【第7話】レッド・インデペンデンス、故郷(火星)を返してもらう
火山爆破から、さらに20年以上の歳月が流れた。
開拓開始からちょうど30年目。火星の人口は、過酷な労働を生き抜いた棄民プレイヤーたちとその子孫を含め、20億人に達していた。
かつての赤い死の惑星は、いまや豊かな青い海と、見渡す限りの緑の大地、そして宇宙服なしで深呼吸ができるほどの濃い酸素に満ちた、完璧なパラダイスへと変貌を遂げていた。
だが、その「完成」の通知が地球へ届いた瞬間、歴史の因業が再び俺たちの前に立ちはだかった。
『警告:地球統一政府(WEA)所属の、第一次武装移民艦隊の接近を検知』
『艦隊総数:120隻。目的:火星全域の統治権回収、および現住プレイヤーの再奴隷化』
火星の軌道上に、地球の特権階級エリートたちを乗せた、巨大な武装宇宙船の群れが姿を現したのだ。
彼らは、おいしいところだけを奪うためにやってきた。俺たち棄民を使い捨ての駒として扱い、環境が整ったら再び支配下に置く。それが、地球の政府が描いた「ゲスい最短ルート」の本当の仕上げだった。
「がっはっは! 予想通り、薄汚いハイエナどもが群れてきやがったな!」
火星防衛軍の総司令官となった須佐さんが、巨大なモニターの前で不敵に笑う。
「凪くん、地球の艦隊から通信が入ってるよ。……『無条件で統治権を引き渡し、全開拓者は再び管理区域へ戻れ』だって。相変わらず、私たちのこと人間だと思ってないみたい」
俺の隣に立つ奈美が、冷ややかな声で告げる。今の彼女の瞳には、かつて学内政治に怯えていた弱さは一切ない。この星の生態系を創り上げた、気高き天才科学者の風格があった。
「いいぜ、 WEAの操り人形ども。教えてやるよ。この星の主が、一体誰なのかをな」
俺は、中央制御室のマスターレバーに手をかけた。
30年間、火星のインフラと同期し続けた俺の『開拓ツール』は、いまやこの星のすべてのキノコ、クモ、そして赤道の磁気バリア(自転エネルギー)と、神経のようにつながっている。
「須佐さん、奈美。……『プラネット・リセット』の最終フェーズを起動する」
2人が力強く頷く。
俺はレバーを、一気に『反転』させた。
その瞬間、火星の自転エネルギーを吸い上げていた赤道のカーボンベルトが、一斉に駆動方向を逆に変えた。惑星規模の電磁シールドが、一瞬にして、数テラワットクラスの「超広域高出力EMP(電磁パルス)兵器」へと変貌したのだ。
ドォォォォォォォォォン……!!
火星の地表から、目に見えない巨大な電磁波の津波が、宇宙空間へ向けて炸裂した。
軌道上にいた地球の最新鋭武装艦隊は、その凄まじい電磁の嵐をもろに浴び、一瞬にしてすべての電子機器、動力炉、武器システムを完全に機能停止させられた。ただの鉄の塊となった120隻の艦隊が、宇宙空間でプカプカと無力に浮き上がっている。
パニックに陥る地球の総司令部に向けて、俺は火星全土の電波をジャックし、冷徹に言い放った。
「地球の支配者どもに告ぐ。JAXAのMMXが証明した通り、人類の起源はこの火星だ。ここは、あんたたちの所有物じゃない。俺たち『棄民』が命を懸けて取り戻した、人類の本当の故郷だ」
俺は画面を睨みつけ、最後通牒を突きつける。
「統治権は渡さない。これより、火星の完全なる独立を宣言する。――故郷を、返してもらうぞ」
『火星開拓率:100.00%』
『ゲームクリア条件を達成しました。これより、全プレイヤーの強制ログアウトを実行します』
その瞬間、火星の空全体が、祝福するような純白の光で満たされていった。
(最終話へ続く)




