3 まるで、『クレヨンしんちゃん』の、アクション仮面のようなポーズ
夜におきる、“消失”――
目撃者は皆、『空に落ちていった――』と、証言する。
とくに、成層圏ほど上空では、“落ちていったと思わしきモノ・ヒト”が、逆大気圏突入のように燃えているのか、鬼火のようになるという。
この、“空に落ちる”という、謎の“人間消失”が、“幽鬼”のしわざとして騒がれているわけだ。
『アイヤァッ――!?』
デオのスマホから、音がした。
物議をかもしている“チャーハン動画”で、
「この、チャーハンと鍋だけ落ちてくのは、ギャグだよな!」
と、デオが半笑いし、
「だよ、なっ」
と、ザオがうなづいた。
また、
「加工じゃねぇの?」
デオが胡散くさそうに言うと、
「いやぁ、それにしても……、皆、ビックリしてるからね」
と、ザオが答える。
動画では、確かに後ろにいた客や見物人の驚きようをみるに、不自然なところはなく、加工動画には見えなかった。
「まあ、このご時世、AI動画があるし……、どんどん見分けつきにくくなってくから、分かんないけど」
「まあ、な……」
補足して言うザオに、デオが相づちした。
また、デオが、
「しかし、人が、空に落ちるなんたぁ……、『杞憂』ってのは、空が、落ちてくる話だったよな? そいつの、逆バージョンってか?」
「おっ? まさか、デオの口から、杞憂なんて単語が出てくるなんて」
「ああ”? うっせぇぞ!!」
「いてッ――!?」
と、茶化してきたザオを、拳で、ドン――! と小突いた。
話に戻って、
「しかし……、こうまで、現実世界やSNSで話題になっているなんてな」
デオが言って、
「ネット上の動きが、現実世界と併せて盛り上がるときなんて……、実は、それを企画をしていた者がいる――、なんてことも、無くもないよね」
と、ザオが続けた。
まあ、突然話題になったりバズるものには、仕掛け人がいることは珍しくない。
「ただ、よぅ……? にしては、件数が、多くねぇか? 警察も、実際に、事件として調べているみてぇだしな」
デオが言うと、
「まあ……、そう、だよなぁ……」
と、そこは、ザオもうなづいた。
確かに、この“幽鬼”に関して、警察も調べているところだった。
警察のアカウントからも、『夜道、なるべく人通りの少ないところを歩かないように』などと注意を促したり、また、情報提供を求める投稿もある。
「う~ん……」
デオは、何か考えるように、うなりながら、
「――なら? ちょっと、俺たちで“調べて”みるか」
「へっ――?」
と、唐突な提案に、ザオがキョトンとした。
ザオが、続けて、
「お、俺たちで――?」
と、聞き返す。
「おうよ。どうせ、暇じゃんか」
「ま、まあ、そうだけど、」
と、すこし困惑まじりのザオに、デオが、
「よしっ――! そしたら、“探偵”ってことで、いっちょ、幽鬼のヤツを暴きに、動画を撮りに行ってみようぜ」
「え? 探偵だって――!?」
***
――そうして、デオとザオのふたりは移動した。
ホンヤートンを見下ろす、すこし高いところにある、廃墟地区へとやってきた。
その、ホン・ヤートンをバックにしながら、
「「うぃ~、っすぅ~!!」」
と、開幕一番、ゆるい敬礼のようなポーズをしながら、
「「俺たちは、名探偵――!!」」
と、続けて、
「ざ、ザオとッ――、」
と、ザオが、すこし恥ずかしがり、
「ディオ、だっ――!!」
と、デオが、セリフを言うなり、
――ジャッ、キーンッ――!!
