12 おや? 以前は、“嫌い”だったのが、“好きじゃない”まで昇格したんだね
(2)
時間はすこし経ち、カン・ロウンたちSPY探偵団の四人は、韓国から重慶の地に降り立った。
昨夜の、デオとザオの問題の動画の現場ちかく、巨大な楼閣のような、ホンヤートンのカフェにいた。
急遽、重慶に行くことが決まって慌ただしかったため、まずは、調査にはいる前に一服というわけだった。
「まったく、“アイツ”は、こねぇのかよ」
キム・テヤンが、顔をしかめて言った。
「だよ、な」
ドン・ヨンファが、それに相づちした。
“アイツ”とは、もちろん、妖狐の神楽坂文のことだ。
この重慶での調査の言い出しっぺなのだが、昨夜、いったん鎌倉に戻ってしまった。
なお、四人には、「何かあったら連絡するのだ。ゴミ芥ども」と言い残して、調査に関しては丸投げしておきながらだが。
「いや、基本、アイツ、あんま好きじゃないから、来なくていいんだけど」
パク・ソユンが言うと、
「おや? 以前は、“嫌い”だったのが、“好きじゃない”まで昇格したんだね」
と、ドン・ヨンファが、よせばいいものの、うっかり茶化すようなことを言ってしまい、
「は? うるさいわね――」
と、パク・ソユンの表情が、不機嫌なときの“それ”に変わると、
――グワ、シッ――!!
と、ドン・ヨンファをヘッドロックした、
「ふぐっ――!?」
ドン・ヨンファは顔が歪んで、奇声をあげる。
パク・ソユンは、異能力を以って、
――ブォン……
と、“何か電熱系”のコテのような武器を、具現化する。
ジュッ――と赤熱する“それ”を手にして、
「ねぇ? せっかく、重慶に来たから、さ? アンタの額に、【火鍋】って、刻印したげよっか?」
「ひっ!? ひぃぃッ――!!」
と、ドン・ヨンファはジタバタ――!! と、もがくも、
「ねぇ? それとも、ここに来た証に、【洪崖洞】のほうがいい?」
「ごっ、ごめッ!! ごめんって!! ――てか!? そんな怒ること!?」
「ああ”!! うっせぇなー!! こんなとこで騒ぐなってんだ!! お前ら!!」
とここで、キム・テヤンが見かね、
「まあまあ、放してやりなって、ソユン」
と、カン・ロウンも、間にはいってやった。
そうして、ドン・ヨンファを解放してやる。
――ド、サッ……
と、ドン・ヨンファは膝をつくなり、
「ゲホ、ゲホッ……!!」
と、苦しそうに咳きこんだ。
それはさておき、話をもどす。
「まあ、神楽坂さんは鎌倉に戻ってしまったけど、“葛葉”のつる葉を、貸し出してくれてるからね」
カン・ロウンが、言いながら見せる。
丸みをおびた三角形の葉っぱが特徴的なクズのような“つる葉”に、電子回路のような金糸がまとわりついた、“葛葉”。
あらゆる情報通信網に侵入し、ハッキングして情報を得ることのできる、情報蒐集力においてはチートクラスの妖術・妖具だった。
「あと、それ、は……?」
ドン・ヨンファが、指さして聞く。
「何か、“それ”こそ、もろに、ドラえもんのアレじゃん」
と、パク・ソユンが、見ていった。
すなわち、もう片方のものだが、こちらは、“もろ”に四次元ポケットのような巾着袋であった。
「けっ、四次元ポケットって、言いてえんだろ」
「ぽよ」
と、キム・テヤンが舌打ちすると、
「まあ、神楽坂さんがいうには、場面にあった妖具が、召喚されるみたいなんだけどね」
と、カン・ロウンが答えた。
そのようにして、別に妖狐がこちらにいなくても、それなりにサポートされた状態だということを確認して、
「――で? どう、するんだ?」
と、キム・テヤンが聞いた。
外を見るに、下を流れる大河と、山城のような重慶の都市が、ぼっかりと開いた穴のように空を包むような、ダイナミックな光景がひろがる。
