7.エピローグ…
「あなた!、いないの?」
「おとーさん。」
アパートの部屋の鍵を開けて部屋の中をくまなく探す。
「おかーさん、くさいよ~」
よく見ると、いつからかわからないゴミが異臭を放っていた。
「ゴメン、窓開けようね」
窓を開けて、冷蔵庫の中を調べる。
賞味期限が切れたパンと牛乳が入っている。
仕事のカバンを漁る。
財布に入っていたレシートは、あの日の4日前のものだ。
あの日。
レベル5の怪人、避難勧告、あわてて電話した。
『どうした?』
「あなた…」
とっさに電話してしまったが、言葉が出ない。
『ゴメン、さくら。…知ってたんだろ。』
「…うん、…ほんとは、行かないで、もういいよって言いたい…今すぐそっちに行きたい。」
『陽菜まだ起きてる』
「ちょっと待って、寝てるけど起こすよ」
『いいよ、寝顔だけみたいな…うん、可愛い。可愛いいな陽菜』
「うん」
『俺達の宝物。絶対守るから』
「…うん、待ってるから」
電話が切れて、1分後、テレビ画面でブラックが現れた。
「…うん、行こう、もう離れてるなんて嫌!」
両親に今まで隠してた私達に起こった出来事を全てはなす。
かなり驚いてたし、なかなか信じられない二人をなんとか説得して了承を得る。
荷物をまとめて、翌朝陽菜と二人彼の住むアパートに向かった。
九州から東京に着くまで3日もかかってしまった。
避難勧告が出ていたので飛行機は大阪までしか飛ばなかった。
そこからは、電車で行ける所まで行き避難勧告が解除されるまで足止めを食らってしまった。
「おとーさん、いないね~。」
「そうだね、お母さん少しお掃除するね」
溜まったゴミを袋にまとめて、一度玄関の外にだす。
あれから3日。
(そうだ携帯充電しなくちゃ)
ここまでくる途中で、なんども電話をかけたが繋がらなかった。
充電器を差し込むと、もう一度コールする。
「…」
部屋の中は静かで、バイブの音すら聞こえない。
どうしたらよいかわからず、床にへたりこむ。
Pi
娘の陽菜が、テレビのリモコンを手にスイッチを入れ、チャンネルを替えていく。
「おかーさん、おとーさんいたよ」
テレビ番組では、先日の戦いの映像が流れていた。
「おとーさん!」
陽菜が嬉しそうに画面のブラックを指差し楽しそうに観ている。
陽菜には、いつも"ブラック"がおとーさんだよと教えていたので、嬉しそうだ。
『あれから3日経ちましたが、毎日のように現れていた怪人が出現しなくなりました。解説の三上さん、どう思われますか?』
『まだなんとも…、ただ、世間の皆さんがおっしゃるように、以前と違い結界の色が濃くなりましたし、結界の向こうに見えていた怪人達が消えましたよね。近く各国の合同調査隊が派遣される事が決まったようで、来週まで怪人がでなければ、近くの映像が見られるでしょう。』
『それではもう一度あの日の映像を振り返りましょう。すごかったですね5色の光が眩しくて、私その時名古屋にいたのですが、夜なのに東の方角がものすごく明るくなったので、一瞬爆発かと思って身構えましたよ。』
映像は5人目のヒーロー、イエローが現場に到着して、5秒ほどで5人が輝き出し、1分くらいで光が消え、まるで何事もなかったかのように怪人も、ヒーロー達も消えていた。
『解析をしたところ、普段共闘しない5人が、イエローが来た時、一瞬イエローの方を4人が見た事が、今現在わかっています。』
『何があったんでしょう?』
『私は、普段前線に立たないイエローが珍しく前線に来たので驚いたのかと思ったのですが』
『その説が有力ですよね』
『他の説もあります…』
しばらく陽菜とテレビを観ていたが、映像にブラックが映らなくなって、陽菜は飽きてしまった。
「おかーさん、おなかすいた~」
時計を見ると、14時近い。
「…そうだね、おかあさんもお腹空いた。そうだお父さんが最近話してた来々軒行って見よう!陽菜ラーメン食べよう!」
「陽菜ラーメンだいすき!」
急いで窓を閉めて陽菜に靴を履かせて、部屋を出た。
ゴミは…まあいいか外で。
スマホで来々軒を検索して、陽菜の手を握り歩き始めた。
来々軒は、歩いて5分ちょっとでつきそうだ。
陽菜は、楽しそうにヒーローソングを歌いながら歩いている。
最近ヒーローブームに乗っかって再放送している5年前の戦隊ヒーロー番組のオープニングが保育園で流行っていて、子供達はいつも歌っていた。
最近の陽菜は、怪人警報が速報でながるれるとテレビの前に陣取り、画面が怪人と戦うヒーロー達を映し出すと、テレビの前でおもちゃの剣を振り回して一緒になって戦いを始め、最後は歌って終わる。
(全部映像に撮って、見せてあげてたけど、滅茶苦茶喜んでたな。)
5分ほどで、来々軒にたどり着いた。
「こんにちわ~!」
「すみませんやってますか?」
扉を開けると、女性の方が「どうぞ」と声をかけてくれた。
「へい、いらっしゃい。今日はごめんね、ラーメンしか出来ないけど、いいかい?」
「そうなんですか?、じゃあそれ2つ下さい。」
「はい、ラーメン2丁!」
「かしこまり」
女性の店員が、調理担当のようだ。
(あれ、男性店員2人ってあのひと言ってたけど、…お休みなのかな?)
