17 あんなヤツらが、スマホを触らないように自制できっかよ
(2)
カン・ロウンとキム・テヤンのふたりは、ぶらぶらと、デオとザオのコンビの行方を追っていた。
「ああ……、まったく、どこにいんだよ? このデオとかザオとかいうやつらは? もう、幽鬼にやられちまったで、いいんじゃねぇか?」
キム・テヤンが、めんどくさそうに言った。
「もうやられたでいいって、お前も、ソユンと同じようなこと、言ってるじゃないか? ちゃんと探そうぜ」
と、カン・ロウンが宥めるも、
「けっ、あいつと、いっしょにするなよ」
「いや、実際、同じこと言ってるじゃないか」
と、舌打ちしたキム・テヤンに、やれやれと呆れた。
それはさておき、
「しかし、やつらが、姿を隠すとすると……、いったい? どこ、なんだろうな?」
と、キム・テヤンが、改めて疑問を口にすると、
「そういうのは、元情報部のお前が、得意そうだが」
「おいおい? そんな、過去の経歴に期待してくれるなよ」
と、カン・ロウンに、「勘弁してくれよ」と言いながら、
「まあ、やつらの、実家にでもいるのか……?」
「う~む……、ただ、彼らの両親は、彼らがしている活動を、よく思ってないようだからな」
「まあ、あのタヌキの、“葛葉”から、ハッキングしたところによると……、そもそも、やつらの両親も、ふたりを探しているらしいしな」
と、妖狐から借りている“葛葉”から得られた情報を、タブレットで確認した。
なお、“葛葉”の情報蒐集能力を以ってすれば、個人の通信情報を、まるで米中ロの大国の情報機関がやるように、簡単に盗聴やハッキングすることはできる。
それによると、デオとザオの親たちも、彼らを探そうとしているようだった。
「やつらは、金持ちだからか? 重慶市内に、何件か部屋を持っているようだが……、その全てではないが、親も、それらの部屋は把握しているからな」
「すると……、彼らは、親族は頼ってないのか。むしろ、親たちからも、自分たちの姿を隠そうとしているのか?」
と、カン・ロウンが言うと、
「まあ、あんな活動をしているから、ガミガミ言われるのが嫌なんだろう」
と、キム・テヤンが答えた。
また、カン・ロウンが、
「そう、すると……、彼らは、インフルエンサー仲間だったり、友人を頼っている可能性は、ないか?」
との可能性をあげた。
「ああ……、そう、だな……? もし、ヤツらが、あの動画のあと、すぐに友人のところに行って匿ってもらうなりしているとすれば……、通信情報だったり、決済のデジタル情報ってのが、“葛葉”にも引っかからないのも、説明はつくな」
と、キム・テヤンが、先ほど“葛葉”で蒐集した情報の解析を振りかえる。
デオとザオのふたりに関して、例の“幽鬼動画”を最後に、あらゆる通信の情報が無かったのだ。
現場から生きのびた彼らも人間であり、移動だったり、途中で飲み食いをするには、最低限お金を使う必要がある。
なので、多くのものがデジタル化、キャッシュレス化されている中国では、そうした情報の痕跡というのは残るのだが、
「確かに、友人のところで匿ってもらっているなら、お金を使う必要もないからな。そうすれば、彼らが何か買い物したときなどの決済情報が残ってないというのも、納得できるな」
と、カン・ロウンが言うと、
「まあ、ワンチャン、現金を使ってたってパターンもあっけどな」
と、キム・テヤンが冗談半分で、つけ加えた。
また、カン・ロウンが、
「それでも、彼らはスマホを持っているはずだが、スマホの通信記録が、いっさい“葛葉”に引っかかってないというのは、どういうことだろうな?」
「おおかた、動画の最後、下に落ちたときに、紛失したか、破損しちまったんじゃないのか? あんな暗い場所だし、探す余裕もなかったんだろ」
