昨日の自分と会話した気がする
その日の夜。
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悠斗は、一人で外に出ていた。
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街から少し離れた丘。
風が静かに吹いている。
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「……」
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頭の中が、妙に落ち着かなかった。
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昨日まであった店が消える。
存在ごと書き換わる。
しかも、誰も違和感を持たない。
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「笑えなくなってきたな……」
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小さく呟く。
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すると。
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「それは良くないですね♡」
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「うわっ!?」
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振り向く。
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アリスだった。
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「なんでいるんだよ!」
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「夫婦なので♡」
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「その設定まだ生きてたのか!!」
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アリスは悠斗の隣に座る。
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「考え込みすぎですよ♡」
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「そりゃ考えるだろ……」
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「世界が壊れてるんだぞ?」
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アリスは少しだけ首を傾げた。
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「でも」
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「壊れてる世界でも、笑った方が楽しいです♡」
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「……」
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その言葉に、少しだけ力が抜ける。
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「お前、たまに普通にいいこと言うよな」
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「たまにじゃないです♡」
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「毎回です♡」
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「自分で言うな」
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その時だった。
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「……?」
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悠斗は目を細めた。
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丘の下。
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誰かがいる。
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「誰だ?」
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暗闇の中。
こちらを見上げている人影。
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「……」
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妙だった。
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見覚えがある。
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「……え?」
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その人影が、一歩前に出る。
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月明かりが顔を照らした。
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「は?」
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悠斗は固まる。
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そこにいたのは。
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自分だった。
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「なんでぇぇぇぇ!?」
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完全に俺だった。
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顔も。
髪も。
声も。
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全部同じ。
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“もう一人の佐藤悠斗”が、そこに立っていた。
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「……こんばんは」
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「怖ぇよ!!」
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もう一人の悠斗は、静かに笑う。
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「そっちも大変そうだな」
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「そっちもってなんだよ!!」
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「まあ落ち着け」
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「落ち着けるか!!」
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アリスがぽつりと言う。
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「増えましたね♡」
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「そういう問題じゃない!!」
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もう一人の悠斗は、普通に近づいてきた。
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「安心しろ」
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「何がだ!!」
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「まだ、お前は“そっち側”だ」
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「怖い言い方やめろ!!」
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完全に意味が分からない。
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だが。
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妙に“慣れてる”。
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こいつ。
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この世界に。
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「……お前、誰だ」
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「佐藤悠斗」
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「それは俺だ!!」
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「いや、俺もだ」
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「ややこしい!!」
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ミナたちも追いついてきた。
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「どうしたのー……って」
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固まる。
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「増えてる!!」
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ミルフィーナが叫ぶ。
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「コピー!?」
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「嫌な増え方だな!!」
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ユイが静かに言う。
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「違う」
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「何が?」
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「コピーじゃない」
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「もっと嫌だわ!!」
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シオンが、もう一人の悠斗を見る。
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「……早かった」
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「知ってるのか!?」
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シオンは答えない。
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もう一人の悠斗が笑う。
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「まあ、簡単に言えば」
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「お前の“可能性”だよ」
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「は?」
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「この世界に長くいると、ズレる」
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「揃う」
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「増える」
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「意味分からん!!」
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「まだ分からなくていい」
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そう言って。
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もう一人の悠斗は、空を見上げた。
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「でも、そのうち分かる」
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「絶対嫌だわ!!」
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その瞬間。
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風が吹いた。
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一瞬だけ視界が揺れる。
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「……!」
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次の瞬間。
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もう一人の悠斗は消えていた。
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「消えた!?」
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「……」
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静かになる。
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誰も喋らない。
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悠斗は、自分の手を見る。
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「……なんなんだよ」
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理解できない。
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でも。
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確実に。
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この世界は、自分を変え始めている。
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「悠斗♡」
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アリスが袖を引く。
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「大丈夫です♡」
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「根拠がない!!」
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「でも、一人じゃないですよ♡」
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その言葉に。
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少しだけ、救われた気がした。
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……気のせいかもしれないけど。
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空を見上げる。
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月は、変わらず綺麗だった。
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それだけが、唯一まともだった。
第14話を読んでいただきありがとうございます。
今回は少し不気味寄りの回でした。
“もう一人の悠斗”が何なのか、まだはっきりとは分かりません。
ただ、この世界が少しずつ悠斗自身にも影響を与え始めているのは確かです。
とはいえ、次回からはまたしっかりカオスとコメディも加速していきます。
ここからさらに物語は大きく動いていきます。




