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5.1 あの日から…さらに1年。ブラック

(……疲れたな。)


アパートに戻って来た、そのままソファーに、倒れこむ。


あれから1年、娘は4歳になった。

1年に一度、娘と妻が会いに来る日がある。

娘の誕生日だ。

数日前、ケーキと手作りのご馳走、九州の美味しいものを手土産に二人は会いにきた。

俺もその日に合わせて有給を取り、部屋を綺麗に片付け、お誕生日の飾りつけをする。

3人でお誕生日会をし、近くの公園で遊んだり、買い物を楽しむ。

(妻は、どうやら気づいているな。)

俺が、HEROしている事も、何でここから離れないのかも。

そして、何も聞かず、何も言わずに、娘を連れて帰って行く。

(帰りの新幹線、泣いてなきゃいいけど…。)

携帯の待ち受けは、一年事にかわる、お誕生日の3ショット。

「腹減った…、あー冷蔵庫、何も無いな。」

だんだん瞼が閉じてくる。


*


久しぶりにあの日の夢を見た。


隕石が落ちたあの日、妻は臨月でいつ産まれてもおかしくない。

毎日落ち着かない俺。

妻はそんな俺を見て笑っていた。

昼過ぎに陣痛がきて、妻から連絡をもらい慌てて仕事を早退し、車で病院に行こうと乗り込んだとき、北の方角が明るくなった。

(なんだ?)

一瞬だった。


激しい爆発音と、爆風。


車は、すっ飛ばされ、何回転したかわからない。

気がついたとき全身が痛くて、助手席の妻は意識がなく血だらけ、車は形が変わっていて、シートベルトが外れない、いやそのお陰でまだ生きてるのか。

「さくら!」

妻の名前を呼ぶが、返事はない。

外に助けを求めようとしたが

「がはっ!」

口から血が溢れてきた。

よくみればお腹の辺りにハンドルがめりこんでいる。

…もう、意識も途切れそうだ。

(そんな、もう少しで我が子に逢えたのに…なんでこんな事に、…せめて…手を)

手を伸ばして妻の小指に触れた。

(ごめん、俺が一生守るって誓ったのに…ごめん、逢いたいよ、娘に…)

こんな事なら、無理やりにでも九州の妻の実家に里帰りさせれば良かった。

九州は、遠すぎるから、お義母さんがこっちに来てくれる事になっていた。

(せめて一度でいい、この手に抱きたかっ…た…)


〖私の代わりに戦え、願いをひとつ叶えてやる。妻と子供を助ける。それがお前の願いか。〗


(俺の願い…ああ、そうだ。子供を、この腕で抱きたい。)


〖死んだ者は、生き返えらせることは出来ない。お前は死んだ。しかし今なら、妻もお腹の子供もかろうじて生きているから助けられる。願いはそれでよいか〗


(いい、娘に逢えるならなんだってする。)


〖契約成立〗


「!!!」


「お父さんしっかりして、さあ、もうすぐ産まれますよ。さ、いきんで!」

「うーーー」

気づいたら俺は分娩室で妻の手を握っていた。

(…え?、は? なに、 あれ?)

驚く間も無く、妻のうめき声と、力強く握られた手に我に返る。

さっき死にそうだったのは、なんだったんだ?。

「はい、次いくよ、はい!頭出たよ!」


「おめでとうございます!、3052g、元気な女の子です」

「あの、お父さんに最初に抱かせて上げて下さい」

妻が、看護師にお願いする。

「はい、ではお父さん、どうぞ」

俺の両手に、愛し子が乗せられた。

「…」

その温かさに、重さに、…涙が溢れて止まらない。

「…お父さん、ありがとう」


あの時は、胸が一杯で小さな声で言った妻の言葉に疑問ももたなかった。

妻はあの時死んでなかったから、もしかしたら意識はあったのかもしれない。

そして俺と同じ事を願っていたはずだ。

指が触れていたから、契約の話も聞こえたのかもしれない。

血まみれで死にそうだったのに、気づいたら無傷で分娩台に乗って出産の最中だったら驚くだろう。

そしてたぶん細かい契約のルールも知っている。

あの時指に触れていなければ、何も知らずに俺も九州に来るように、必死に説得しただろう。

妻は、退院すると、迎えにきたお義父さんとお義母さんと一緒に九州の実家に帰っていった。

「毎日電話するからね、充電忘れないでね」


俺が、二度とここから出られない事も…知っているんだ。


*


気づいたら、夕方だった。

「……来々軒、行くか。」

最近は、近くに来々軒を見つけて、時々飯を食いに行く。

正直助かる。

最近は、レベル3の敵が増えてきて、時々レベル4まで現れる。

奴らは強い。

次の日は、仕事にもいけないほどだ。

アパートを出て、来々軒に向かって歩き出す。

徒歩7.8分くらいの距離。

店の前までくると、反対側から見知った男が歩いて来た。

「…あ。」

「あ、こんばんわ。」

(うわ、こいつか…、嫌みヤロウ。)

週に一度駅前で会うこの男。

「…どうも。」

何となくこいつより後に入りたくなくて、急いで店のドアを開ける。

「あ、すんません。」

すぐうしろから、奴が入って来た。

(いや、お前の為に開けたんじゃないし!。)


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