「まあ、あり得る線だな」
と、キム・テヤンが、相づちしてやると、
「それか、薄い可能性だが、ヘタにSNSを使うなどすると、自分たちの生存がバレてしまうからな。だから、電源をずっと切ったままにして、スマホを触るのを自制しているのか?」
「けっ、あんなヤツらが、スマホを触らないように自制できっかよ」
「そう言うなよ。まあ、私もそう思うが……」
と、カン・ロウンが言った、
また、続けて、
「まあ、スマホを持ってないか、電源を切ったままにしているかにせよ……、知人宅に匿ってもらって、いろいろと世話になっているのなら、しばらくスマホを使わなくてもいいだろうが……、彼も、現代人だ。ずっと、お金やスマホを使わないわけにいかないだろうから……、そのうち、何らかの形で、“葛葉”にひっかかるような行動をするだろう」
「まあ、そうだろうな」
と、またキム・テヤンが、相づちしながらも、
「だが、それまで……、いったい、どれだけ待つのか? そんな、気長にするわけにもいかないだろ」
と、言った。
自分たちは、ここ重慶の、地元の人間ではないので、いつまでも調査を続けるわけにはいかなかった。
「そう、だな……? アレだったら、ここ重慶の滞在を、もっと伸ばそうか?」
「おいおい? 勘弁しろってんだよ。ずっと居たくねぇってんだよ、こんなとこ
。ムシムシしてっし、坂ばっかだしよぅ」
と、提案してきたカン・ロウンに、キム・テヤンは、まいってみせた。
この話は、ここで停滞する。
いったん、小休止しながら、
「ちょっと……、タヌ、神楽坂さんに、電話してみるよ」
と、カン・ロウンが、思いついた。
「ああ”? アテになんのかよ? あの、タヌキ野郎が」
キム・テヤンは、妖狐の名に顔をしかめながら、
「まあ、『ああでもない、こうでもない』と、堂々めぐりみたいに話すくらいなら、神楽坂さんに連絡して、力を借りたほうがいいだろ」
「けっ、」
と、舌打ちした。
その間に、カン・ロウンは妖狐に電話をする。
数コールして、
『何だ?』
「ああ、すみません」
と、電話はつながった。
テレビ電話にすると、妖狐が、のんびりと鎌倉を満喫しているのがわかる。
「けっ、まったく、いい身分だぜ。人様が調査をしている時に」
キム・テヤンが嫌味を言うも、
『フハハ』
と、妖狐は、笑ってスルーした。
『それで、話は、何だ?』
妖狐が、改めて要件を聞く。
「ええ……、それ、なんですが――」
と、カン・ロウンとキム・テヤンは、これまでのことと、先ほどふたりで話した内容を、かくかくしかじかと伝えた。
『――ふむ。まあ、ワンチャン、ソユンとヨンファのやつらが幽鬼を見つければベストだが、』
と、ひととおり聞いて、前置きした妖狐に、
「まあ、そんな上手くいくかは、怪しいとこですよね」
と、カン・ロウンが言うと、
『それで? 貴様たちが言うように、そのうち、やつらの情報が“葛葉”にひっかかるかもしれないと考えるのはよいが……、肝心の、どうやって? やつらとコンタクトをとるか、だな』
と、妖狐は提起した。
「ええ」
カン・ロウンが、うなづき、
「まあ、やつらも、いまはナーバスになってるだろうからな」
と、キム・テヤンが、言葉を添えた。
すると、
『ふむ?』
妖狐は、すこし考える仕草をして、
『そしたら、私のほうから、やつらにコンタクトを取ってやろうか?』
と、ふたりに聞いた。
珍しく、役を買って出る妖狐に、
「あ、あ”……?」
と、キム・テヤンが怪訝な顔をし、
「神楽坂さんが、ですか?」
と、カン・ロウンが、聞き返した。
『ああ……。見よ――』
妖狐は、ドヤ顔で返事しながら、“あるもの”を見せる
手を伸ばしたタブレットには、SNS画面の、『神楽坂事務所』なるアカウントが映し出される。
「「神楽坂、事務所――?」」