しばらく見ていたが、年配の男性が横から、あーじゃないこーじゃない、だいぶ口を挟んでこっちもハラハラしてしまう。
「おまちどおさま、ラーメン2丁、お子様のは、ちょっとスープ薄めにしてあるよ」
「わぁ、美味しそう、ありがとうございます」
厨房から出てきた女性が、子供用の取り皿を持って来てくれた。
「すみません、お義父さんうるさかったからヒヤヒヤしたでしょ、でも味は間違いないから」
「ありがとうございます。陽菜、分けてあげる。熱いからふーふーして食べよう。いただきます」
「いただきま~す」
陽菜の取り皿に少なめにラーメンを入れふーふーして食べる娘を見守りながら、自分も一口いただく。
「!!…美味しい」
「良かった、旦那力作のスープだからね~。」
「おか~さん、もっとたべたい」
陽菜の取り皿は空になっていた。
「陽菜、小食なのに…」
さらに取り分けてあげると、よほど美味しいのか、無心で食べている。
「良かった、いっぱい食べて大きくなるんだよ」
女性が、厨房に戻ろうとしたので声をかけた。
「あ、あの!、いつも男性の店員さんがやってるって、旦那から聞いてたんですけど…、今日はお休みですか?」
二人は驚いて、こちらを見る。
「旦那さん?」
「はい、最近よくお店で、なんでも"スペシャルスープ"を作って下さってるって…」
「いつの間にか出来てた新メニュ-"スペシャルスープ"。あんた奥さんかい?」
「はい!そうです。あの、最近旦那いつ来たか覚えていらっしゃいますか?」
「ちょっと待ってな、えーと伝票を…」
「私がしる限り3日前かと思うのですが…」
「そうだね、伝票の記録だと、3日前にきたのが最後だね。」
「あの、その日の事教えていただけませんでしょうか。」
男性は、少し申し訳なさそうに
「…すまないね、過去はもう覚えてないんだよ。」
「?、えーと、奥様は…」
「ごめん、あたしも昨日来たばかりなんだ。あ、でも"スペシャルスープ"の話しは聞いてるよ。麺がなくて、ありったけの野菜とにんにくぶちこんだ、栄養満点スープって。」
「そうなんですね、あの旦那さまにお話を伺う事は…」
二人は困って押し黙る。
「あのね、陽菜の、おとーさん、"ブラック"なんだよ!」
「ちょっと陽菜!、すみません。もう食べたの?」
「ごちそうさま~でしゅ」
陽菜は椅子から降りて、奥にある座敷に向かって走り出す。
「陽菜、そっち行かないで!、本当すみません、陽菜!」
「ダイジョブダイジョブ、どうせお客さんなんてこないし。ラーメン食べてて。陽菜ちゃん」
奥様が陽菜の近くに行き話しかけた。
「陽菜ちゃん、おとーさん"ブラック"なんだ」
「うん!怪人と戦うお仕事してるの~」
「おばちゃんの旦那はね"グリーン"なんだよ~」
「おばちゃん"グリーン"なの!」
「おばちゃんの旦那さまがね」
驚いてむせてしまう。
「お義父さん、すみません果林2階から呼んで来てもらえますか?」
「おうよ。おい、果林降りてこい」
2階から小学生くらいの女の子が降りてきた。
「果林、ママ達大事なお話したいんだけど、陽菜ちゃんと、お2階で遊んでてもらえる?」
「いいよ~、陽菜ちゃん遊ぼ~」
「うん!」
二人はすぐに意気投合して2階へ上がっていった。
「…あの…」
奥様は私の向かいの椅子に座る。
「…お義父さんは、朝8時にいつも来々軒の冷蔵庫の前にいるんです。」
男性、義理のお義父さんは厨房に入ると、冷蔵庫の前に立つ。
「…ここで死んだからな」
「!?」
「うちの旦那、親父と来々軒返してくれって願ったんですって。…本当、バカですよね-。死んでも来々軒って。…あの時、無理やりにでも止めれば良かった…」
奥様は泣き崩れた。
慌てて奥様の隣に座り直し背中をさすりながら自分の話しをした。
旦那が命懸けで自分と陽菜を助けてくれた事。
気がついたら、何故か出産の最中で驚いた、話。
話しながら、私も泣いていた。
「…スミマセン、ずっと誰にもこんな事話せなくて」
「出産直前!すごいね。…グスッ、そりゃ驚くね」
「ぺちゃんこ血だらけの車から、分娩台ですよ、驚くは、お腹は痛いはで、大混乱!「えっ!?」て思ってたら最大の波が来て、ポン!「はい、産まれました!」でしたよ。」
奥様と二人笑い転げる。
「はぁ~、そうか~、奥さん名前聞いても?」
「私はさくらです。」
「私は夏実だよ。ねえ、連絡先交換しない?」
「はい、是非」
