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妖狐、神楽坂文のコンサル譚10 【重慶幽鬼】  作者: 非常口どん八
第三章

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12/18

12 おや? 以前は、“嫌い”だったのが、“好きじゃない”まで昇格したんだね




          (2)




 時間はすこし経ち、カン・ロウンたちSPY探偵団の四人は、韓国から重慶の地に降り立った。

 昨夜の、デオとザオの問題の動画の現場ちかく、巨大な楼閣のような、ホンヤートンのカフェにいた。

 急遽、重慶に行くことが決まって慌ただしかったため、まずは、調査にはいる前に一服というわけだった。

「まったく、“アイツ”は、こねぇのかよ」

 キム・テヤンが、顔をしかめて言った。

「だよ、な」

 ドン・ヨンファが、それに相づちした。

“アイツ”とは、もちろん、妖狐の神楽坂文のことだ。

 この重慶での調査の言い出しっぺなのだが、昨夜、いったん鎌倉に戻ってしまった。

 なお、四人には、「何かあったら連絡するのだ。ゴミ芥ども」と言い残して、調査に関しては丸投げしておきながらだが。

「いや、基本、アイツ、あんま好きじゃないから、来なくていいんだけど」

 パク・ソユンが言うと、

「おや? 以前は、“嫌い”だったのが、“好きじゃない”まで昇格したんだね」

 と、ドン・ヨンファが、よせばいいものの、うっかり茶化すようなことを言ってしまい、

「は? うるさいわね――」

 と、パク・ソユンの表情が、不機嫌なときの“それ”に変わると、

 ――グワ、シッ――!!

