肝心な所で魔法が役に立たない件
「あれ?場所を伝え忘れたと思ったのに…流石ユーゴくんだね」
モヤモヤする気分を整理しようと寮の屋上に向かったのだが、その扉を開けた先に待っていたのはアオイだった。
混乱の中辿り着いた先が、最終目的地であった。
想定外の事態に頭の回転が悪くなり、アオイにどの様に声をかけて良いのか分からずに居たのだが…先にアオイが口を開いた、
「改めて、昨日は戦線から帰って来たばかりで、訓練からの連戦…疲れてるのに私のワガママに付き合ってくれてありがとう」
「少々疲れたのは言うまでもないが、実践はこちらの万全な状態ばかりでは無い。そう思えばそんなものだと思う…それよりも…アレで良かったのか?」
「うん、ユーゴくんとの距離がよく分かった」
何を言って良いのか、何を言わない方が良いのかさっぱり言葉が浮かんでこない。この時の俺はアオイは成績の事を気にしていると思い込んでいた。
「ユーゴくんは本当に凄い…そして遠かった」
「それは前線と後衛の役割によるものだ」
「それにしても遠かったんだ」
「1つ教えて欲しい。何故自分らしさを捨てて決闘スタイルを選んだ?君にならこの結果は分かっていたはずだ」
「水無月アオイらしさってなんだろうって思いながら1度本気でユーゴくんとぶつかって見たかった。村上くんもマイちゃんも、氷川くんもユーゴくんと戦って貴方を認めて、毎日貴方を追い越そうとして高みを目指しているのに私はそう言った気持ちにはなれない」
成績優秀、容姿端麗の学園のアイドルの何が不服なのだ?
君にはある。その絶対的容姿が。
などと口が裂けても言える状況では無い。
1人のパイロットとして思い悩んでいるようだが、アオイも即戦力として期待されているパイロットだ。相対評価など行う必要が何処にあるのだろうか?
「君は1人で戦果を挙げるタイプでは無い」
「でもユーゴくんも氷川くんもマイちゃんもゴウくんも…そして小川くんも1人で戦える…それなのに私は…」
やはりトドメはトーマの才能開花か…
これまでスナイパーポジションで最強の座を手にしていたがそれを失った事が不安を助長しているのか?
だが、君はスナイパーではなく、指揮官としての才能を期待されているのだ。そんなものは気にする必要は無い。
「君は学校内での演習の成績が欲しいのか?」
「え?」
「俺達がやっているのお遊戯ではない。戦争だ。戦場においてたった1人で10機撃破した所で落とされる時は落とされる。だからこそ、君は指揮官としてチームを守る事を求められているのは理解していると思うが?」
アオイはきっとそんな事は分かっているだろう。
だが敢えて続ける。
「君は何の為に戦う?」
偉そうに言っておいて俺には大義はない。
自分の世界に戻る為に戦争を利用しているだけだ。
その上で無益な殺生をしている。
本来の自分の世界には関係の無い事だとして。
「私は家族の仇を撃ちたい」
「その対象は?」
「私の家族は戦争に殺されたの…だから私は戦争を倒したいの」
「終わらせたいと言う解釈で良いか?」
「うん」
「普段の君からは想像も出来ない発言だが…だいたい学園の生徒たちはそう言う志のメンバーだからな」
ならば君の目指すものは決まっているじゃないか…
「戦争を終わらせる為に君の力を活かすのであれば…指揮官として皆を守り抜く事だ。それはさっきも言った通りだ。単騎で撃破出来るが前しか見えないメンバーをコントロールして最小の被害で最大の戦果を取るのが君の役割だ」
「でもそれじゃ私はみんなにおんぶにだっこで」
「それはおんぶにだっこでは無く適材適所だ。君にできる事をできるだけやれば良いと思う」
複雑な表情を見せるアオイに対して自分の持てる戦争論で答えた。
果たしてそこに彼女を安心させられる内容があったかは自信が無い。と言うか表情から察するにここは本題では無いようだ。
「君の作戦上の障害は俺が取り除く、君が危機に陥れば俺が君を守る。それは君がお荷物だからと言う訳では無い。最前線でチームを指揮すると言う俺には出来ない事をしてくれる君を俺のできるでフォローする。それだけの話しなんだ」
多分この言葉は逆効果かもしれない。俺自身も何が言いたいのか分からなくなってきた。
若しかしたら何か別の事を伝えたいのに伝えられないせいかもしれない。
「私はユーゴくんの側に居ても良いのかな」
「寧ろ居てもらわなくては困る」
「どう言う意味で?」
「なんと言うか…ただ…チームメイトで、チームのリーダーだからと言う訳だけではなく…なんと言うか…」
何を言いたいんだ俺は、夕日を浴びる彼女が綺麗過ぎて、目が合っているだけで心臓が張り裂けそうだ。
もう俺は古のフィールド魔法【吊り橋】に完全にかかっている。
ダメだ苦しい…息が出来ない。
【ミラージュ・トレース】を用いてでも、この話に決着をしたい。
アオイが何が言いたくて、何を期待しているのか?
