7 ぬ、ぬわぁん……、俺は、人間火力発電所に、なるッ――!!
それはさておき、
「――で? 本場並みの、辛い火鍋を食べたくなったから、気まぐれにリクエストしたのかい? ソユンは」
と、カン・ロウンが改めて、パク・ソユンに、火鍋のわけを聞いた。
横から、
「それも、こんな、蒸し暑いときに」
と、ドン・ヨンファが言葉をはさみながら。
「いや、こんな、蒸し暑い時こそ、火鍋ぽよ」
「まあ、蒸し暑いときにこそってのは、分からんこともねぇかな」
と、キム・テヤンが同意し、
「ムシムシする高温多湿の、四川の盆地の夏で、汗をかいて、身体のうちから熱を出すことでバテないようにするってのが、よく言われるからな」
と、カン・ロウンが補足しつつ、
「ヨンファも、現地の、本格的な火鍋店で、食べたことはあるだろ?」
「まあ、年に2、3回くらいは、ビジネスで行くからね」
と、ドン・ヨンファは答えた。
この男は財閥のボンボンであり、はたらく必要はないのだが、半分ヒマつぶし感覚で実業家をしているためか、交友やビジネスの範囲はひろく、中国、そして重慶を訪れることも珍しくなかった。
本題にもどって、パク・ソユンが、
「まあ、発汗して、身体の熱を冷ますために火鍋を食べるってのは、よくある一般的な回答なんだけど……、それだけじゃ、ないの」
「じゃあ、どういう?」
と、ドン・ヨンファが聞くと、
「ヒトってのは、さ? あまりに蒸し暑いと、狂いそうに、なるじゃない?」
「まあ、それは、分からなくもない」
「けっ、てめぇは、いつもキンキンに冷えたオフィスや、悪趣味な高級車に乗ってばかりだからな、そもそも身体が軟弱なんだよ、タコ」
とここで、キム・テヤンが間に入って、ドン・ヨンファをタコ呼ばわりし、
「ああ、もう、うるさいなぁ。僕だって、けっこう、外に出てるほうだって」
と、罵られたドン・ヨンファが、嫌そうな顔をした。
すると、パク・ソユンが、
「ああ? アンタの、高級車って聞いて、思い浮かんだんだけど、さ?」
「ん? 何を、だい?」
「アンタの、赤いロールスロイス・カナリン、あったじゃない? こんど、そん中で、火鍋パーティするから」
「うん。それは、殺したいね。しかも、カナリンじゃなくて、カリナンね? わざと、言い間違えてるでしょ?」
と、ドン・ヨンファがつっこんだ。
「まあ、話を、火鍋に戻すと……、暑い気温だけなら、逃げれなくもないけど、湿度が加わると、キツイからね。熱が、どんどん体に溜まっていくと、頭も身体も、働きが悪くなって、狂いそうになるってのは、分かるな」
と、カン・ロウンが、律儀に話をもどして補足すると、
「ぽよ。だから、さ? 火鍋の、唐辛子や花椒もろもろによって、エンドルフィンを――、何か脳内麻薬的なナニカを出して、さ? あらかじめ狂うことで、かえって狂わないことを乗り越える的な、アレよ」
「「何、言ってんだ? お前。てか、乗り越えるべきは、狂いそうになる状態だから、文章おかしくないか?」」
ドン・ヨンファとキム・テヤンが、同時につっこんだ。
それをスルーして、
「とりあえず、まとめると、アレよ? 内側から熱を出す――、なおかつ、脳内をギャンギャンにして、蒸し暑さに負けないようにエネルギーを、発電するように得るの。ぬ、ぬわぁん……、俺は、人間火力発電所に、なるッ――!! ――てな感じで」
「何か、二人ぶんくらい、誰かのセリフがまじってないか? それに、何? 『ぬわぁぁん』って? まるで、風呂から出て疲れた時に出るような、気のぬけた声は」
と、こんどは、ドン・ヨンファだけがつっこんだ。
そのようにして、SPY探偵団のメンツたちは火鍋を食っていたわけだが、ここらでしばし箸休めをする。
冷たい酒を飲みながら、
「しかし、確かに……、ああ、まだ、かっら……!」
と、ドン・ヨンファは、まだ、舌が強烈にヒリヒリする残留がした。
おまけに、花椒の痺れるような感じがあり、汗が吹き出ながらも、
「でも、火鍋を見たり食べたりすると、さ? 重慶に、行きたくなってくるよね」
「ぽよ」
と、パク・ソユンが、『うん』なのか『いや、別に』なのか分からない『ぽよ』で相づちすると、
「けっ、俺は、あんな、クッソ蒸し暑いとこなんか、行きたくねぇがな」
と、キム・テヤンは、重慶の蒸し暑さを思い出して舌打ちした。
また、ここで、
「そういえば……? 今年は、重慶、行かないのかい? DJのイベントで」
と、ドン・ヨンファが、パク・ソユンに聞いてみた。
DJのイベントで、韓国内はもとより、周辺の日本や中国に行くことも多く、当然、重慶に行くこともある。
「うん。ことしは、いまのところないー」
パク・ソユンが答えた。
そう答えながらも、
「まあ、去年は、行ったんだけど」
と、言って、何やらスマホで動画を再生させる。
画面に映るのは、芸名のDJ・SAWこと、パク・ソユンのSNS。
パク・ソユンの動画チャンネルの動画もポストしており、昨年のDJイベントとモデル活動のため、重慶を訪れた際の、イベントのプロモ動画を投稿していた。
明々とした山城のようでありながらも、サイバー・スチームパンク感のあふれる夜景の中、ホンヤートンをバックにして、
――グ、ォォン――!!
