4 ――ヒューッ――!! ――ス、トンッ……
(3)
デオとザオは、声のしたほうへ行ってみる。
おそるおそると、近づいていくうちに、
「あ、あぁぁ”ッ――!!」
「だ、ダメぇぇッ――!!」
などと、また叫び声がした。
「わっ!?」
ザオが、たまげ、後ろに反りかえる。
いっぽう、
「けっ、カップルが、やっさっているだけじゃねぇのか?」
と、デオは舌打ちし、面白くなさそうな顔で吐き捨てる。
「そんな、バカな、」
ザオは、そう反応しながらも、確かに、そんな馬鹿馬鹿しい結末も頭によぎる。
まあ、“こんなところ”でというのも、無きにしも非ずなので。
しかし、これより先、ふたりが見たものは、その期待を、ある意味で裏切るものだった。
廃墟の、路地裏を進んでいく。
そこにあったのは、何と、あろうことか――!?
叫び声を上げたであろう男女が、必死にジタバタし抵抗しながらも、3、4メートルほど、“宙に浮いて”いたのだ!!
そして、いままさに、“落ちん”としていた――!!
そんな、“人間が宙に浮いている”という、明らかに非現実的な光景に、
「「う、嘘だろ……」」
と、ふたりは、絶句して固まる。
いっぽうの、宙に浮いているカップルは、デオとザオの姿を確認すると、
「たっ、助けてぇぇ!!」
「おぉいッ!! 助けてくれぇぇッ!!」
と、ふたりのほうに手を伸ばし、助けを求めてくる。
だが、
「うっ……!?」
「――!?」
と、ザオとデオは、一瞬ひるんでしまう。
ただ、その間にも
――ググ、グーン……
と、カップルは、さらに高く浮いていく。
みるみるうちに、5、6メートル、そして電柱より高くなるや、
――ヒューッ――!!
――ス、トンッ……
と、終いには、豆粒米粒のような点になっていき、巨大な穴のような重慶、四川盆地の空へと消えてしまう。
すこしして、
――ジュワァッ……
と、おそらく成層圏ほどの上空で、鬼火のようなものが二つ、見えてしまった。
「「――ッ!?」」
デオとザオは、声にならず驚愕した。
すなわち、先のカップルは、猛烈な速度で空に落ちていき、燃えつきて消滅してしまったのだ――!!
なお、
――ジ、ィィッ……
と、一連の光景を、スマホカメラは収めていた。
ネットをつうじ、重慶はおろか、四川省から中国全土、さらには国外海外へと配信される。
「う、嘘だろ……」
ザオと、
「ほ、本当に、空に落ちちまったし……」
と、デオが、まだ「信じられない」の顔をした。
しかし、“コト”はそれだけではなかった。
「「――!?」」
ふたりは、ゾクッ――!! とした。
「「……?」」
おそるおそると、ふり返ってみたところ、
「「ッ――!?」」
と、こんどは、声にならず驚愕した。
ふたりの、見た先――
何か大きなパーカーか布でもまとっているのか、謎の、黒づくめの影があった。
「ゆ、幽鬼ッ――!?」
指さしながら、震えて固まりかけるザオに、
「お、おいッ!! 逃げっぞ!!」
「うぉッ――!?」
と、デオが叫び、とっさにザオを引っ張る。
その勢いのまま、ふたりは逃げる。
――ダッダッ、ダッダッ――!!
と、ドタバタと、廃墟地区を駆け抜ける。
入り組んだ場所や、迷路のような場所もあり、この廃墟地区という環境を駆使して、何とか、“幽鬼と思われる謎の黒づくめ”から逃げきらんとする。
しばらく走って、
「な、何とか撒いたか!? ハァッ、ハァッ……!!」
と、息が切れそうになりながら、デオが聞き、
「そ、そうだね……、ゼェ、ゼェッ……!!」
と、ザオが答える。
呼吸を整え、いったん、落ち着きたいと思った。
だが、こういう場合は大抵、そうは問屋が卸さないというのがセオリーだった。
ゆえに、ひと息つこうとしたふたりの眼前に
――ゆら、り……
と、重力など無視する形で、上から、黒づくめが現れる!!
「で、デオッ!! ゆ、幽鬼がッ――!!」
「なッ――!!」
ふたりは驚く。
ただ、このままではやられてしまうので、デオがレンガほどの大きさのコンクリートの塊を、隠すように手に握り、
「くっ、そッ!! 何なんだってんだ!! こいつッ!!」
と、叫びながら振りかぶり、
――ブ、ンッ――!!
と、幽鬼に向かって、剛速球のコンクリ塊を投げる!!
弾丸のような軌道――!!
コンクリ塊が、まさに、幽鬼の顔に命中せんとした――!!
その時、
――ク、ンッ――!!
とここで、何とあろうことか――!?
幽鬼の眼前1メートルか50センチほどのところにして、急に直角に軌道を変えたのだ!!
そのまま、
――ヒュー……!! ストンッ――!!
と、先ほどのアベックか男女がされたように、コンクリ塊も空へと落ちてしまう!!
これも、しばらくするなり、
――ジュ、オンッ……!!
と、はるか上空で、流れ星のように燃えつきてしまうという……
そんな光景を目の当たりにして、
「あ、わわ……」
ザオが、ガクガク震える。
デオも、
「う、う、う……、嘘、だろ?」
と、同様だった。
すなわち――
ありのままに解釈すれば、この黒づくめの幽鬼だが、おそらくは……、いや、『おそらく』をつけるまでもなく、人や物を、“空に落とす力”を持っているのは確定だった。
そして、これが“セオリー”であれば、次に幽鬼が“力”を向ける先は、自分たちになるだろう。




