魔法でも未来が見えない件
「繰り返す、これは訓練である」
普通はこうものは訓練ではない場面に使うセリフでは無いのだろうか?
些細な事が気になりだした俺はセンスティブに覚醒しつつあるのかもしれない。
センスティブ…それは超感覚保持者
センスティブ…それは超こだわり保持者
訓練を終えシャワールームで汗を流すと学生服に身を包んだ。
教室に戻る途中でトーマに声をかけられる。
「ユーゴ少し良いかい?」
「あぁ…」
「あまり大きな声で話す事ではないと思うんだけど、最近アオイさんの調子が変なんだ」
「ほぅいつの間にか…下の名前で呼ぶようになったんだな」
トーマの話によるとアオイの射撃精度が落ちているとの事だ。
一般の生徒には分からないレベルだが、トーマクラスのスナイパーになるとその差を感じ取れるらしい。
「とりあえず声をかけてあげてよ」
そう言えばトーマとは宿舎で会っているが、他の面々とは暫く顔を合わせていない。
教室に進みアオイを探すが、姿が見えない。
そこでアオイと仲の良いマイに声をかける。
「久しぶりだなマイ」
「あらユーゴくん、戻ってたのね」
「あぁ…昨夜戻った」
「だったら早くアオイに顔を見せてあげてよ。大変な事になってるから」
「アオイが?…今何処だ」
マイに聞いた通りに屋上に向かうと転落防止用の手すりに手をかけるアオイが居た。
「馬鹿な事はやめろ」
俺は成績不振を理由にアオイが早まっているのでは無いかと思い、慌てて走り出した。
俺の声にビックリして振り返ったアオイはバランスを崩す。
転落しかけるアオイを俺は抱きしめる様にして助けた。
「ユーゴくん?」
「少し成績が落ちた位で滅多な事を考えるな」
「え?」
どうもリアクションがおかしい。
何かを早とちりしたかのか?
しかしアオイの表情は決して悪くない様に見える。
「そっか。あの九死に一生の場面でも全く動揺しなかったユーゴくんを動揺させる事が出来たのね」
「あ…いや…大丈夫なら良かった」
後ろからクスクスと笑いが聞こえる
「いやーユーゴくんって冷静で思慮深いかと思いきや、アオイの事となると暴走気味になるよね」
流石センスティブ…俺の挙動が読まれている。
如月マイ…油断ならん相手だ…
顔面が発赤していくのが分かる。
「貴様!!戻ってそうそうに!!!」
久方ぶりに見るアオイ親衛隊の面々
忘れていた…こいつら刺激する事は…
落ちこぼれから一転、期待の新人パイロットになってから忘れていた日々に少し戻れた気がした。
荒ぶる親衛隊の対戦を受けるが彼らとの差は明らかとなっていた。
以前はトーマと2人で撃破した面々も今や1人でも軽くいなせる程になっていた。
古来の兵法によると、如何なる相手も3人で囲めば勝ち目があると言う話を聞いた事があるが今の俺には当てはまらない。
「ほぇーユーゴの奴また強くなってねぇか?」
「騎士として戦いを乗り越え一段と強くなったな……」
俺の戦いを観戦したゴウとアサヒは冷静に分析しているがアサヒの天然は一向に変わる気配は無い。
…俺は騎士ではない。
「今のユーゴは雲の上の存在だね」
「雲の上の存在か…」
「アオイさん?どうかしたの?」
「いえ…それにしても小川くんは自分の事のように嬉しそうだね」
「こんな凄いパイロットと同じクラスで訓練を受けれて居るのだからね。彼と出会う前の僕だったらSクラスどころか、Aクラスも追い出されて居たかもしれないからね」
「確かに…彼が来てからあっという間に色んな事が起こって、いつの間にか私達の取り巻く環境が変わったね」
アオイの不調の原因は俺にある様だ。
