6 唐辛子も花椒もガッツリ入れて、本場に近い辛さにしたかんな
(1)
同じころ、場面は変わって――
お隣は韓国の、ソウル市の、屋台街のこと。
夏の夜の、ムシムシする暑さの中、とあるチジミ屋台では、
――グツ、グツ……
と、丸鍋が、場違いにも煮えていた。
陰陽太極図のように半々に仕切られた鍋は、片方は地獄のように真っ赤で、もう片方は、ダシが効いているように白かった。
つまり、火鍋だ。
見ているだけで辛くなるような鍋を、前にして、
「う、うぉぉん――」
などと、夏の装いのヘソ出しスタイルをしたモデル兼DJの美女、パク・ソユンが勢いよく、
――パ、シィッ……!!
と、箸をとった。
いっぽう、
「う、う”っ……!!」
と、丸サングラスが曇りながら、カン・ロウンが悶絶しかける。
また、のび太君がよく着ている服のような、黄色いブランドもののポロシャツ姿のドン・ヨンファも、
「かっ、らッ――!!」
と、耐えきれず、声をあげた。
そんな、火鍋を中心に据えたテーブルにて、
「――てか? 何で、火鍋なんかあるんだい? ああっ、かっらッ……!!」
と、ドン・ヨンファが、まだ舌がヒリヒリと痺れるのに耐えながらも、つっこみまじりの問いを投げかけた。
すると、カウンター越しから、
「あぁ”……? “こいつ”が、火鍋を、食いてぇって、言うからだろ」
と、本来はチジミ屋台のオッサンこと、キム・テヤンが、顔をしかめながら指をさした。
指をさされた先、
「ん……?」
と、辛さにまったく動じることなく、淡々かつ平然として火鍋を食う“こいつ”こと、パク・ソユンが、
――ピ、タッ……
と、箸をとめた。
すなわち――
暇を持て余した、いちおうは異能力者の探偵サークルことSPY探偵団の四人は、パク・ソユンのリクエストによって、火鍋を食っていたわけだった。
「ん? そんな、辛いわけ? アンタたち」
パク・ソユンが、不思議そうな顔して聞く。
「いや、けっこう、辛えよ。俺も、辛いのは好きだけどよ」
キム・テヤンと、
「そうだよ」
と、ドン・ヨンファが便乗して答える。
また、キム・テヤンが鍋を指して、
「まあ、タコとか、エビとか、海鮮系の具材を多くして、アレンジしたけどよ」
「ぽよ」
と、パク・ソユンが、そう答えたところ、
「「いや、何の『ぽよ』だよ」」
と、キム・テヤンとドン・ヨンファが、声をそろえてつっこんだ。
なお、このパク・ソユンの『ぽよ』であるが、以前に日本のイベントに行った時から、その理由は分からないが、つくようになった語尾、もしくは返事である。
ちなみに、『ぽよ』の出てくる確率は、その時どきの設定で異なるという。
それはさておき、鍋には韓国の海鮮系料理によく出てくる、タコやエビだったり、貝などが入っており、確かに、韓国海鮮風にアレンジされているのはわかる。
「アレンジしてあるぶん、本場よりは、辛くないほうじゃない?」
パク・ソユンが、食いつつ、酒をブイブイ飲みつつ言った。
「それでも、けっこう、辛いって……! あと、舌も、痺れるし……、ひぃ、ひぃ!」
と、ドン・ヨンファが訴え、
「まあ……、本場の、火鍋レベルだな……、ふぅ、ふぅ」
と、カン・ロウンも、辛さに耐えつつ、サングラスを曇らせて答えた。
「こいつのリクエストで、唐辛子も花椒もガッツリ入れて、本場に近い辛さにしたかんな」
キム・テヤンが言うとおり、確かに、鍋に大量の“それら”が入っていた。
また、
「まあ、俺も、これくらい辛いぐらいが好きかもな」
と、キム・テヤンがつけ加えると、
「あっ……、珍しく、アンタと一致した、ぽよ」
「ああ、そうかよ」
「まあ、私には、すこし物足りない辛さかもしんないけど」
と、パク・ソユンが、汗を滴らせつつ、表情を変えずに答えた。
恐らく、現地の四川の辛いもの好きの猛者ですら、充分な辛さにもかかわらず。
「いや、おめえのは、レべチだっての」
キム・テヤンと、
「まあ、君は、ハバネロソースだって飲むからね」
と、ドン・ヨンファが言った。
確かに、このパク・ソユンだが、体質なのか異能力なのか、ハバネロすらクソザコレベルのソースを、グラスで、焼酎でもキメるかのように飲んだことがあった。
なお、デスソースだけならず、過去の事件においては、フッ酸やギンピギンピで淹れた茶を飲まされたことがあるという、どこか人間ばなれしたところがあるわけで、
「――って? お前、それ、別に食わなくていいもんだろが」
と、キム・テヤンが、「おいおい」と反応した先、パク・ソユンが唐辛子を箸でつまみつつ、
――モグ、モグ――
と、まるで、酒の肴のように食っていた。
まあ、確かに、この火鍋に浮かぶ唐辛子や花椒というのは、食べる必要のない――、というか、むしろ、直接食べないほうがいい。
「うん。知ってるー」
パク・ソユンは答えながらも、唐辛子を食うのをとめない。
「いや、知ってるーって……」
キム・テヤンが、つっこんむも、言葉を失い、
「まあ、ソユンのことだから、何ともないんじゃないかい」
と、ドン・ヨンファは、特に何とも思ってない様子で言った。