下を見ながら、
「う~ん……、そうだなぁ……? いずれにせよ、まずは、このデオとザオのふたりを探し出したいと思うな」
と、カン・ロウンが答える。
また、
「はぁ、もう、死んでるんじゃないの? ぽよ」
と、パク・ソユンが、下界を眺めながら、ドライに言った。
「また、お前はそう言う、」
キム・テヤンが、やれやれと言い、
「まあ、神楽坂さんが言うには、生きているようだからね。それで、もし、幽鬼がふたりを、殺したつもりで殺し損ねたことが分かったとしたら――」
と、まだ続きがあるカン・ロウンの言葉に、
「……」
「……」
「……」
と、ほかの三人が、注意を傾ける中、
「――おそらく、ふたりを、始末しに来るんじゃないだろうか」
と、ひと呼吸おいて、カン・ロウンが言った。
「まあ……、だろうな……」
と、キム・テヤンと、
「……」
と、ドン・ヨンファの表情が、すこし緊張感をおびる。
なお、
「ぽよ」
と、パク・ソユンのほうは、相変わらずに緊張感の欠片もなかったが。
カン・ロウンが、続けて、
「まあ、幽鬼というのが何者かわからないが、姿や顔を見られたらマズいことがあれば、目撃者であるふたりを、始末するというのは自然なことだろうし……、まあ、もし、姿をはっきり見てなかったとしても、遭遇してきた人間は、いままで皆、空に落としてきたはずなのだから、何らかの執念で、ふたりを追うのかもしれない」
「SNSの、更新がないってのも、それが原因なのかな?」
と、ドン・ヨンファが聞いた。
「まあ、映像を見るかぎり、床が抜けて落ちたみてえだから、スマホが壊れちまったのか、どこかに落ちて分からなくなったって可能性も、あんだろ」
キム・テヤンが言い、
「とりあえず、幽鬼が、彼らが“下に落ちる場面”を見てたとすると……、そこから、見失って、追跡するのをやめたのか? あるいは、警察の、付近でパトカーのサイレンがするなどして、追跡をやめたのか? いずれにしろ、下に落ちたあとの確認まではしてないのかもしれないな」
と、カン・ロウンが、言った。
そのまま、続けて、
「それで、もし、ふたりが、警察にも見つからないまま、現場から逃げることができていたら、ふたりの生死は不明となる……。そうすると、まあ、そのまま幽鬼には、自分たちは死んだものだと思ってほしいだろう。ゆえに、姿を隠そうとしたり、SNSの更新も止めたとしても、不思議ではないかもしれない」
「すると、ヤツラは、どこかに潜伏しているってことか?」
とここで、キム・テヤンが聞いた。
「まあ、幽鬼の力が、“空に落とす”という異能力限定であれば、最悪、建物のなかだったり、地下にさえ隠れていさえすれば、身の安全は守られるだろうからね」
と、、カン・ロウンが答えると、
「つまり、ニート、引きこもり最強ってことね」
と、パク・ソユンが間に、要らない言葉をはさむ。
誰もつっこまずに、
「まあ、出力を上げれば、建物ごと空に落とすのも可能であれば、別だけど」
と、カン・ロウンが、補足だけした。
「建物ごと、かぁ……」
ドン・ヨンファが、つぶやいた。
想像してみる。
高層ビルだったり、高層マンション、それらが、基礎の杭から抜け、崩壊しながらも、ゴゴゴ、ゴゴォ……!! と、落ちていく。
何とも、ダイナミック、かつシュールな光景だろう。
「まあ、いままで、幽鬼の犯行と疑わしきものの中で、そのようなケースは無いみたいだが……」
カン・ロウンは、調べた記憶を振り返りながら、
「まあ、車ごと空に落とすとかくらいは、充分可能なのかもしれないね」
「そうすっと……、移動中も、危ないかもな」
と、キム・テヤンが言った。




