18 すーる、ぽよー
(2)
場面は変わって、重慶の中心街とは、すこし外れた場所にて。
渓谷のようになりながら、楼閣の廃墟のような、大きな建物が佇んでいた。
どこか、肝試しや心霊スポットのような雰囲気もある。
ここに、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりは、足を踏み入れていき、建物へと近づいていく。
「ぶ、不気味な感じが、するね……」
と、すこしビビるドン・ヨンファに対し、
「ぽよ」
と、何も感じてない様子で、パク・ソユンが答える。
「……」
ドン・ヨンファが、チーン……としながら、
「いや、『ぽよ』じゃ、なくてさぁ……」
と、つっこみたくなるも、どうしようもなく呆れる。
それはさておき、
「ていうか、何で? 僕たちが、妖魔を調べなきゃいけないんだい?」
「ほんと、何なの? あのタヌキ」
と、ふたりは、自分たちに指示した妖狐の神楽坂文の愚痴を言う。
「戦わなきゃな可能性もあるし、そういうのこそ、タヌ、キツネさんが、するべきじゃないか」
「そうよ。てか、アンタ? 逆に訂正してない? タヌキから、キツネに」
「へ――? そう、だったけ……? いや、どっちか、もう、分かんなくなってきたよ」
などと、ふたりは話す。
まあ、妖狐だから、“キツネ”しかないのだが。
「まあ、どうでもいいじゃん。あいつが、キツネだろうが、タヌキだろうが。てか、私たちに、こんなことさせるから、さ」
「まあ、そうだね」
と、ここまで喋って、入り口まできて。
「――ってことで、入っていくわよ」
パク・ソユンが言うと、
「入っていくは、いいけど……、何か? 対策は、あるのかい?」
と、ドン・ヨンファが、いったんストップをかけた。
「ん? 対策――?」
「だって、空に、落とされちゃうかもしれないんだぜ? 何らか、対策したほうがいいんじゃないか? 使えそうな異能力か、タヌキさんの妖具とかで」
「ああ……?」
パク・ソユンは、天を仰気ながら、
「“ある”わよ」
と、答えた。
同時に、
「てか? アンタも、使いなさいよ。何か、それっぽい“疑似植物”でも、召喚してさ?」
「わ、わかったよ、」
と、ドン・ヨンファにも、自分まかせにせず、何か異能力を使うように念を押した。
このドン・ヨンファだが、いちおうは事業家という肩書があるものの、わりと怠けもの気質である。
なので、こうしておかないと、何もしない可能性があった。
「まあ、天井のある、建物の中だから……、もし、幽鬼がいたとしても……、さすがに、すぐに、空に落とされる可能性は、無いとは思うけどな」
「そう、なんだろうけど、さ? ほかの異能力も、使ってくるかもしれないじゃん? いざ、何か起きた時に、さっと、適当なものを使えるようにしときなさいよ」
「まあ、分かったよ」
ドン・ヨンファは、しぶしぶうなづきながら、
「しかし、空に落とされかけた時に、かぁ……?」
「まあ、逆に考えて……、ふつうに、高いとこから落ちる時とか、想像して考えてみる、ぽよ。クライミング中の崖とか、25メートルのビルとか」
「何? その、リアルなの? また、どうせ、そういう墜落系のグロ動画とかでしょ? ソユンの言うのは?」
「ぽよ」
「いや、『ぽよ』じゃ、なくて、」
と、つっこみたくなりながらも、
「まあ、そうだなぁ……? 安全帯のような、ものか……? ただ、それだと……、何かに引っかけたとしても、空に落とす力っていうのが、重力よりも強力な力だとすると……、引っかけたものごと、落ちちゃう可能性もあるしなぁ……」
「ぽよ」
「あとは、安全ネット的なもの、かい……?」
「その、安全ネット的なものってのを具現化するのに……、何か、具体的な植物は、思い浮かぶぽよ?」
「う~ん……? 何となくは、浮かぶんだけど……」
と、考えようとしたところ、
「まあ、いいぽよ。とりま、中に入ってから考える、ぽよ」
と、パク・ソユンが言った。
「とりまって、なあ……」
ドン・ヨンファが、「おいおい」と言いながらも、
「まあ、でも、そうだねぇ……? 考えてからやるより、実際に、やってみて考えたほうが、いい場合もあるしな」
「ぽよ。アンタも、実業家やってるから、分かるでしょ」
「いや、それと、これとはねぇ……」
そうして、ふたりは最低限のピンチをイメージし、廃屋のほうへ近づいていく。
西遊記の、妖怪の魔王の館のような雰囲気をした、大きな入り口を前にして、
「おじゃま、しますよ……」
ドン・ヨンファが、おそるおそると、いちおう断りの声をかけながら、足を踏み入れる。
「すーる、ぽよー」
パク・ソユンが、それに続いた。
ドン・ヨンファが、
「……」
と、引きつった顔で、パク・ソユンのほうを見て思う。
(ほんと、何なの? こいつ……?)




