【第3話】採掘1位の爆破マニアと、星を穿つドリル
「ガッハッハ! 遺伝子ハックとは恐れ入った。だがよぉ凪、いくら頑丈なキノコを植えたところで、その胞子を火星全土へ爆発的にバラ撒く『きっかけ』がなきゃ、30年の期限には間に合わねえぞ?」
赤道ドームの裏、レゴリスの砂塵が舞う簡易作業場で、地響きのような笑い声が響いた。
声を上げて金属製の超大型採掘シャベルを軽々と振り回しているのは、身長186センチ、体重90キロの凄まじい体躯を持つ巨漢――須佐尊、30歳。
地球では海外の石油メジャーで数々の油田を掘り当ててきたプロの発掘屋であり、大学時代は電磁波プラズマ爆発の研究に没頭していたという、歩く危険物取扱説明書のような男だ。
彼もまた、あの地震の夜に現場の崩落事故に巻き込まれ、気づけばこの棄民船に放り込まれていた転移者だった。
「須佐さん、やっぱりあんた、ゲームの時の『タケル』か?」
「おうよ! 採掘ランク1位のこの俺が、まさか本物の火星でドリルを握ることになるとは思わなかったガッハッハ! ゲームの鉱山クエストじゃ何度もお前の『開拓予測』に助けられたからな。ここで会ったのも何かの縁だ」
尊は太い腕を差し出し、俺の防護服の手袋が軋むほどの力で握手を交わした。
前衛で資源をゴリゴリ削ってくれる、ゲーム時代の最強の相棒がリアルの仲間に加わった。これほど心強いことはない。
「タケルさん……。でも、キノコをバラ撒く『きっかけ』って、どうするの?」
奈美が分厚いメガネの位置を直しながら、恐る恐る尋ねる。
「決まってんだろ、お嬢ちゃん。火山の大噴火だよ」
尊の目が、ギラリと猛獣のように光った。
「この火星の地下深層マントルには、かつてこの星が温かかった頃の、膨大な『メタンガス(CH₄)』が封印されているはずだ。それを一気にブチ抜いて、火星全土を大炎上させる。そうすりゃ熱で大気が一気に膨張し、お前らのキノコの胞子は風に乗って世界中に広がる」
「メタンの大炎上……!?」奈美が息を呑む。
「でも、そんなことしたら火山灰(ケイ素)で太陽光が遮られて、火星がもっと寒くなっちゃうよ!」
「そこは大丈夫だ、奈美」俺は割って入った。
「俺の脳内ツール(シミュレーター)の計算だと、火山灰は奈美の得意なバシラス属……『ケイ素分解菌』を空中にバラ撒けば一瞬で中和して、肥料の雨に変えられる。問題は、どうやってあの眠れる巨大火山『オリンポス山』を人工的に噴火させるかだ」
その言葉が出た瞬間、尊の様子が急変した。
「……オリンポス山の地殻厚は推定3万メートル。カルデラ直下のマグマ溜まりの圧力係数が……」
尊はブツブツと呟き始め、焦点の合わない目で宙を見つめだした。一度思考のスイッチが入ると、周囲の音が一切聞こえなくなる彼の悪癖だ。だが、その頭脳は今、惑星を穿つための爆破シミュレーションを秒単位で叩き出している。
数分後、尊はハッと我に返ると、豪快に拳を打ち鳴らした。
「いけるぜ凪! 地球から持ち込まれたプラズマ掘削重機を俺がハッキングして魔改造する。大学時代にやってた電磁波プラズマ爆発の理論を使えば、地殻の『ツボ』にピンポイントで衝撃波を叩き込んで、マグマ溜まりの蓋を爆破できる!」
『プレイヤー:須佐 尊 がギルドに加入しました』
『特殊シナジー【惑星ハッキング・穿孔爆破】が解放されました』
『火星開拓率:0.05% → 0.15%』
「よし、役割は決まったな」
俺は、赤く燃える火星の地平線を見つめながら、2人の最高の相棒に告げた。
「奈美はキノコとクモの遺伝子をハックして、爆発に耐える『芽胞コード』を仕込む。須佐さんは掘削重機を魔改造して、火山の爆破ポイントへ突撃。――俺たちの手で、このクソッタレな死の惑星に、特大の環境確変(花火)を打ち上げてやろうぜ!」
地球を棄てられたニートと、天才学者と、マッド掘削屋。
3人の「世界1位」が集ったギルドが、ついに火星の心臓をブチ抜くための、狂気の火山爆破計画へと舵を切った。
(第4話へ続く)