俺が現れる前には学年首席で総合力NO.1の彼女だったが俺が現れてトーマの才能開花によって得意の狙撃に置いても今や学年次席と言う位置に居る。
何か劣等感の様なものを感じている様だ。
機体から降りた俺にアオイが詰め寄って来る。
「ユーゴくん」
「どうした?」
「疲れている所に申し訳ないんだけど私ともう1戦戦ってくれない
「構わないがパートナーはどうするんだ?」
「私1人とユーゴくんで」
無茶苦茶だ…確かにアオイも優秀なパイロットではあるが、スナイパーが前線のパイロットと決闘スタイルで勝負をしても開幕で撃ち抜かない限り勝ち目は薄い。
「良いの、それでも」
「せめてゴウかトーマを連れて…」
「私はユーゴくんと決闘をしたいの」
一瞬決闘が結婚に聞こえたのは俺の妄想だろう。
アオイは何かをムキになっている様にも見える。
彼女の焦りの正体は俺への劣等感なのか…はたまた…
「しかし…君は後衛だ。キミの前は俺達が守る訳だから」
「私も守られるだけじゃ嫌なの」
珍しく感情を顕にするアオイ。
トーマが可変機を用いて自衛能力を身につけた事も影響していると考えられる。
彼女の想いを受け止めて俺は受ける事を決めた。
「ハンデは要らないよな」
「もちろん本気で来て」
先程使ったアサルトスレイブは無被弾であった為そのまま出られない事は無い。
「アオイさんいくらなんでも無茶だ。僕が加勢す…」
相変わらずお節介の大好きなトーマがアオイの支援を申し出ようとするが、マイに制された。
「如月さん」
「トーマくん、今アオイはパイロットとしての本気を持ってユーゴくんに挑もうとしているわ」
「そうだな…何があったかは分かり兼ねるが本気の勝負に割り込む事はナンセンスだな…」
「おっマイとアサヒの意見が合うなんて珍しいな」
「ホントだね…」
アサヒがマイの意見に同意する事は非常に珍しい。
俺やトーマよりもアオイとの付き合いが長い彼ら3人は何か気持ちのようなものを共有している様だ。
「ユーゴ」
「なんだアサヒ」
「アオイは本気だ…お前は手を抜く事は許されない」
「言われるまでもない…アオイを相手に気を抜いたら一撃で沈められる」
「そう言う意味ではない。本気で挑んでくるパイロットに対して、例え格下であっても手を抜く事は騎士として無礼にあたる」
「俺は騎士ではない……が言いたい事は理解した」
2つのスレイブが演習フィールドに射出される。
俺は開幕狙撃を警戒して選択したアサルトスレイブでシールドを構えるがその様な挙動はなかった。
【フィールド・トレース】を用いてアオイの様子を捉えるとアオイはなんとスラッシュスレイブを選択した。
「馬鹿な…狙撃手がスラッシュを?」
「私は狙撃手じゃない…水無月アオイです」
アオイは前の関西軍のエースの様な名乗りを挙げて距離を詰めてくる。
名乗り、自分を証明したいそんな欲求に裏付けされた物なのかも知れない。
妄想と思わぬ機体選択に俺は完全に虚をつかれた。
加速式レーザーソードが上段から迫る。脇ががら空きであるが俺はバックステップでいなす。
空いた地面にレーザーマシンガンを連射して目くらましをかける。
「そんな動きは分かってます。ユーゴくんはいつもそれから入るから」
俺の牽制は想定済みの様でレーザーブーメランでバックステップの硬直を狙われる。
シールドを構えるが、弾かれて姿勢を崩される。
「おぃおぃ…アオイが押してんのか?」
「疲労を差し引いても、全てが奇襲的かつユーゴくんのパターン把握した動きね」
「今の所はアオイらしからぬ動きがユーゴを抑えたな…しかし…ユーゴは分かっていないようだな…それではアオイは満足はさせられん」
「おや?数少ない紅い閃光に対する勝者はこの戦いに何か意味を察していると?」
