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5.3 あの日から…さらに1年。グリーン

疲れた身体を何とか起こして、厨房に立つ。

「起きたか、ダイジョブか、顔色悪いぞ。」

「ダイジョブだよ。それより夜の営業始めるよ、親父。暖簾出してくる。」

暖簾を出すのは、俺の仕事。

親父は出来ない。

配達も俺の仕事。

親父は出来ない。

仕入れも、週に一度業者が来て届けてくれるけど、足りないものがあれば買い出しに行く。

それも俺の仕事。

銀行も近くにはないので、電車に乗って2駅先まで行く。

それも俺の仕事。


朝8時になると、親父が俺を起こしに来る。

「おはよう。朝だぞ。」

朝の最初のセリフは、いつも同じ。

そこから来々軒の一日が始まる。

仕込みを始めた俺の横で口だけだす。

開店するとお客さんの注文を聞き、配膳、食器下げ、レジ。

配達の電話もとれる。

俺が配達に行く前に一回暖簾を下げて、準備中にする。

その間はクロスワードか、テレビ。

夕方、夜営業を始める前に、毎日山梨の孫とテレビ電話。

夜10時に閉店。

俺が暖簾をしまい、鍵をかける。

「お休み。また明日な。」

夜の最後のセリフも同じで終了。

「お休み、…親父また明日…。」


毎日これを繰り返して4年がたった。

自分が望んだ事なのに、最近ではこれで本当に良かったのか?悩み始めた。

「はぁ、いつ終わるのかな。でも、終わったら親父は、店は?。」

ずっとその事だけを考えてしまう。

最近の戦いに限界を感じているからだ。

敵の数は、全然減らないし、各国が設置した兵器も役にたたない。

闘えるのは、自分たちだけ。

いったいいつまで戦えばよいのか。

それに…。

「俺は願いを間違えたかも知れない。」

親父をずっと来々軒に永久にいさせて、本当にそれで良かったのか。

俺の願い。

「親父のいる来々軒」

俺はそう願った。

つぶれた店を目の前に。


あの日は、定休日だった。


家族サービスで、子供を連れて山梨の遊園地、夜は近くにある妻の実家に泊まる予定でいた。

夕方、激しい地震、娘が怖くて泣き出してしまった。

妻の実家から、すぐに戻るように連絡が入った。

遊園地も閉園になってしまい、急いで戻る。

お義父さんとお義母さんが慌てて俺達を迎えてくれた。

「とりあえずテレビを」

お義母さんが娘を連れて隣の部屋に行き、嫁と二人テレビを見る。

「なんですかこれ?、映画?」

「現実だよ。…千葉の方らしい。来々軒、何度か電話してるが、…繋がらない。」

慌てて電話をかけるが、店にも親父の携帯にも繋がらない。

「ご近所のかたにも電話してみる。」

嫁も知り合いに電話をかけまくり、俺も友達や知り合いにかけまくった。

誰も繋がらない。

テレビに映る謎の巨大生物と、怪人の戦いをヘリのカメラがとらえた。

「見て下さい、謎の巨大生物が戦っています。しかし周りは火の海です。」

映像は、地上に替わる。

「只今、千葉県と茨城県に退避勧告がでています。電車は止まっていて、道路は避難する車で渋滞がおきています。」

俺は立ち上がる。

「…俺、帰ります。」

「待って、無茶よ!。気持ちは分かるけど、一回座って、ね!」

嫁に無理やり座らせられ、お義父さんにも背中を叩かれた。

「まずは情報集めだ。今やみくもに動いてもあかん、どうせ電車もうごいとらん、行くなら行けるところまで車だな。後は、自転車積んで行こ。俺はガソリン入れてくる。」

「私は非常食と、救急キット、懐中電灯とか。」

皆が、自分に出きる事を考えて動きだす。

「んじゃ、私はとりあえず腹ごしらえじゃな、握り飯作ってそれ持って行きな」

俺は、テレビを見ながら、千葉まで帰れそうなルートを探す。

どうやら高速道路は上りでは、東京手前までいけそうだ。

「これ食べたら、少し目を瞑って横になりな、先は地獄や」

「はい」

握り飯を1つ食べると、隣の部屋にいる娘の隣で寝転がる。

「必ずじいちゃん連れて帰ってくるからな」


夜中お義父さんの車で行けるところまで走り、かなり時間はかかったが何とか朝方新宿までたどり着いた。

