2 見とけよ!! 見とけよ!! 俺の鍋捌きを!!
(2)
数時間前のこと、
――グ、ォォーン――!!
と、エンジン音が、夜の重慶の、四川の盆地の大きく開いた穴のような空へと響いた。
立体感ある都市を走りぬけるのは、オレンジのランボルギーニ。
運転席でハンドルを握るのは、金髪の青年で、ふんぞり返って助手席に座るは、相方の丸顔の男と、例の若者コンビだった。
すなわち、
『俺たちの名は、デオとザオ。略してDZコンビ――、いわゆる、インフルエンサーってヤツだ』
と、もしも、一人称で紹介が始まるなら、こうだろう。
丸顔の、いかつい男がデオ。
金髪男のほうがザオで、自称なのか他称なのか、DZコンビと呼ばれ、インフルエンサー活動をしているふたり組だった。
ただ、インフルエンサーといっても、やっていることは、そんな高尚なことではない。
ときに、いわゆる、迷惑系ギリギリのイタズラ動画、企画をやっていたのだ。
例えば、停車中の高級車で運転手が電話をしている横で、しゃがんで隠れながらチョークで車にラクガキし、案の定、気づいて怒ってくる運転手から、ドタバタと逃げ回ったり。
また、ある時は、仲良くデートをしているカップルを後ろからロックオンするや否や、いきなり、男のほうを、ひょい――! と、抱える。
「う、うわぁぁん!? 何を、するだッ――!? お前らァッ!?」
と、驚いて騒ぐ男を、ふたりして肩にのせて担ぐ。
当然、
「アイヤァッー!? ちょっと!! 返しなさいよ!!」
と、彼女は奪い返そうと追っかけてくるのを、
「「えっほ♪ えっほ♪ 返して、あっげないよぉ~♪」」
などと、逃げ回ったり――
また、ある時は、金ぴかの銅像に扮しながら、アイスクリームなど舐めながら近づいてきた人間に対し、いきなり動きだして、「わぁッ――!?」と、驚かせ、尻餅つかせる。
手に持っていたアイスは、ポ、ロリ――と、落ちてしまう横で、
「「いぇ~い♪ ドッキリ、大成功~♪」」
などと、ふざけてみせたり……
――などと、まあ、くだらないイタズラ企画だったりを、していたわけだった。
そんな、“しょうもない”イタズラを面白がって視るフォロワーもいるものの、どちらかというと、多くからは顰蹙を買っていた。
それで、とても、そんなインフルエンサー活動で稼いでいるのに見合わない高級車に乗っているわけだが……、これは、まあ、彼は富二代という、つまり、親が金持ちのボンボンだからだった。
本題に戻る。
ふたりは、車を停めていた。
重慶の、夜景を見下ろせる場所で、ボーッとしていた。
「はぁ、ヒマだな」
デオが、つまらなさそうな顔で言った。
「だよな。何か、面白いこと、ないかなぁ?」
ザオが同調する。
夜景を見ているのか、スマホを見ているのか、なんともしまりなく、ダラダラと時を過ごす。
そんな折、ふと、SNSでは“幽鬼”に関する話題が流れてきた。
「は――? 幽鬼、だと……?」
デオが、顔をしかめた。
その横で、
「ああ……、アレだよ、アレ」
と、ザオのほうが、先にピンときた。
幽鬼――
ここ最近、都市伝説やUFOのように、重慶で不気味に噂になっている存在だった。
たとえば、重慶の路地裏。
上には中層ビルの連絡通路の空中廊下が立体的に重なる、古いレンガ造りの建物が連なる通りにて、帰宅していたOLが、忽然として、神隠しのように消失してしまったケース――
なお、このケースでは、ヒビ割れて壊れたスマホが落ちていたのだが、そのスマホがぶつかった跡が、空地廊下の裏側にあるという奇妙な点があった。
また、ある時は、屋上のビアガーデンにて。
数十人ほど、賑わっていたものの、気がついてみたときには、ビアガーデンのテーブルごと、これも忽然と、姿が消えてしまったり……
また、夜の屋台で、チャーハンを作っていた若い兄ちゃんが、高火力で、
――シャッ、シャッ、シャッ――!!
と、手際よく中華鍋をふるい、
「見とけよ!! 見とけよ!! 俺の鍋捌きを!!」
と云わんばりに、確かに、いい腕でチャーハンを炒める!!
パフォーマンスのように、
――サッ――!!
と、チャーハンが高く舞い、フィニッシュかと思いきや、次の瞬間、
――ス、トン――
と、チャーハンは、鍋には落ちてこなかった……
そして、何とあろうことか――!?
――ヒュー…、
と、中華鍋とともに、重慶の、ぼっかりと大きく開いた夜の空へと消えていってしまったのだ!!
「あッ――!? お、俺の中華鍋がァッ――!!」
屋台の若者が、思わず声をあげる。
チャーハン待ちの客や、パフォーマンスを見ていた野次馬たちが、
「お、“落ちて”ったぜ……!?」
「あ、ああ……!」
「え――?」
「嘘だろ……?」
「ああ、なんてこった!? 信じられねぇ!! この兄ちゃんの失敗じゃない、チャーハンが、中華鍋ごと、空に落ちちまったんだぜ――!!」
と、騒然となった。




