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妖狐、神楽坂文のコンサル譚10 【重慶幽鬼】  作者: 非常口どん八
第二章

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8/20

8 タバコをスパスパと吸いながら「タバコは絶対やめた」と豪語する禁煙会見


 


          (2)




『うっ、うわぁぁんッ――!!」

『おい!! 逃げっぞ!!』

 スマホのスピーカーからは、男ふたりの緊迫した声が響いた。

 動画の画面は激しくブレており、暗がりの中、ふたりが“ナニカ”から必死に逃げているのが伝わってくる。

 なお、廃墟地区と思しき場所のようで、チラチラと見える背後のほうには、明々とした超高層ビル群と、その手前にホンヤートンが映っていることから、夜の重慶だとわかる。

 コメントや引用には、

『ザマァみろ』

『ヤラセだろ、どうせ』

『おお、今回のは、やらせにしては緊迫感があるぞ』

 などと、呆れたり、嘲笑するものが多かった。

 このインフルエンサーふたり組は、どちらかというと、良く思われていないようだった。

 だが、少なくない割合で、

『いや、これ、ほんとうに幽鬼が出たんじゃないか?』

『やっぱ、幽鬼の噂は本当だったんだ!!』

『まあ、AIの可能性もあるけど、それにしてはリアルすぎる』

 などと、彼らを擁護するようなものも多くあった。

 その中でも、【幽鬼】という単語が多く目についた。


「幽、鬼――?」


 ドン・ヨンファが、頭にハテナマークを浮かべた。

「何? その、幽鬼って?」

 パク・ソユンも、「は――?」の顔をすると、

「ああ、中国で、妖怪とか幽霊といった類のものが、そう呼ばれるみたいだね。こまかいニュアンスだったり、イメージは、違うんだろうけど」

 と、カン・ロウンが、ふたりに答えた。

「ん? キョンシーとか? そんな感じ?」

 パク・ソユンが、聞いた。

 まあ、中国の幽霊と聞くと、万人が思い浮かぶのはキョンシーだろう。

「うん。そうだね」

 カン・ロウンが、うなづいた。

 すると、


 ――ぴ、とっ……


 と、パク・ソユンが唐突に、自分の額に、何か紙切れをつけてみせた。

 また、

 ――だ、らん……

 と、腕をまっすぐ伸ばしつつ、手を垂らしてみせる。

 恐らく、キョンシーのポーズ。

 パク・ソユンは、

「ぽよ……」

 と、無表情ながらも、キメ顔をつくる。

 しかし、

「……」

「……」

「……」

 と、三人はポカンとした顔で沈黙するばかりで、それ以上の反応は、返してこなかった。

 パク・ソユンも、

「ぽよ……」

 と、キョンシーポーズのまま、沈黙を継続する。

 そこへ、

「何……? それ?」

 と、ドン・ヨンファが、ようやく聞いてやった。

「……」

 パク・ソユンは、まだ喋らない。


 …………


 漂う沈黙をはさんで、ひと呼吸おいて、

「ごめん。ちょっと、さ? 殴っていい? ヨンファ」

 と、パク・ソユンが、縦にしたまま拳を構えて聞いた。

「は? 何でだよ?」

 ドン・ヨンファが、怪訝な顔をすると、

「いや、オチがないから」

「だからって、僕で回収するなって」

 と、締まりが悪いからと言うパク・ソユンに、つっこんだ。


 本題にもどる。

 四人は、バズっている動画について調べてみる。

 すこし調べていくうちに、重慶で噂になっている“人間消失事件”のことを――、“幽鬼”が謎の力によって、人を“空に落としている”のではないかという、都市伝説のような噂が広がっていることを知る。

「まったく……、人を、“空に落とす”幽鬼だと? アホくせぇ」

 キム・テヤンが、胡散くさそうに顔をしかめた。

 まあ、これまでに、奇妙な事件を調べてきたことなど何度もあるSPY探偵団とはいえ、“人が空に落ちる”、“人を空に落とす力”などと聞くと、さすがに胡散くさく感じずにはいられなかった。

