね」


「だから初対面だって」


「そっか」


---


 その一言だけ、少しだけ重かった。


---


 だがすぐに、アリスが叫ぶ。


「ごはんできましたぁ♡」


 鍋の匂いが広がる。


---


 賢者が言う。


「塩を十倍入れています」


「なんで!?」


---


 ミナが笑う。

 ユイが小さく笑う。

 魔王が水を足す。

 タケシが心配そうに鳴く。


---


 結局その夜。


 俺は鍋の味を調整しながら確信した。


---


 この異世界では。


 まともに休める日は、たぶん来ない。


---


 ――ヒロインは、まだ増える。

第3話を読んでいただきありがとうございます。

ついにヒロインが三人になりました。

しかも今回は“幼なじみを名乗る盗賊”という、また方向の違うタイプです。

この作品は、ヒロインが増えるほどカオスが加速していく構造になっています。

悠斗の苦労もその分しっかり増えていきます。

また、今回少しだけ意味深な要素も入れていますが、基本はコメディなので気軽に楽しんでいただければ大丈夫です。

次回もヒロインが増える予定です。

よければ引き続き読んでいただけると嬉しいです。

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