俺がなにを思ってこんなに苦しいのか…
疲労と謎の胸の高鳴りで目の前が回り出した。
「ユーゴくんは表情1つ変えずに喋るけど…私は今がどうしても伝えたい事で胸が苦しいんだ」
表情1つ変えない?何を仰る。君に何を言われるのかが怖すぎて不安と恐怖で今にも失神しそうな男がユーゴ・アマギですよ。
言いたくて苦しいとか…やはり演習で皆の前でやり過ぎたと言う事だろうな。
しかしリーダーとしてこれまでは大目に見てきたが…とうとう決別を言い渡されると言うことだろうか。
やはり俺には女性と関わる才能はない。35年と15年…合わせて50年も人間やってきて、このスキルだけは伸びなかった。
「単刀直入に聞きます」
「どうぞ」
アオイが急に敬語になった為に思わず敬語で返してしまった。
終わった…学年アイドルに少しの間一緒に関われて幸せだった。来世はもう少し真っ当な人付き合いが出来ますように…
「私は1人の女性としてユーゴくんの側に居ても…」
ん?
俺の聞き間違いか?
想定した内容と少し差異があったかのように感じる。
学園のアイドルから俺に対してプロポーズに近い言葉を言われた様な気が…
あれ急に目の前が…
続きが気になる…
…
「はっ…」
「おはようユーゴ」
「トーマ!今何時だ?」
「朝の6時だよ。本当に疲れて居たんだね。君らしくもない程ぐっすり眠っていたよ」
俺は部屋の時計を確認する。一体何があったのか。
酷い頭痛が残っているが動けない程ではない。
いつもの様に朝食が用意されており。
俺はふらつく体をどうにか起こしてトーマの用意した朝食を頂く事とした。
「俺は昨日どうやってここに戻った?」
「本当に覚えてないの?」
「もちろん、覚えていないから聞いている」
…何処からが夢か思い出せない。
俺はどうしたのだ?
「実は…」
◇
時を遡りユーゴが倒れた所…
「ユーゴくん?」
「…」
「あーもー大事な所で気を失うかなぁ」
「マイちゃん…どうしよう」
「学園のアイドルに告白されて気を失う天才パイロットってどうなのよ」
「ユーゴくんは、本当に無理してたんだね」
「トーマくんからの報告だとあの後ソワソワして一睡も出来なかったみたいだからね…無理もないか」
アオイは告白に際し、マイに着いてきて貰って居たようだ。
そう…アオイは俺に好意を伝えようとしていたのだ。
「そもそも何時ものユーゴくんの感知力なら私が側に居たら気づく筈だし、なんか様子がおかしいなぁとは思って居たんだけど」
「どの道今回は答えを貰えそうもなかったかな。私はこんなにドキドキしてたのに顔色1つ変えないなんて」
「いやいや、あの様子ならば完全な脈ありよ。だってあんな支離滅裂な発言をするユーゴくんは演習や実践では想像できないもの。何時も自信に溢れて、できる事前提で無茶な作戦を引き受けるもんね。つまり、あの自信なさげなユーゴくんは、アオイ専用ユーゴと言って差し支えないわ」
俺が倒れかかり支えるのに手一杯のアオイをマイは助けながら俺の動揺を見抜いていた。恐らく普段のアオイならば気付くだろうが、人に好意を伝えようと必死になり、相手の様子を伺っている状況でそんな冷静な判断をできる人間は多くはない。寧ろ、本気だからこそ見えなくなる物もある。
「ユーゴくんって細身に見えてかなり重い…」
「相当鍛えられた身体みたいね」
「とりあえず部屋に送ろうか」
こうして俺は自室まで運び込まれた様だ。
「しかし…寝顔は可愛いこと」
「ユーゴは滅多に熟睡しないから貴重な状況だね。物音1つで起きて銃を構えるから…」
「何処のゲリラ兵なのやら。そう考えるとユーゴくんはアオイの前でだけ熟睡すると言う事で!ワンチャンあるわね」
「ユーゴくんは私の傍で熟睡するんじゃなくて私と居ると毎回追い込まれているんだよね…私疫病神かも」
「大丈夫、天は二物を与えず!つまりユーゴくんはパイロットとしてエキスパートでも恋愛は素人以下なのよ。だからこれからアオイがリードして上げれば大丈夫」
「ユーゴくんの気持ち聞いてもいないのに?」
「多分一生答えは帰って来ないから、ユーゴくんの言葉通りアオイはアオイらしくして側に居れば良いと思う」
この件について俺が知るのはもう少し先で、トーマは疲れて倒れた所を運び込まれた事だけを伝えた。アオイの不思議な行動に恐怖する俺を涼しい顔でおちょくっているのかと思うと、本当に恐ろしいのはトーマかもしれない。
お互いの気持ちがあと一息の所ですれ違う俺とアオイだが、アオイを不安にさせる出来事が目前に迫って居たのだった。
気がつけば評価やブックマークまで頂き本当にありがとうございます。めちゃくちゃやる気が出ます。
ロボット大戦を魔法の力で無双する件でもありがちな闘技場バトル大会でも行おうと考えております。ネタは固まりつつありますので実践パートと少しかけ離れますがお付き合い頂ければと思います。