二人とも、携帯を出して、お互いの連絡先を登録する。
「さくらさん、不安かもしれないけど、多分みんな生きてるよ」
「何か手がかりが!」
夏実さんは店を見渡す。
「ここ、来々軒があるから」
笑顔で来々軒を見渡す。
「あたしも山梨から娘連れて駆けつけたんだ。もし旦那がいなくなるなら、多分だけど来々軒も瓦礫に戻ってると思う。ついたらお義父さんの話し聞いて、やっぱり確信した。旦那は生きてるって」
お義父さんの話しを聞いて夏実さんは、夜お義父さんが消える所、朝、冷蔵庫の前に現れる所、しっかり確認したそうだ。
「ちょっと来て」
夏実さんに連れられて、冷蔵庫の前に来た。
「!!」
そこには大量の付箋が剥がれないよう、セロテープで貼ってあった。
「お義父さん、現れると、前の日の事覚えてないの。」
そこには、いろんなメモが貼られている。
「あ、この辺りがお客さんについてのメモ。最近は常連さん4人しか来てなかったから。」
夏実さんが右側に貼られた付箋を指差してくれた。
【あかさん、毎日開店と同時に入店、野菜たっぷりラーメン注文、夜はご飯と日替わりおかず、お任せで】
それが固定されていて、"昨日は、生姜焼"と隣に貼られている。
【あおさん、最近見える常連さん、ビールとつまみを頼む、枝豆は鉄板。冷凍ストック忘れずに】
こちらも"昨日は、チャーシュー盛合せ"と貼られ、
【きいさん、13時ごろ出前で、2食分注文。キクラゲ、メンマ、椎茸、ニンジン、セロリ、✕。前もって希望により料理可】
隣に"昨日は電話なし、夜珍しく来店、ラーメン餃子ライス"
どうやらきいさんは普段店に来ないようだ。
(あ、これだ!)
【ぶらさん、20時すぎ~閉店間近に来店。基本ラーメン塩、ライス、餃子。最近は、麺なしの野菜たっぷりバージョン希望、にんにくたっぷり入れてあげて】
隣に"昨日はビールとスペシャルスープ"
「ぶらさんって」
ちょっと笑ってしまう。
メモのスミに簡単な顔が書かれている。
旦那の特徴がしっかりわかるイラストだ。
「お義父さん、朝現れてこれ見て、1日動き出すの」
しばらく二人、冷蔵庫の前でただ、たちつくし…
「…うちのひとも、戻って来ますかね」
「…うん!そうだよ!…って、私もどこから自信が…。多分ダイジョブ…だよね」
夏実さんは笑っているが、瞳からポロポロ涙がまた溢れだした。
この人も、私と一緒、いや私は知ってただけましか。
私と違い、つい先日、自分の夫がずっと家族の為に戦ってきた事を、…もう死んでいたことも知ったのだ。
夏実さんを抱きしめた。
「うん!大丈夫。この店が存在する限り、夫達は帰って来る」
*
あれから1年がたった。
まだ夫達は帰ってこないし、来々軒も健在だ。
私と娘は一度九州に戻り、荷物をまとめてこちらに引っ越してきた。
もちろん、夫の住んでたアパートだ。
住んでみてわかった事。
この辺りに人は誰も住んでいない。
いまだ周りは瓦礫ばかりで、アパートと、来々軒、その先にあったタワマンだけが人の住めそうな所で、他は未だに撤去もされず放置状態だった。
他の地域は、少しずつ瓦礫の撤去も始まっているし人も戻って来ている。
もちろん、被害地域は広範囲なので時間がかかるのも当たり前なのだが、ここはまったく進んでいない。
一年たって、さすがにおかしいので自治体に聞いてみたら
「何言ってるんですか、その辺りは立ち入り禁止エリア内ですよ、人は住めません」
「いえ、私住んでますよ」
「忙しいんで冗談もほどほどでお願いします」
「あ、ちょっと」
電話は切られた。
夏実さんもかけてくれたが
「だから、○✕駅の…」
「○✕駅は成田に行く路線なので動いてはいますが成田直通で、他は通過だったと…」
私も、夏実さんも基本車移動だったので、慌てて駅に行って確認すると、駅には簡易バリケードがされていた。
「うちの旦那、電車通勤してたはず…」
「まただ、不思議現象」
夏実さんと、顔を見合せる。
ここに来てから出てくる"不思議現象"。
電気代、水道代が請求されない。
ガスは入ってないので、電磁調理器で料理はしている。
もちろん、問い合わせしたが、「そこは立ち入り禁止エリアでまだ電気は通ってないですよ。」
アパートの外をみたら電線は全て倒壊していて、どうやって電気が使えているのか謎?。
水道も聞いてみたらこの辺り一面地中の水道管が全滅していて水は出ないですよと言われた。
でも、水は出ている。
いったいどこから?