実況者の様に振る舞うマイに対してアサヒは呆れながらも口を開く。
「この戦いは、アオイがユーゴに認められたいと願う戦いだ」
「え?アオイさんがそんな事考えているの?首席なのに?」
「トーマ…ユーゴが初めてアヴュー・ウィンと戦い…撃破された時を覚えているか?」
「うん」
「あの時俺達はユーゴとアオイの捜索に出た…回収した帰りにユーゴは高熱でうなされながらもアオイの身を案じていた」
アサヒは続ける
「そして…ユーゴがSGAに捕まった際にもアオイを人質に取られ投降したと聞いている」
「やだ!アオイって完全なるヒロイン気質じゃない」
「それが彼女の劣等感なのだろう…学園では首席であってもいざ実践となるとユーゴにおんぶにだっこでは…彼女とて兵士としてここに居る…ここまで残るには何かその精神力を支える強い意志がある筈だが…それが折れかけて居るのだろう」
「アサヒ…お前…」
「なんだゴウ?」
「そんな長いセリフをボケずに話すなんて」
「俺はいつもボケなど言わん」
「アオイさんを支える意志…それを取り戻す為に…おんぶにだっこのユーゴを超えなくちゃ行けない…そういう事?」
「やれやれみんな難しく考え過ぎよ」
「ほぅお前には思い当たる節があると?」
「鈍いアンタ達には乙女心は分からないでしょうけど」
◇
そうだ、私はここでユーゴくんと本気で戦わないと行けない。
近接戦闘ではユーゴくんには敵わないのは分かってる。だけどチャンスが有るとすれば彼が見たことが無い私で挑まなくては行けない。
レーザーブーメランでユーゴくんが姿勢を崩した所に更に体当たりを加える。
もつれあう二機でも私のスラッシュスレイブは加速式レーザーソードを構えいる。
でも、分かっている…明らかに上手く行き過ぎている。
あの英雄青島スミト大尉を退け……最強の敵アヴュー・ウィンとも渡り合ったユーゴくんがこの程度の攻撃に怯むはずが無い…何故なら…
「躊躇ったか?決定機を逃したな」
「ユーゴくん…本気でやって欲しいの」
「俺は本気だ…ただ君の奇策には驚いた」
「嘘だ!」
私には核心があった。
この一連のスラッシュスレイブでの格闘連携はユーゴくんの後ろで私が見たものそのままなの。
圧倒的な機体性能差を跳ね除けて戦ったアヴュー・ウィンとの戦いでユーゴくんが見せた動き。
機体は同等で、近接戦闘が苦手な私が真似した所でユーゴくんが対応出来るはずがないなんて分かりきってる事だから。
「成程」
「ユーゴくんは強い、そして優しい…でもそれじゃ私はダメなの」
勝機をみすみす逃した私だけど、これじゃダメなの。本気のユーゴくんと戦わないと
「いい連撃だ、この短期間で近接の連撃の基本が身についている」
「基本じゃダメなの」
スラッシュスレイブの斬撃を回避された後に回し蹴りで倒した後にレーザーバルカンで追い打ちをかける。
ユーゴくんはシールドでやり過ごしながら姿勢を立て直した。
「お願いユーゴくん本気で」
「俺は…」
「私は本気のユーゴの側にいたいの。何時も守られてばかりじゃ嫌なの…」
「…」
ユーゴくんは少し黙った後に雰囲気が変わった。
何か気迫と言うかオーラと言うべきなのか分からない心理的プレッシャーが格段に増した。
「すまなかった…俺がそこまで君を追い詰めていたとは」
ここからは本気で戦ってくれる。
ここからなんだ、ここである程度戦えたらきっと彼は私を見てくれる。
ただの守るべき対象じゃなくて、共に戦う仲間として。
そしたらやっと私は彼に気持ちを伝えられる。
「君の覚悟はよく分かった。良いだろう相手になってやる」
そこから私は何をやってもユーゴくんに触れる事すら叶わなかった。
