16 成層圏からハンバーガーを投下した動画
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「ちっ、またかッ……!」
と、助手席で言ったのは、パンダ刑事こと、パン・フェイワンだった。
ホンヤートンちかくの、大河と重慶の街を眺めるとこに停めた車の中、相方のハン・ジェイヒとコーヒーでも飲みながら休憩していた最中、また新たに事件の報告がはいってきたのだ。
「こんどは、パルクーラーの青年たちが被害にあったらしいね。かわいそうに」
ハン・ジェイヒが、憐れんだ。
彼らは、重慶でも有名で、かつSNSでも人気のあるパルクーラーのグループだった。
だが、公共の屋上や高所を駆けまわったり飛びまわったりするパフォーマンスは、本人たちはおろか、下の住人や通行者に対しての危険だったり、あるいは、過激なパフォーマンスに影響されて、マネをして命を落としたり、取り返しのつかないケガをする者が出かねないなどと、問題視されていた。
ただ、本人たちは自己責任のもと、できる限り一般の住人らへの安全に配慮して行っていたり、また、ボランティア活動に精を出したりと、好き放題やる不良グループのようなイメージなどはなく、むしろ、スポーツマン的なところに好感があった。
それが、つい今のさっきまで、練習模様のSNSを投稿していたのが、忽然と姿を消したのだ。
また、その際の、“落ちていく”様子をとらえたスマホカメラの動画が、SNSに流れていたり、あるいは周囲からは、確かに「何かが空に落ちている」との目撃情報も寄せられていた。
そうして、警察も現場周辺を隈なく探しているのだが、彼らグループの誰一人として、その姿が、現時点まで見つかることはないという。
「やってくれるぜ、昼間っから」
パン・フェイワンが、アイスコーヒーを片手に、やれやれと言った。
スマホの位置情報も、全員、そこを最後として消えてしまっており、また、警察も現場周辺を隈なく探しているものの、彼らグループの誰一人として、現時点まで見つかることはないという。
まさに、忽然と消えており、確信を持って、幽鬼のしわざと断定した。
「まあ、推奨できる活動でないし……、いずれ、下に落ちて死んだり大ケガしちまいそうな連中だ、」
パン・フェイワンが言うと、
「まあ、それでも、かわいそうなのだ。まあ、でも……、もしかすると、同じ落ちて死ぬなら、地面よりも、空に落ちたほうがいいのか……?」
と、ハン・ジェイヒは擁護するも、身もふたもないことを言った。
また、
「しかし、現場周辺を調べても、まだ、幽鬼らしき影は見つかっていないのか? それに、監視ドローンにも、引っかかるんじゃねぇのか?」
と、パン・フェイワンが言った。
幽鬼事件が起きてからも、いや、その以前からも、さすが近未来をいく国家というべきか、監視ドローンが空を飛んでおり、犯罪の抑制や捜査に役立っているという。
もちろん、幽鬼事件においても、活用されてはいるのだが、
「――って思ったら……、そのドローンも、落とされているらしいのだ」
と、ハン・ジェイヒが、さきのパン・フェイワンの発言に答えた。
「ドローンが、落とされる……だと?」
パン・フェイワンが、怪訝な顔をした。
滞空する監視ドローン――
それが、地球の重力とは反対にはたらく、“空に落とす力”で、落とされたらしいという事実に、
「ドローンまで、か……? 人や動物と違って、空中で、滞空できるのによ?」
「みたい、なのだ」
と、ハン・ジェイヒが、パソコン画面で資料を見せる。
確かに、現場周辺の、複数のドローンの通信が途絶えていたが、機体は発見されておらず、行方不明になっていた。
それらの最後に映ってた映像はというと、機体のコントロールを失って乱れており――、また、成層圏から何かを投下した動画の逆再生のように、どんどんと高度をあげているのが見てとれる。
「何か、コントロールを失っているみたいだな」
「なのだ」
「おおっ――! 高い! 逆再生したら、まるで、成層圏からハンバーガーを投下した動画みたいなのだ」
「何だよ、その、成層圏からハンバーガーを投下って、」
パン・フェイワンは、はしゃぐハン・ジェイヒに、やれやれとつっこみながら、
「しかし……、その場に滞空しようとするドローンまで、落とせるのか?」
と、先ほどの疑問に、話をもどした。
「まあ、その場に滞空するのは、下向きの重力に対してだから……、それと反対方向だと、意味がないんじゃないのか? パンちゃん」
「あっ、そっかぁ……」
と、ハン・ジェイヒの言葉に、パン・フェイワンが相づちする。
ハン・ジェイヒが続けて、
「まあ、もし、幽鬼の――“空に落とす力”に抵抗できるとしても、地上にある、例えば石ころや、舗装ブロックなどを、弾幕のように落とせば……、ドローンを破壊して、いっしょに空に落としてしまえるんじゃないか?」
「何だよ、弾幕のように、って」
「いや、実際……、それらしい報告もあるのだ」
と、言った。
そこまで話すも、
「まあ、その辺は、どうでもいいか……、いや、どうでもはよくないが、いまの、捜査の要ではないな」
「なのだ」
と、ふたりは、今のところは幽鬼について、皆目見当がつかず、お手上げだった。