アパートの家賃を払おうと思ったら、その会社は倒壊していて、どこに払ったらよいのかわからず、一応貯金して貯めてある。
(後で払えと言われたら困るし…)
毎日、朝起きて、娘と朝ご飯を食べて、遠くの保育園に送る。
なにせ、近くの保育園はどこも閉園していて、車で1時間先の保育園をやっと見つけた。
その近くで仕事を探し、10時から17時までスーパーで働き、娘を迎えに行ってまた1時間かけてアパートへ。
夜はくたくたなので、来々軒で毎日夕飯を食べて、そのまま夏実さんとおしゃべりして20時すぎに帰って来る。
陽菜も、毎日果林ちゃんと遊べて「お姉ちゃんができた!」と喜んでいる。
「ありがと-、ミリンきれそうで、助かるわー。」
「ふふ、まいどご贔屓に!」
時々、夏実さんから買い物も頼まれている。
来々軒は、あまりにも人が来ないので、夏実さんがYouTubeを始めて、少しずつではあるがお客さんも増えている。
「言っても、1日2.3人くればいい方だよ。後は夜に常連さん二人!」
今夏実さんと、お義父さんは新商品開発に忙しい。
「元々やってなかったから、お義父さんも始めての挑戦だから気合い入っちゃって!」
厨房からいい匂いが漂う。
「お、さくらさん、今日も味見頼むね!」
お義父さんが厨房から小皿に乗ったスープを持ってくる。
3人でテーブルに座り、私達がスープを飲んだ。
「うん、昨日よりまろやかになった?雑味がないよね。」
「本当だ、うん、美味しいよ」
二人が感想をいい、お義父さんがノートに記入する。
2冊目のノートももうすぐ終わりそうだ。
「じゃ、そろそろ麺も検討するか、明日業者に頼んでおくよ」
そういいながら、お義父さんは明日への伝言をノートに書く。
「さくらさん、いつもありがとうね」
お義父さんは、味見しても、前の日の記憶がないから比較が出来ない。
なのでノートに言葉で味を記録し、携帯で写真を撮って記録する作業を毎日している。
最初のころ、毎日思った味が出せなくてお義父さんがイライラする日々がつづいた。
夏実さんとケンカする日も多々あった。
でも、朝になると記憶が消えたお義父さんはいつも通りで、夏実さんだけがモヤモヤする。
そんな日々に夏実さんがストレスで泣き、お義父さんが消えた夜中に二人で飲みあかした日も何度かあった。
「私がやらなくても来々軒は残るんだろうけど…なんかねぇ、続けたいんだよ」
「うん、私が夏実さんでも、同じ事するよ」
「まあお義父さんの雷親父は、昔からだし」
「飲も飲も!」
明日は、二人とも休みだ。
娘達は、来々軒の二階で眠っている。
「では、本日何度目かわからない乾杯!」
「今週もお疲れ様!頑張った!私達!」
何本目か、分からない缶ビールを合わせる。
しばらくしてから知ったのだが、お互い酒豪だった。
子供が産まれてから禁酒していたが、ここに来てから週末のみ解禁した。
いつもここで飲む事にしていた。
お義父さんのノート、一頁目の最初に、"今日やっと5人が始めて店でそろった"と始まり、あの日の事がお義父さん目線で、記入されていた。
それを読んだ私達は、毎日この時間に店にいる。
あの日、5人が店を出た時間だ。
いつかは分からない。
でも、場所は間違いなくこの店だ。
変身した場所に戻ってくる。
これも、お義父さんの冷蔵庫メモに貼ってあった。
"戻りは、急に現れるから、驚かないように!"
(きっと、帰ってくるのは、ここだよね…待ってるよ)
旦那達が、あの扉を開けるのを、毎日、この時間二人で。