大ぶりしたレーザーソードは全てかわされて私の連撃は切れ目に確実にレーザーマシンガンの反撃を受ける。
そこからユーゴくんの攻撃は私の避けた先に飛んでくる。
見る見る装甲は削られ、手も足も出ない。
でも
「このまま負けたくない」
「気持ちだけでは俺は倒せない」
慣れない近接戦闘で、ものすごく集中力を削られる。
攻撃は全て読まれ、回避も防御もさせて貰えない。
こんなに恐怖を感じた戦闘は初めてだった。
私はいつも誰かに守られてぬるま湯に浸からせて貰っていた事を痛感した。
「この一撃に全てをかけるしかない」
「まだ手があるなら出来る時に出来るだけしておくんだな…終わってからでは何も出来ない」
私は渾身の一撃をユーゴくんにぶつけた…いや…ぶつけようとしたが叶わなかった。
最大出力の加速式レーザーソードもアサヒくんの必殺技堕天虚空斬によって手首を切り落とされ手から離れたソードが地面に落ちる次の瞬間にはレーザーソードを二刀流に構えたユーゴくんのアサルトスレイブに胴体を残してバラバラに切り刻まれた。
「完敗だ…強すぎるよ…」
私は涙が溢れた。
こんなに悔しいのは何時ぶりだろう。
ユーゴくんを連れて行かれた時と同じくらい悔しい。
でもそれとは違う清々しい気持ちだった。
◇
アオイとの戦闘を終え、機体を収めると俺はアオイの元にどの様に駆け寄って良いものか悩んでいた。
「ユーゴくん、ありがとう」
「果たして礼を言われる様な事を出来たとは思えないが」
「ちょっと気持ちを整理したいから夕方お話できるかな?」
「あぁ問題ない」
本気だった。
アオイの気持ちに答える方法が分からず、【ミラージュ・トレース】まで用いて完膚無きまで叩き潰した。
彼女が泣いていたのは分かった。
オレは何か間違って居たのだろうか…
「流石だねユーゴ」
立ち尽くす俺に初めに声をかけたのはトーマだった。
「俺は…」
「ユーゴくん、あれで良かったんだと思うよ。アオイはユーゴくんに本気を出して貰いたかったんだから」
「だが、このまま自信を無くして仕舞わないだろうか」
俺の気持ちを察する様にマイが口を開いた。
後味はあまり良いものでは無いとカッコつける事も出来たが、ハッキリ言って悪い。
「お前は騎士として最高の振る舞いをした」
気持ちが動揺しすぎてアサヒのボケに対して言い返すゆとりも無い。
「兎に角、少し休めよ流石に朝の演習をこなして昼から2連戦だと流石の、ユーゴも限界だろ」
「あぁ少し休む」
俺はトーマと宿舎に戻りトーマに夕方に起こして貰うようにしてベットに入った。
が!さっぱり眠れる気配がない。
アオイが何を考えているのか全く分からない。
不安で眠気など凌駕されてしまった。
落ち着け俺。元35歳のおっさんが何を恐れている。
しかし、この治まらい気持ちはなんだ。フルパワーで【ミラージュ・トレース】を使っても何も見えない。
眠れず、変に【ミラージュ・トレース】を酷使した事で疲労は限界点だが約束の時間が近い。
トーマが起こしに来るはずだったが居ても立っても居られず部屋を飛び出した。
何処に行くのかも分からずだったが気持ちを落ち着かせようと屋上に向かった。
そこに人影が1つ…アオイだった。
今回もお読み頂きありがとうございます。
こんな不定期ものを読んで下さる方が居て光栄です。評価を頂いたり、ブックマークを頂いて、更にコメントまで…モチベーションが爆発して参りました。勢いに乗って苦手な対人関係を書いて見ました。
この様なパートを不要と思われる方も多いと思います。私も苦手です…。
でもせっかくの学生シナリオですから頑張って表現したいと思います。
今後ともよろしくお願いします。




