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妖狐、神楽坂文のコンサル譚10 【重慶幽鬼】  作者: 非常口どん八
第三章

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15/20

15 血の味と何か果物の“甘い味”と激痛と




          (4)




“幽鬼”は、すこし、腹立たしいようだった。

「……」

 スマホで、SNSやネットニュース、あるいは動画サイトでマスコミなどの公式ニュースを見るに、昨夜のデオとザオのふたりの動画が、思わぬほどに拡散していたのだ。

 また、入ってくる情報によると、ふたりは、生きている可能性があるということだ。

 下に落ちる瞬間を、幽鬼自身も見ていたのだが、あいにくのタイミングでパトカーの音が鳴り響いた。

 警察も来てしまうため、ふたりの生死を確認しにいかず、その場を退散した。

 いっぽう、彼らは、悪運が強かったのか――、落ちた先が、それほど高さもなく、何かクッションのようになっていたのだろう。

 それで、彼らも現場から脱出し、どこかに身を隠した。

 イタズラを配信している活動ゆえ、警察からも身を隠したかったのか――? あるいは、幽鬼である“この私”に、“自分たちが死んでしまったもの”とでも思わせたかったのか――?

 いずれにしろ、“生きている”なら、“始末”したほうがいいだろう。

「……」

 しかし……、とここで、幽鬼はすこし考えなおす。

 昨夜のことが、ここまで大きく拡散してしまったとなると……、幽鬼の、この私自身の“活動”というのを、すこし抑えたほうがいいのか?

 いや、そうもいかない。

 あのふたりには、万が一の、姿を見られた可能性もあるし……、それに、いままで、ターゲットとした者は、落とし損ねたことなどなかった。

 なので、すこし気分が悪かった。

「……」

 と、幽鬼は、フラストレーションを感じながらも、思考を続ける。

 姿を見られ、その情報が、広まってしまう可能性がある――

 まあ、それでも……、人間を“落とす”のは、すこし、控えたほうがいいのだろうか――?

 そうして、自制をしようと思った。

 その時、


「――?」


 と、幽鬼は、“あるSNS”を見た。

 地元の、パルクーラーの青少年たちの投稿だった。

 高低差のえぐい重慶の、様々な屋上や構造物で、パフォーマンスをしているという。

 幽鬼は、見て、

「――♪」

 と、ニヤリ――と、嗤った。

 いや、やはり……、この“衝動”は、抑えきれないというべきか。

 そうして、幽鬼は、


 ――ふわり……


 と、宙に浮いて、向かった。



          ***



 場面は変わって、同じく重慶市内の“ある地区”でのこと。

 一帯には、一世代以上も前と思しき、古い中層マンションが並ぶ。

 高さは、20メートル以上はあるだろう、屋上にて、


 ――シュタッ……! タン、タン、タンタンッ……!


 と、軽快な音を立てながら、若い青年たちが、まるでアクション映画顔負けに、危険な屋上をアクロバティックに駆けまわり、跳び回っていた。

 屋上から屋上へ飛び移るというのは朝飯前で、さらには、別の建物の下の階に向かって、際どいジャンプをキメたり――、はたまた、細いコンクリートの立ち上がりや階段の手すりの上を駆けたり滑たりとの、命知らずのパフォーマンスをやってのける!

 もし、踏み外し、着地に失敗などすれば、下の地面に叩きつけられ、命を落としてしまうだろう。

 彼らは、ここ重慶で活動をしている、パルクーラーの集団だった。

 なお、“パルクール”とは本来、れっきとした競技のようだが、彼らのような、死と危険と隣り合わせのパフォーマンスをする者も少なくないゆえ、危険で過激なイメージがついたのも確かだった。


 それはさておき、

「よっし……! 『今日も、軽快にパルクーリング中!』っと――」

 と、先頭を切っていた青年が、上機嫌で、スマホで自撮りした。

 彼は、グループいちの腕をほこり、SNSで発信していた。

「おいおい……? あいつら、遅っせぇな……」

 青年は振りかえる、まだ遠くにいる仲間たちを眺めた。

 彼は、仲間たちは、喋りながらダラダラと練習しているなか、先へ先へとコースを進んでいた。

「まあ、いっか――♪ 先に、一周するか」

 青年は、言った。

 ウォーミングアップ程度のこのコースを終わらせ、また、喉が渇いてきたこともあり、さっさと終わらせたかった。

「よっ、し!」

 青年は気合を入れるとともに、助走した。

 ――ダッ、ダッ、ダッ!! タンッ――!!

 と、宙がえりしながら、隣のビルに飛び移る!!

 まさに、1080°の如く――!! ダイナミックに――!!

 しかし、その時、


「ひッ――!?」


 と、突如――

 青年は空中で、ゾクリ――とした。

 まるで、スローモーションのように時が流れる中、何あろうことか――!? 自分と並走するような格好で、隣に、恐ろしい黒づくめの姿があったのだ!!

 ――ゾクッ――!!

 と、全身が、本能的にヤバいと感じる。

 同時、

「ゆっ、幽ッ――モゴォッ!?」

 と、口に無理やり、“ナニカ”をねじ込まれる!!

 歯が折れ、血の味と何か果物の“甘い味”と激痛とともに、塞がれる口――

「も、もごォォッ――!!」 

 青年は叫ぼうとするもむなしく、


 ――ヒュー……


 ――ス、トン……


 と、血とリンゴのような甘味を生涯最後の味覚としながら、空に落ちて消えていってしまったのだ。

 すぐ続けて、

 ――スタッ……

 と、屋上の立ち上がりに、黒づくめの者は――、幽鬼は、降り立った。

「……」

 と、幽鬼は、ニヤリ……♪ と嗤った。

 その手には、赤いリンゴが――

 ちなみに、いま落とした青年の仲間たちは、つい先ほど、みんな空に落としてしまっていたが。

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