カン・ロウンとキム・テヤンが、声をそろえる。
「あ、あ……? そういえば……、何か、聞いたことが、」
カン・ロウンが、思い当たる節があると、
『ああ。我が、東京の、拠点にしている、な――。まあ、人間ふたりを、おもに使っているが』
と、妖狐が、「そのとおりだ」と答えた。
神楽坂事務所――
東京の神楽坂にある洋館で、綾羅木定祐と上市理可という、こちらも異能力を使える人間が『合同会社・神楽坂事務所』という調査業をしており、妖狐はふたりを都合よく利用していた。
それはさておき、ゴシック感とオカルト感のある、見るからに怪しいアカウントを開き、
『これで、やつらに、DMを、無理やりにでも送ってやる』
と、妖狐が言った。
「「無理やりに、ですか?」だと?」
ふたりが、同時に聞き返す。
『ああ……、電波が通じなかろうが、電源が切れていようが、スマホが壊れてようが、スマホが無かろうが……、やつらにメッセージを強制的に送れるのだ』
妖狐が、ドヤ顔で答える。
「いや、スマホが無かろうがって、どうやんだよ?」
キム・テヤンが、顔をしかめると、
『ふむ。まあ、これはやつらのスマホに対してでなく……、貴様たちが言うように、匿っている友人、知人のスマホに、な』
と、妖狐は答えた。
また、カン・ロウンが、
「それは、ハッキングしてって、ことですか?」
『ああ、そんなところだ。隣にいる人間のスマホで、無理やり、やつらのアカウントを動かしてな』
「てか、それってのは、やつらがどこにいるのか――、誰に匿ってもらっているのかを、分かっている前提だよな?」
と、キム・テヤンが、聞いた。
『ああ、そのとおりだ。ちょっと、仕組みは、企業秘密のようなものだが……、実は、やつらのいる居場所ってのは、“ある妖力”で、薄っすらと分かってな』
「ああ”? 何が、企業秘密だってんだ」
「というか、もしかして……、その妖力を使えば、私たちがあれこれ調べたり、推理したりする必要って、無かった、ですか?」
と、カン・ロウンが、嫌な予感がして、おそるおそる聞くと、
『うん。たぶん、無かった』
「うん、じゃねぇよ! ったく、無駄なことさせやがって!」
と、妖狐のケロッとした答えに、キム・テヤンが声を荒げた。
『まあ、そう、いきり立つな』
「いきり立つな、じゃねぇってんだよ! 最初から、そう言えってんだ」
「まあまあ、テヤン」
と、カン・ロウンが、宥めようとしながら、
『ふむ。まあ、わざと、最初から言わなかったわけではないぞ、貴様』
「ああ”?」
『言っておるだろ? 我が妖力、ときに、枯渇寸前になることがあってな。できることなら、何か具体的な情報があるうえで、“葛葉”に引っかかったり……、あるいは、そもそも“葛葉”を用いずに、得られる情報から推察、推理できるのがベストだ。この、手掛かりもなしに居場所をあてるような妖力というのは、莫大に妖力を消耗するから、あまり使いたくないのだ』
「ということは、“それ”を使うのは、本当の、やむなしの時ですくらいですか?」
『ふむ。そのとおりだ』
と、妖狐は答えた。
事情を聞いて、
「けっ、」
と、キム・テヤンは舌打ちするも、それ以上は文句は言わなかった。
また、カン・ロウンが、
「――それで? 彼らにDMを送って、コンタクトをするまでは分かりましたが……、みすみす、私たちに会ってくれますかね?」
『ふむ。そこも、強引にやるのだ』
「何だよ、強引に、って……。それに、やつらに会ったとして、そこまで、有用な証言を得れるのか?」
と、キム・テヤンがつっこみながら、疑問を呈すると、
『ふ、む? そう、だな……?』
と、妖狐が、天を仰いで、
『とりま、やつら二人組は、何か、利用できるかもしれんな』
「う、ん……?」
「利用、だと――?」




