世界が、少しだけズレて見えた
街に戻ってきた。
はずだった。
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「……あれ?」
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佐藤悠斗は立ち止まる。
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違和感があった。
いつも通りの石畳。
いつも通りの建物。
いつも通りの人の流れ。
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なのに。
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「なんか……変だ」
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ミナが首を傾げる。
「普通じゃない?」
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「いや」
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悠斗は目を細める。
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人が歩いている。
笑っている。
話している。
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だが。
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「……同じだ」
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「何が?」
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「会話」
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耳を澄ます。
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「今日はいい天気ですね」
「今日はいい天気ですね」
「今日はいい天気ですね」
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「全部一緒だ」
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同じ言葉。
同じタイミング。
同じ表情。
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「怖っ!!」
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ミルフィーナが叫ぶ。
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「コピペみたい!」
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「言い方!!」
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ユイが小さく言う。
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「ズレてる」
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「レベルが違うだろ!!」
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アリスはにこにこしている。
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「心が揃ってますね♡」
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「違う!!」
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エリナが真剣な顔で言う。
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「これは異常です」
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「やっとまとも!!」
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シオンが静かに呟く。
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「いよいよ来た」
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「何がだよ」
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「“均一化”」
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「単語が怖い!!」
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その時だった。
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「いらっしゃいませ」
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目の前に店主が立っていた。
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……さっきと同じ顔だった。
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「いらっしゃいませ」
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もう一人。
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「いらっしゃいませ」
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さらにもう一人。
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「増えてる!!」
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同じ顔の人間が、同じ動きで、同じ言葉を繰り返している。
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「バグってるだろ!!」
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悠斗は後ずさる。
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「この世界、ここまで来たか……」
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シオンが静かに言う。
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「ここまで来ると、もう戻れない」
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「何が!?」
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「普通の感覚」
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その言葉が刺さる。
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「……」
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悠斗は、少しだけ黙った。
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確かに。
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最初はおかしいと思っていた。
ツッコミを入れていた。
否定していた。
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だが今は。
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少しだけ、慣れている。
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「……やばいな」
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その時だった。
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「見つけたぞ」
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あの声。
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黒ローブ――ゼルグ。
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だが。
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その後ろにもいた。
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「見つけたぞ」
「見つけたぞ」
「見つけたぞ」
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「増えてる!!」
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ゼルグが三人になっていた。
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「なんでだよ!!」
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「……増殖?」
ミナが言う。
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「嬉しくない増え方!!」
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ゼルグたちが同時に言う。
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「今度こそ終わりだ」
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「もう聞き飽きた!!」
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だが。
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悠斗は、少しだけ違う反応をした。
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「……なるほど」
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全員が見る。
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「悠斗?」
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「そういうことか」
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「何が?」
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悠斗は一歩前に出た。
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「この世界、“揃えようとしてる”」
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シオンが小さく頷く。
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「気づいたんだ」
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「怖い言い方やめろ」
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「違うものを、同じにする」
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「だからボケも、敵も、街も」
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「全部ズレる」
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その瞬間。
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ゼルグたちが動いた。
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「排除する」
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「やっぱ敵だろ!!」
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だが。
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悠斗は、逃げなかった。
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「……じゃあ」
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一呼吸。
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「逆にやる」
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「何を!?」
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悠斗は振り返る。
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「全員、バラバラに動け」
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「え?」
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「統一するからおかしくなる」
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「なら、逆だ」
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「揃えなければいい」
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全員が一瞬止まる。
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そして。
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「面白そう!」
ミナが走り出す。
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「では好きに動きます♡」
アリスが別方向へ。
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「了解」
ユイが静かに消える。
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「私は浄化します」
エリナが光る。
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「変身します!」
「今じゃない!!」
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「静かに観察します」
シオンが離れる。
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完全にバラバラになった。
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「よし」
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その瞬間。
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ゼルグたちが止まった。
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「……認識、不能」
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「効いてる!!」
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「対象、特定不能」
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動きが鈍る。
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崩れた。
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「いける……!」
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悠斗は、初めて確信した。
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「この世界、攻略できる」
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その瞬間。
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空気が歪んだ。
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「……」
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何かが見えた気がした。
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この世界の、奥。
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ほんの一瞬だけ。
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「……今の」
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だがすぐに消えた。
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ゼルグたちは、その場で動かなくなっていた。
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「終わった……?」
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「多分」
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ミナが戻ってくる。
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「やったね!」
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「いや、たまたまだろ……」
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だが。
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悠斗は空を見上げる。
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青い。
だが。
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少しだけ、歪んで見えた。
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――この世界は、壊せるかもしれない。
第10話を読んでいただきありがとうございます。
今回は「街」という日常の中で起きる異常を描きつつ、
この世界の仕組みが少しだけ見えてくる回になりました。
これまでのカオスな出来事も、実は一つの流れに繋がっている可能性があります。
そして悠斗自身も、ただ振り回されるだけではなく、少しずつ変化し始めています。
とはいえ、基本はこれまで通りコメディ全開で進んでいきますので、
気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。
ここからさらに物語は広がっていきます。




