自分が二人いた件について、なぜか翌朝みんな普通だった
翌朝。
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「おはようございます♡」
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アリスの声で目が覚めた。
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鳥の声。
朝日。
焚き火の匂い。
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普通の朝。
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「……」
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だが。
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悠斗の頭の中は、まったく普通じゃなかった。
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昨夜。
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もう一人の自分が現れた。
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顔も声も全部同じ。
意味不明なことを言って、消えた。
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「……夢じゃないよな」
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「何がですか♡」
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「いや、お前見てただろ!」
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「見てました♡」
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「だよな!?」
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安心した。
やっぱり現実だ。
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「でも」
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「なんだ」
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「ちょっと増えただけですよね♡」
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「感覚がおかしい!!」
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ミナが笑いながら近づいてくる。
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「いやーびっくりしたね!」
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「だろ!?」
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「悠斗って増えるんだ!」
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「増えねぇよ!!」
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ユイがぽつりと言う。
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「可能性」
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「それ昨日も聞いた!!」
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エリナは真剣だった。
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「危険かもしれません」
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「やっとまともな反応!!」
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「悠斗が二人になると、ツッコミが倍になります」
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「そこなの!?」
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ミルフィーナが目を輝かせる。
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「じゃあ三人目も出るかな!?」
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「出ない!!」
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シオンだけは静かだった。
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「……」
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「おい」
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「なんで黙ってる」
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「説明できるんだろ?」
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シオンは少し考えてから言った。
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「“揃いきれなかった”」
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「分からん!!」
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「普通なら、全部同じになる」
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「でも悠斗はズレてる」
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「だから、分裂する」
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「怖ぇよ!!」
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全然安心できない。
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その時だった。
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「おーい!」
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街の方から声がした。
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昨日の八百屋の店主だった。
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「野菜安いよー!」
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「普通に来るな!!」
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店主は笑いながら近づいてくる。
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「昨日はありがとね!」
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「何が!?」
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「武器買ってくれて!」
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「戻ってる!!」
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全員が固まる。
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「……」
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「……」
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「……」
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沈黙。
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「武器屋だった記憶、戻ってる……?」
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悠斗が呟く。
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店主は首を傾げる。
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「何言ってんの?」
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「俺は八百屋兼武器屋だよ?」
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「増えた!!」
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「欲張るな!!」
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店主は胸を張る。
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「最近はパン屋も始めた!」
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「さらに増えた!!」
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ミナが爆笑する。
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「なんでも屋じゃん!」
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「世界観が雑!!」
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ユイが小さく言う。
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「揃いきれてない」
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「またそれか!」
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「この街、崩れ始めてる」
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空気が少し変わる。
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「……崩れてる?」
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悠斗が聞き返す。
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シオンが静かに頷いた。
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「今までは、“同じにする力”が強かった」
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「でも今は違う」
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「ズレが増えてる」
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「理由は?」
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シオンは悠斗を見る。
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「多分、悠斗」
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「なんでだよ!!」
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「異物だから」
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「その呼び方やめろ!!」
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だが。
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少しだけ、思い当たる。
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自分が来てから。
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敵は増殖し。
記憶はズレ。
街まで不安定になった。
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「……俺のせい?」
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「多分」
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「重いな!!」
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その時だった。
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ゴゴゴゴ……。
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地面が揺れた。
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「え?」
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街の方を見る。
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建物が。
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増えていた。
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「は?」
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さっきまでなかった建物が並んでいる。
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しかも。
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全部、同じ形。
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「また来た!!」
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街の人々が同時に振り向く。
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「今日はいい天気ですね」
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全員同じ声。
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「うわぁぁぁぁ!!」
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ミルフィーナが叫ぶ。
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空気が揃い始める。
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世界が、同じ形になろうとしている。
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だが。
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「……違う」
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悠斗は一歩前に出る。
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「また揃えようとしてる」
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その瞬間。
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街の景色が、一瞬だけ歪んだ。
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建物が揺れる。
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人々の動きが止まる。
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「効いてる……?」
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悠斗は息を飲む。
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シオンが小さく呟いた。
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「認識したから」
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「は?」
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「悠斗が“異常”を異常だと認識すると、ズレる」
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「主人公能力みたいに言うな!!」
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だが。
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確かに。
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街は、少しだけ崩れ始めていた。
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――この世界は、まだ固定されていない。
第15話を読んでいただきありがとうございます。
今回は「揃おうとする世界」と「ズレ始める世界」の両方を強めた回でした。
悠斗の存在が、少しずつ世界そのものに影響を与え始めています。
ただ振り回されるだけだった主人公が、少しずつ中心へ近づいてきました。
とはいえ、次回からもコメディとカオスは全力で続きます。
ここからさらに物語は大きく動いていきます。