と、ダイナミックなカメラワークとともに、激しくスタイリッシュにDJをするパク・ソユンの姿が映える。
「おおっ! ここ、かっこいいね」
カン・ロウンが褒めた。
「ぽよ」
パク・ソユンは、うなづく。
また、動画には、重慶滞在中の、ブログ的な紹介パートもあった。
火鍋を食ったり、あるいは現地の飲み屋街での様子。はたまた、人気のスイーツ店やカフェだったり、あるいは、現地の美容だったり、ファッションだったりを紹介していた。
あとは、競技ポーカーイベントでの様子などもあるが。
そんな、去年の、充実した重慶の滞在を振り返りながら、動画を視つつ、
「まあ、大きいイベントじゃなくて……、どっかの、クラブで回しに行きたいんだけど」
と、パク・ソユンが言った。
「まあ、そっちのほうが、予定に融通が利くだろうね。てか、ソユンの動画を見てたら、僕もひさびさに行ってみたくなったな」
ドン・ヨンファが言いながら、おおくの現代人がするのと同じく、なかば無意識に、スマホの画面を触りはじめる。
話の流れで、SNSで、重慶に関する投稿を見て回る。
投稿にあるのは、現地民の投稿と観光客の投稿が入り混じっていた。
観光客の投稿はというと、やはり、ホンヤートンだったり、ビルにつっこむことで有名なモノレール、美しい夜景などの紹介。それから、火鍋と、四川料理を堪能する食レポ的な投稿などと、お決まり的な内容だった。
見ているだけで、確かに旅行に行きたくなったり、火鍋を食べたくなってくるものだ。
そんなふうに、いつもどおりの平和な“SNSランド”を、
「ああ、ここねぇ、」
と、ドン・ヨンファは、スクロールしてまわる。
ダラダラと、惰性で眺めるSNS。
そんな、現代人しぐさをしていると、
「ん――?」
と、ドン・ヨンファは、ありふれた投稿の中に、ふと、違和感のある投稿が、いくつも流れてきたのに気がついた。
「あん?」
キム・テヤンと、
「どした、ぽよ?」
と、パク・ソユンが反応した。
「い、や……、その……、まさに、重慶の話題の、投稿なんだけど……」
ドン・ヨンファが、恐る恐ると、画面を見せる。
「う、ん……?」
「ぽよ」
キム・テヤンとパク・ソユンのふたり。
そして、
「……」
と、カン・ロウンが静かにして、ドン・ヨンファのスマホ画面に注目した。
重慶の、あまり良い評判でないインフルエンサー・コンビの動画――、おそらくは、廃墟地区で肝試しでもしているのだほうが、何かただならぬ違和感、緊迫感のある動画投稿……、そして、その動画を引用したものが、大量に流れてきたのだ。
そして、もとの、インフルエンサー・コンビの本元の動画をのせた投稿であるが、バズりにバズっていた。
億を超えた、インプレッション――
それを裏づけるかのような、不気味にも引き込まれる投稿を見ながら、カン・ロウンとキム・テヤンは気づいた。
「「こっ、これはッ――!?」」




