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【重慶幽鬼】  作者: 石田善二郎
第一章 ある問題視インフルエンサーのピンチ

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1/1

1 俺たちは今、死のピンチに瀕している――!!




          (1)




 初夏の、重慶の夜――

 中国の、ビッグアップとも呼ばれる、スチームパンク感とサイバー感を併せ持った、独特の趣のある山がちな都市――

 大河沿いにある、明々とした、巨大な“洪崖洞”(ホンヤートン)が合間に見える。

 重慶といえば、火鍋に次いで、この洪崖洞ホンヤートンというレベルで有名な建築――

 山がち、崖がちな四川省の伝統建築、吊脚楼をイメージした巨大な複合商業施設である。

 日本でも、映画、『千と千尋の神隠し』にでも出てきそうな雰囲気で紹介されるのを見たことがあるかもしれない。

 そんな、洪崖洞をすこし見下ろすことのできる場所の、とあるスラムの一角でのこと。

 高低差のある、坂や崖に築かれた一区画であるが、重層的かつ、すこし城郭や要塞のようにもなっていた。

 なお、前日は、雨が降っていたせいか、あちこちに水たまりがあったり、ポタポタ……と、崩れかけた屋根や床から雨漏りなどがしており、より汚く、不気味な感じが漂っていた。

 そんな、物騒とも、日本で云うところの幽霊なんかが出てきそうな気配のする場所に、


 ――ドタ、ドタッ!! 


 と、慌ただしく駆け回る足音が聞こえた。

 足音は、


 ――バッ、シャァッ――!!


 と、水たまりを、恐らくは避けきれずに豪快に踏んづける――!!

 そして、


「ハァ!! ハァッ!!」


「ゼェ、ゼェッ!!」


 などと、そこにあったのは、いまにも息が上がりそうな呼吸して走る、ふたりの若者の男の影――!!

 このふたりは、“何か”から逃げているのだろうか――?

 とにかく、必死に走っている感があるのは間違いない。

 だが、暗く足元の見えにくい、危険なスラムの一角である。

 にもかかわらず、そのように走っているわけであり、


 ――ズ、ウォンッ!!


「わっ――!?」


 と、これは当たり前に予測できていたことだ。

 金髪の、背の高いほうの男が、水たまりか泥濘ぬかるみかに足をすべらせてしまう。

 そして、


 ――ビッ、チャァァ!!


「うぉぉッん――!!」


 と、金髪の若者は、盛大にコケてしまった!!

「う、うぐぅぅ……」

 男は、両手をついて起き上がろうとしたところ、

「あっ? ああっ――!? お、俺の、ロエベのシャツがぁッ――!?」

 と、自身の着ている、お気に入りの黒のハイブランドのシャツが、泥で汚れてしまったことに気づき、叫び声をあげた。

 そこへ、

「おぉ”いッ!! いまそんなん気にしてる場合じゃねぇだろがッ――!!」

 と、相方の、金髪よりは少し背の低いものの、こちらのほうがガタイの良さそうな、やや丸顔の男が、

 ――ドンッ!!

 と、“どついて”つっこんだ。

「いっ、たァッ――!?」

 喰らって、金髪の男が声をあげる。

「い、いやっ、だってさぁ!! このシャツ、先日、気にって買ったばかりなんだぜ!!」

 と、金髪が訴えるも、

「もう!! 早く立てっての!! アイツがッ――、“幽鬼”が来ちまうぞッ!!」

 と、丸顔の相方が、怒鳴る。

“アイツ”と、【幽鬼】との言葉――

 急かす相方に、

「あっ、ああッ!! わ、分かったて!!」

 と、金髪の男は、慌てて立ち上がる。

 そうして、ふたりはふたたび走る。

 そう、である――



 『『俺たちは今、死のピンチに瀕している――!!』』



 と、もしも、彼らの紹介のセリフを代弁するとすれば、まさに、“こんなところ”だろう。 

 彼らは、【幽鬼】と呼んだ“何か”から逃げていた。

 崖に築かれたスラムの、下へと、何層もありそうな鉄筋コンクリの中へと入っていく。

 照らすのは、持ってきた懐中電灯。

 これが性能が良いことだけが、せめてもの救いである。

 そうして、彼らは廃墟の中の中へと入っていく。

「くっ――!!」

「き、きっちぃッ――!!」

 と、思わず声が出ながらも、何とか、いったんは身を隠せそうなところへと滑り込むなり、

「ハァ、ハァッ……!!」

「ゼェ、ゼェッ……!!」 

 と、上りに上がった息を、呼吸を落ち着かせながらも、

「なっ、なんとか巻いたかな!?」

「(おいッ! 声の音量下げろって、幽鬼のヤツに見つかっちまうぞ!)」

 と、安堵から、思わず声の大きくなる金髪男を、相方が声を抑えながら小突いた。

「(す、すまんって、)」

 金髪は詫びる。

 そんなふたりの、これまでの経緯を説明すると、次のようになる――

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