自転車を下ろして、リュックを背負う。

「一応1日はここで待ってるから。なんかあったら電話しろ。無理はするなよ、お前には嫁と娘がおるんだからな!」

お義父さんに背中を叩かれ、送り出された。

しかし、東京を出て千葉に向かう道はすでにバリケード規制されていて進めず脱出する人しか通れない。

何とか行けないか模索して住宅地をうろうろしていたら、細い抜け道を見つけて何とかバリケードの中に侵入、自転車は抜けられなかったので、一応メモを挟んで置いていく。

後はひたすら歩いた。

時々地面が激しく揺れたり、衝撃が響いてくる。

まだ巨大生物が戦っているのが遠くに見える。

本当は走りたかったが、道は想像以上にひどかった。

進めば進むほど道はなくなる。

ほとんどの家が、倒壊、コンクリートの建物さえ跡形もなく崩れ落ちている。

やっとの思いで家の近くまでたどり着いた。

この辺りはまだ被害はまぬがれているようで、見知った建物が残っている。

しかし残っているのは、…コンクリートの建物ばかりだ。

「あ…」

やっとの思いでたどり着いた時には、すでに夜を過ぎ朝日が上りはじめていた。

残っているのは、焼け崩れた店、まだ所々で煙が上がっている。

「親父!」

厨房のあった場所の、焼け焦げた瓦礫をかき分けるが、何も見つからない。

(逃げた可能性もある、避難所に行ってみるか?)

もう少し探して…

(?、今何か光った。)

厨房の奥にある大型冷蔵庫があった場所。

その手前でひしゃげた小さな輪が微かに光った。

拾い上げて汚れを落とす。

(これ、親父の結婚指輪…)

しゃがんで辺りの瓦礫を丁寧に取り除く、ひしゃげたメガネと、銀歯らしきもの。

(なんだよ、これ)

骨のひとつも残ってないっていうのか…。

店も親父も…何もかも。

あまりのショックにその場から動けない。

(俺は、店の跡を、親父の跡を継いで、嫁と、子供と…幸せに、皆で幸せだったはず、なんで?!)


カタカタカタカタ


辺りが震える、ふと、明るかったはずなのに、突然暗くなる。

ふと、顔をあげると

空から巨大な塊が

(!!!)


*


(あれ、俺死んだよね?)


〖死んだね、私の腕の下敷きになって〗


頭に誰かが話しかけてくる。


〖君に、私の力を分けてやる。だから私の代わりに奴らと戦え。〗


(なんで、お前に命令されなきゃいけないんだよ、だいたいお前のせいで…)


〖願いもひとつだけ叶えてやる。お前の強い願い、私がお前を選んだ理由〗


(俺の願い…なんでも?じゃあ、親父を生き返えらせろよ、来々軒を返せよ!)


〖死者を蘇らせる事は出来ない〗


(うるさい、親父と来々軒、返せ!)


〖なるほど、来々軒は元に戻せる、そこに親父がいればよいのだな〗


!!


目を開けると、俺は来々軒の前にいた。

身体は、特に異常ない。

(夢?)

立ち上がると、右手からひしゃげた指輪が落ちる。

(夢じゃない?)

周りは焼け野原なのに、来々軒だけが何もなかったかのように、そこにあった。

来々軒の扉をおそるおそる開けてみる。

「へい、いらっしゃいって、なんだよお前か。」

親父が厨房から顔を出した。

「そろそろ昼の営業始まるぞ、準備しろって、来ないか客なんて。」

「…親父?、本当に親父…なのか?」

親父は、俺に近づいて右手から指輪を取ると、指にはめたが歪んで入らない。

「こりゃ駄目だな、後で何か紐で首にでもかけるか。後でお前買って来いよ」 

「親…」

「俺は、この店から出られないからな」

「何言って…」

親父は、開けたままの入り口を閉めに行く。

軽く右手を外に出すと、外に出た右手部分が消えた。

「ほらな」

(親父のいる来々軒…)

「親父…」

親父がギュッと俺の頭を抱えて抱きしめ、背中を叩く。

「全く、変な契約したな~、まあおかげで孫の成長が見れるしな。あと、お前の成長も。」

俺は、泣きながら背中に手を回して親父の存在を確かめた。

「全く、いつまでたっても、あまちゃんだなぁ。ほら

山梨に電話しろ、待ってるぞ、皆。」


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