「まあ、目撃された証言から、その可能性が高いようだ。特に、夜に、成層圏くらいの上空で、鬼火のような怪光が多数目撃されているが……、それが、人が高速で空に落ちるときの、燃え尽きる炎なんじゃないかってね」

「逆大気圏突入、みたいな感じ?」

 と、パク・ソユンが、そんな言葉が思い浮かんで、

「ああ」

 と、カン・ロウンが、うなづいた。


 また、

「それで? この、デオとザオって、DZコンビってインフルエンサーのふたり組が、動画の企画なのかな? 肝試しみたいな感覚で、幽鬼ってのを、調べに行ったわけかい?」

 ドン・ヨンファが話をまとめ、SNSの投稿のふたり組のことに、話をもどした。

「けっ……、いざ、幽鬼ってのを調べていたら、本物が現れたってわけか?」 

 キム・テヤンが舌打ちしながら、「アホくせぇ!」とでも言いたげな顔をすると、

「まあ、動画を見たかぎり、本当に、人が空に落ちてるっぽいとこが、映っちゃってるし、ね? まあ、コメントにもあるけど、AIの可能性も、否定できないけど……、けっこう、本物っぽい映像だったじゃん」

 と、パク・ソユンが、まだブイブイ酒を飲みながら答えると、

「あぁ”ん? 飲んべえのお前だから、何でも本物っぽく見えんだろ」

「は? 飲んべえって? だから、言ってんじゃん? お酒は、絶対やめたって」

「出た。その、“お酒は絶対やめた”のネタ」

 とここで、ドン・ヨンファがつっこんだ。

 まるで、タバコをスパスパと吸いながら「タバコは絶対やめた」と豪語する禁煙会見のようなネタに対して。


 また、動画を再生してみる。

「どうやら……、動画も、このDZコンビのSNS投稿自体も……、“ここ”で、止まっているようだな」

 カン・ロウンが言いながら、動画の、最後あたりを確認した。

 ふたりが、幽鬼に追いつめられ、絶体絶命になった場面。

「何? 殺され、ちゃったの? 幽鬼に?」

 パク・ソユンが、サラッと言うと、

「いや、何か……、落ちているようにも、見えるんだけど?」

「だから? それが、空に落ちているって、わけでしょ?」

「いや、廃屋に入って行ったから、違うんじゃないか」

 と、ドン・ヨンファが、そこは反論する。

 確かに、最後のほう、ふたり組は廃屋の中に逃げこんだ。

 なので、天井から屋根まで開いた穴があるか――、もしくは、“建物ごと落とす”でもしない限り、人間二人を直接空に落とすのは難しいと考えられる。

「まあ、廃墟だ。床が抜けるような場所でも、あったんだろ」

 キム・テヤンが言うと、

「上に、空に落とされたんじゃないって、ことかい?」

「まあ、ふたりが最後にいた場所を見るに……、とりあえず、それが、現実的な答えだろう」

 と、聞いたドン・ヨンファに、カン・ロウンが答えた。

 そこへ、

「じゃあ? 下に落ちて、死んじゃったんじゃない、ぽよ?」

 と、パク・ソユンが、言葉をはさむと、

「いや、何で、死んだことにすんだよ。ソユンは」

 と、ドン・ヨンファが、つっこんだ。

 すると、その時、



「――いや。“やつら”は、生きているぞ」



 と、突然、どこかからした声に、

「「「――!?」」」

 男たち三人が、ビクッ――!! と驚愕し、

「ぽよ?」

 と、パク・ソユンだけが、「ぽよ」で、気の抜けた反応をした。

 そうして、


 ――ス、タッ……


 と、声の主が、宙をふわりと舞って着地した。

 そこに、あった姿――

 黒の、夏仕様のアサシンドレスを身にまとった、麗しい黒髪の、美女の形(なり)をした者。

 なお、頭には、キツネ耳がヒョコヒョコし、お尻からは尻尾が覗いてみせる。

「――!!」

「あっ――!!」

 カン・ロウンとドン・ヨンファが反応し、

「タヌ、キ――!!」

 と、キム・テヤンが思わず声にした。

 すなわち――

 妖狐の、神楽坂文が現れたのだ。

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