11 マジモンの二足歩行するパンダ人間
(1)
翌朝のこと。
――ゴゴゴ、ゴゴ……
と、巨大な山城のように佇む、重慶の都市。
なお、“山城”とは重慶に別称で、高低差が大きく、三次元の複雑な立体迷路のような都市を形成する。
また、長江と嘉陵江のふたつの大河が合流する渝中半島の超高層ビル群の聳えるようすが、ニューヨークを彷彿とさせるのが、中国のビックアップルなどと呼ばれたりする所以だ。
そんな重慶の刑事コンビ、パンとハンのふたりは、昨夜、デオとザオが例の配信をしていた廃墟地区にいた。
「ちっ……、まったく、あんのガキども」
パンが、舌打ちして言った。
なお、このパンであるが、マジモンの二足歩行するパンダ人間の中年刑事である。
そんな、ゆるキャラのような相方を、
「まあまあ、パンちゃん、」
と、こちらは高身長の、四川美人の女刑事こと、ハンが宥めた。
昨夜から、デオとザオのDZコンビの配信した動画によって、重慶は騒ぎになっていた。
まさかの、噂されていた幽鬼が現れ、まさに、“人を空に落とす”瞬間が、彼らの動画に映ってしまったのだ。
その、衝撃的な内容と緊迫した逃走劇ゆえに、SNSは、いっきに億単位のインプレッションを叩きだし、重慶の警察署も、このことで持ちきりになっていた。
そして、幽鬼に関して調査しているパンとハンのコンビは、現地を調べることになったのだ。
朝の、ホンヤートンを眺めながら、
「――で? “あいつら”は、どうなったんだ?」
パンが、缶コーヒーを飲みながら聞く。
「あれから、更新がないのだ」
と、ハンが答える。
「更新が、ない? つまりは、“空に落とされた”のか? いや……、あるいは、下に落ちたのか?」
パンが、動画の最後のあたりを思い出しながら自問自答する。
なお、いま、動画で彼らが“落ちた”廃墟や周辺では、ほかの警察たちが捜索していた。
現場には、“落ちた”痕跡があり、もしかすると、彼らは怪我をしたまま廃屋内で動けなくなっている可能性もある。
ゆえに、周辺を捜索する必要があった。
「う~ん……? 空じゃなくて、下に落ちた可能性もあるのかな?」
ハンが、動画を再生しながら、
「動画を見る限り、逃げ込んだ廃墟には、ボロボロだけど天井があるし……、どこか、床を踏み抜いちゃったんじゃ、ないのか?」
と、言った。
「そう、すると……? あいつらは、生きているの、か……?」
パンが、考える表情をしながら問いを投げかける。
「だけど、そこから、幽鬼が後追いして……、ふたりを始末しちゃった可能性も、考えられるかな? 自分の姿を、見ちゃったかもしれないし」
ハンが、そう言うと、
「そうだとすると……、ワンチャン、運良く助かったかもしれねぇってのに、かわいそうなこった。まあ、あいつらの、普段していることからすりゃ、自業自得かもしれねぇけどよ」
と、パンは、「やれやれ」と言った。
いったん、デオとザオのふたりがどうなっているのかということは、置いておき、
「しかし……、本当に、幽鬼ってのの力によって、“人が空に落とされている”――てっので、捜査を進めていいのか?」
と、パンが、改めて問いを投げかけた。
まあ、いままでは都市伝説のようなものとして見ていたが、例の動画を見ると、否定できなくなってきた。
「分析班が、動画を分析したところ、AIだったり、加工したものではなさそうなのだ」
ハンが、補足した。
「そうすると……、まあ、もし、幽鬼に殺されてなければ、探したほうがよさそうだな」
と、「やれやれ」と、動きだすパンに、
「いや、殺されてないという前提で、探そうなのだ」
と、ハンが言った。




