ヒロイン、増殖中
旅は始まったばかりのはずだった。
だが、佐藤悠斗の精神はすでに長距離を走り切ったあとのように消耗していた。
理由は単純だ。
右腕に絡みついているアリスが、ずっと喋っている。
「勇者様♡ この世界って本当に素敵ですよね♡」
「景色はな」
「ですよね♡ では新婚旅行はどこにしましょうか♡」
「話が飛びすぎてる」
「海もいいですし山もいいですし♡」
「選択肢の問題じゃない」
会話は成立している。
だが結論が、毎回別の世界に着地する。
言葉が通じるのに意味が通じないというのは、こういうことを言うのだろう。
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少し後ろでは、魔王と賢者が並んで歩いていた。
「最近どうだ」
「方向が分かりません」
「それは困るな」
「なので勘で歩いています」
「勇気がある」
「褒められました」
どこまでが冗談で、どこからが本気なのか分からない。
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ドラゴンのタケシはのそのそとついてきている。
さっきまで空を飛んでいた存在とは思えないほど穏やかだ。
たまに草を食べているのが気になる。
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「勇者様♡」
「なんだ」
「今夜は同じテントですよね♡」
「なんでそうなる」
「夫婦なので♡」
「前提が崩れないな」
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そんなやりとりをしていると、不意に声がかかった。
「ちょっと」
前方の岩の上に、黒髪の少女が座っていた。
無表情で、こちらをじっと見ている。
今までのメンバーとは少し雰囲気が違う。
落ち着いている。静かだ。まともな可能性がある。
「あなた」
「俺か?」
「うん」
少女はアリスを指差した。
「その人、誰?」
「妻です♡」
「違う」
反射的に否定する。
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少女は少し考えた。
「なるほど」
そして頷く。
「じゃあ仮妻」
「なんでちょっと寄せた」
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少女は岩から降りてきた。
「私はユイ」
「佐藤悠斗だ」
「知ってる」
「なんでだ」
「さっきから見てた」
普通に怖い。
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ユイはじっと悠斗の顔を見つめる。
「あなた、変」
「初対面でそれか」
「まともに見えるのに、ここにいる」
「それは褒めてるのか」
「観察対象として面白い」
「言い方」
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アリスがにこにこしながら口を挟む。
「では第二夫人ですね♡」
「違う」
「まだ仮」
「何の仮だよ」
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その時だった。
地面が揺れた。
低い振動が足元から伝わる。
嫌な予感しかしない。
「敵か」
魔王が顔を上げる。
「違う」
ユイが即答する。
「これはゴーレム」
「説明が雑だな」
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次の瞬間、地面が盛り上がった。
巨大な岩の腕が突き出し、全身が現れる。
ゴーレムだった。
「侵入者、排除」
「やっぱり敵じゃねぇか!!」
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「任せてください♡」
アリスが前に出る。
「またかよ!」
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「ゴーレムさん♡」
「やめろ」
「あなた、本当は優しい人ですよね♡」
「人じゃない」
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ゴーレムの動きが止まる。
「最近、認めてもらえてないんじゃないですか?」
カウンセリングが始まった。
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「……認証、エラー」
「機械っぽいな!」
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「大丈夫ですよ♡ あなたはちゃんと役に立ってます♡」
数秒後。
ゴーレムの腕がゆっくりと下がった。
「……任務、完了」
その場に座り込む。
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「なんでだよ!!」
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「やっぱり心の問題でしたね♡」
「万能すぎるだろ」
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ユイが小さく呟く。
「この人、仕様が違う」
「同感だ」
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「名前つけます?」
アリスが聞く。
「なんでだよ」
「仲間になったので♡」
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少しだけ考えて、悠斗は言った。
「……ゴンザレス」
「急に外国風!」
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「……ゴンザレス」
ゴーレムが頷いた。
受け入れられた。
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仲間が増えた。
増え方が雑すぎる。
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ユイが隣に並ぶ。
「やっぱり面白い」
「何がだ」
「あなたの周りだけ、話が雑なのに進む」
「進んでるのかこれ」
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「悠斗」
「なんだ」
「これからもっと増えるよ」
「何が」
「ヒロイン」
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断言された。
嫌な予感しかしない。
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「うちは歓迎です♡」
「歓迎するな」
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タケシが鳴き、ゴンザレスが頷く。
なぜか全員が受け入れ体制だった。
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「ツッコミが足りねぇ……」
悠斗は小さく呟いた。
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――この旅は、まだ始まったばかりだ。
第2話を読んでいただきありがとうございます。
ヒロインが一人増えて、さらにカオスが加速してきました。
まだ序盤なのにこの状態なので、ここからどうなるのか自分でも少し不安です。
この作品は「会話のズレ」と「勢い」で進んでいきます。
まともに考えると負けるので、ゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。
次回はさらにヒロインが増える予定です。
よければ続きも読んでください。