と、まるで、『クレヨンしんちゃん』の、アクション仮面のようなポーズをキメて見せた。
そんな、何ともウザい開幕のポージングに、配信のコメントでは、
『は――?』
『何が、名探偵だ?』
『ついに、頭おかしくなったんな、こいつら』
『ポーズ、うっざ……!』
『おい、誰か、通報してやれよ。こんなろくでなしコンビ』
などと、罵倒するコメントがついて回る。
それを見て、
「んだ!? こいつらよぅ!!」
と、デオが苛立つも、
「ま、まあまあ……、いつものことっしょ」
と、ザオが宥める。
気を取りなおして、
「まあ、そういうわけで……」
と、ザオが言い、
「いまから、我々は!! いま、重慶で話題の、幽鬼を調べにいきまぁ~すっ――!!」
と、続けて、デオがテンションをあげた。
その流れで、
「おい、幽鬼!! 見てっか――!? いまから、お前の正体を明かしてやっよ!!」
と、自撮り棒につけたスマホカメラに向かってポーズを決めつつ、まだ見ぬ幽鬼を挑発してみせた。
そうして、ふたりは、廃墟地区へと踏み込んでいく。
コメントは、
『わっ? これは、ちょっと面白そうかも』
『けっ、本当に幽鬼なんて、出てくるかよ』
『いや、むしろ出てきて欲しい。こいつらなら、空に落ちてってもいいから』
『まあ、せいぜい頑張れや。“探偵”さんたち』
と、流れてくる。
それを見て、
「ああ”っ!! うっぜぇな、コメントぉッ!!」
と、デオが、ふたたび苛立ち、
「いや、だから、反応するなって」
と、ザオが、先ほどと同じく宥める。
そのようにしながら、幽鬼の調査を進めていく。
人気の無い廃墟、不気味な場所――
そういう場所なら、妖怪や、幽鬼といった類のものが出てきてもおかしくない――、という単純な考えからだろう。
「てか? 幽鬼よりも、別の意味で“ヤバいヤツ”のほうが、いそうじゃない? デオ?」
ザオが言って、
「まあ、そうだな……」
と、デオが相づちした。
まあ、確かに、治安の悪そうな路地裏には違いなかった。
例えば、違法な“クスリ”をやっている輩がいたり、あるいは、気に入らない人間をリンチしてボコしたり、と――
いわゆる、クスリ、暴力、セックス――と、治安の悪いオンパレードが行われてもおかしくない、犯罪の気配のする場所でもある。
また、そうでなくとも、自分たちと同じように、肝試しのようなことをする若者たちくらいは、いるかもしれない。
そんな、別の意味で警戒しなければならない人間たちにも注意を払いながら、ふたりは進んで行く。
その時、
「あっ、あぁぁ”ッ――!!」
「あいやぁぁっ――!!」
などと、近くで、叫び声が聞こえてきた。
「うぉぉッ――!?」
「わ、わぁッ――!?」
デオとザオは、思わず驚いた。
スマホには、
『おっ? 待望の幽鬼が出たんじゃね?』
『いやいや、ガチ犯罪の、ヤバいパターンじゃねぇか? 逃げとけよ、ガキども』
『いや、どうせ、ヤラセだろ』
などと、配信のコメントがあがっていた。
「おいおい? 何の声だよ?」
デオが、怪訝な顔をし、
「悲鳴、ぽいよな?」
と、ザオも同じような顔をし、警戒する。
そこで、コメントを見て、
「コメントにもあるけど、何か、犯罪の、ヤバい現場じゃね? 逃げようよ?」
と、ザオが尻込みし、
「あぁ”?」
デオが、顔をしかめる。
コメントには、
『おいおい、逃げるんかーい!』
『結局、探偵ごっこだったな』
『ふだん、気をでかくしてイタズラしてるくせに、いざとなったらビビるんだな、こいつらも』
と、茶化す声が。
それを見て、
「あぁ”!? おうおう!! だったら、行ってやろうじゃねぇか!!」
と、デオが喧嘩腰になる。
「お、おいっ! そんな、ムキになるなって! デオ」
ザオが止めようとするものの、
「あぁ”!? 舐められてたまっかよ!! 行くぞ!! ザオ!!」
「えっ――!? 行くの!? 本当に、ヤバいかもしれないのに!?」
「ちょっと、気ぃつけて見にいきゃいいだろ!!」
「ま、まあ、」
と、デオが強引に引っ張っていった。