 と、ドン・ヨンファをヘッドロックした、

「ふぐっ――!?」

 ドン・ヨンファは顔が歪んで、奇声をあげる。

 パク・ソユンは、異能力を以って、

 ――ブォン……

 と、“何か電熱系”のコテのような武器を、具現化する。

 ジュッ――と赤熱する“それ”を手にして、

「ねぇ? せっかく、重慶に来たから、さ? アンタの額に、【火鍋】って、刻印したげよっか?」

「ひっ!? ひぃぃッ――!!」

 と、ドン・ヨンファはジタバタ――!! と、もがくも、

「ねぇ? それとも、ここに来た証に、【洪崖洞】のほうがいい?」

「ごっ、ごめッ!! ごめんって!! ――てか!? そんな怒ること!?」

「ああ”!! うっせぇなー!! こんなとこで騒ぐなってんだ!! お前ら!!」

 とここで、キム・テヤンが見かね、

「まあまあ、放してやりなって、ソユン」

 と、カン・ロウンも、間にはいってやった。

 そうして、ドン・ヨンファを解放してやる。

 ――ド、サッ……

 と、ドン・ヨンファは膝をつくなり、

「ゲホ、ゲホッ……!!」

 と、苦しそうに咳きこんだ。


 それはさておき、話をもどす。

「まあ、神楽坂さんは鎌倉に戻ってしまったけど、“葛葉”のつる葉を、貸し出してくれてるからね」

 カン・ロウンが、言いながら見せる。

 丸みをおびた三角形の葉っぱが特徴的なクズのような“つる葉”に、電子回路のような金糸がまとわりついた、“葛葉”。

 あらゆる情報通信網に侵入し、ハッキングして情報を得ることのできる、情報蒐集力においてはチートクラスの妖術・妖具だった。

「あと、それ、は……?」

 ドン・ヨンファが、指さして聞く。

「何か、“それ”こそ、もろに、ドラえもんのアレじゃん」

 と、パク・ソユンが、見ていった。

 すなわち、もう片方のものだが、こちらは、“もろ”に四次元ポケットのような巾着袋であった。

「けっ、四次元ポケットって、言いてえんだろ」

「ぽよ」

 と、キム・テヤンが舌打ちすると、

「まあ、神楽坂さんがいうには、場面にあった妖具が、召喚されるみたいなんだけどね」

 と、カン・ロウンが答えた。

 そのようにして、別に妖狐がこちらにいなくても、それなりにサポートされた状態だということを確認して、

「――で? どう、するんだ?」

 と、キム・テヤンが聞いた。

 外を見るに、下を流れる大河と、山城のような重慶の都市が、ぼっかりと開いた穴のように空を包むような、ダイナミックな光景がひろがる。

 下を見ながら、

「う~ん……、そうだなぁ……? いずれにせよ、まずは、このデオとザオのふたりを探し出したいと思うな」

 と、カン・ロウンが答える。

 また、

「はぁ、もう、死んでるんじゃないの? ぽよ」

 と、パク・ソユンが、下界を眺めながら、ドライに言った。

「また、お前はそう言う、」

 キム・テヤンが、やれやれと言い、

「まあ、神楽坂さんが言うには、生きているようだからね。それで、もし、幽鬼がふたりを、殺したつもりで殺し損ねたことが分かったとしたら――」

 と、まだ続きがあるカン・ロウンの言葉に、

「……」

「……」

「……」

 と、ほかの三人が、注意を傾ける中、


「――おそらく、ふたりを、始末しに来るんじゃないだろうか」


 と、ひと呼吸おいて、カン・ロウンが言った。

「まあ……、だろうな……」

 と、キム・テヤンと、

「……」

 と、ドン・ヨンファの表情が、すこし緊張感をおびる。

 なお、

「ぽよ」

 と、パク・ソユンのほうは、相変わらずに緊張感の欠片もなかったが。


 カン・ロウンが、続けて、

「まあ、幽鬼というのが何者かわからないが、姿や顔を見られたらマズいことがあれば、目撃者であるふたりを、始末するというのは自然なことだろうし……、まあ、もし、姿をはっきり見てなかったとしても、遭遇してきた人間は、いままで皆、空に落としてきたはずなのだから、何らかの執念で、ふたりを追うのかもしれない」

「SNSの、更新がないってのも、それが原因なのかな?」

 と、ドン・ヨンファが聞いた。

「まあ、映像を見るかぎり、床が抜けて落ちたみてえだから、スマホが壊れちまったのか、どこかに落ちて分からなくなったって可能性も、あんだろ」

 キム・テヤンが言い、

「とりあえず、幽鬼が、彼らが“下に落ちる場面”を見てたとすると……、そこから、見失って、追跡するのをやめたのか? あるいは、警察の、付近でパトカーのサイレンがするなどして、追跡をやめたのか? いずれにしろ、下に落ちたあとの確認まではしてないのかもしれないな」

 と、カン・ロウンが、言った。

 そのまま、続けて、

「それで、もし、ふたりが、警察にも見つからないまま、現場から逃げることができていたら、ふたりの生死は不明となる……。そうすると、まあ、そのまま幽鬼には、自分たちは死んだものだと思ってほしいだろう。ゆえに、姿を隠そうとしたり、SNSの更新も止めたとしても、不思議ではないかもしれない」

「すると、ヤツラは、どこかに潜伏しているってことか?」

 とここで、キム・テヤンが聞いた。

「まあ、幽鬼の力が、“空に落とす”という異能力限定であれば、最悪、建物のなかだったり、地下にさえ隠れていさえすれば、身の安全は守られるだろうからね」

 と、、カン・ロウンが答えると、

「つまり、ニート、引きこもり最強ってことね」

 と、パク・ソユンが間に、要らない言葉をはさむ。

 誰もつっこまずに、

「まあ、出力を上げれば、建物ごと空に落とすのも可能であれば、別だけど」

 と、カン・ロウンが、補足だけした。

「建物ごと、かぁ……」

 ドン・ヨンファが、つぶやいた。

 想像してみる。

 高層ビルだったり、高層マンション、それらが、基礎の杭から抜け、崩壊しながらも、ゴゴゴ、ゴゴォ……!! と、落ちていく。

 何とも、ダイナミック、かつシュールな光景だろう。

「まあ、いままで、幽鬼の犯行と疑わしきものの中で、そのようなケースは無いみたいだが……」

 カン・ロウンは、調べた記憶を振り返りながら、

「まあ、車ごと空に落とすとかくらいは、充分可能なのかもしれないね」

「そうすっと……、移動中も、危ないかもな」

 と、キム・テヤンが言った。

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