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魔法を捨てた次期公爵は、図書館の令嬢に恋をする  作者: 莉璃翠


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18/21

第18話 研究仲間

 翌日の放課後。


 魔法学科の研究室には、三人の姿があった。


 オリビア。


 ルーカス。


 そして、アリア。


「では、この術式についてですね」


 アリアが机の上に資料を広げる。


 昨日とは違い、彼女は完全に研究者の顔をしていた。


「この術式は、王国建国以前の魔法体系に近いと思います」


「やっぱり?」


 オリビアが身を乗り出す。


「はい。私の家にも古い資料が残っていて」


「見せてもらえますか?」


「もちろんです」


 アリアは一冊の薄い本を開いた。


 そこには、昨日の羊皮紙とよく似た魔法式が描かれていた。


「これ……!」


 オリビアの目が輝く。


「同じです!」


「正確には、こちらが原型だと思います」


「じゃあ、昨日の式は?」


「改変されたものですね」


 ルーカスが二つの式を見比べる。


「誰かが意図的に変えた?」


「おそらく」


 アリアが頷く。


「ですが、一つ問題があります」


「何ですか?」


「この術式を使うためには、特殊な魔力が必要です」


 オリビアが首を傾げる。


「特殊な魔力?」


「王家の血筋に受け継がれる魔力」


 部屋が静かになる。


 ルーカスが資料を見る。


「……だから、あの一文が」


「はい」


 アリアは頷いた。


「『王家の血を持つ者が、この術式を開くべからず』」


「でも、どうして?」


 オリビアが尋ねる。


「そこまでは分かっていません」


 アリアは少し困ったように笑った。


「だから、私も調べたいと思っています」


「じゃあ、一緒に調べましょう」


 オリビアが言った。


 ルーカスが笑う。


「そうなると思った」


「先輩もですよね?」


「もちろん」


 アリアも小さく笑った。


「お二人は本当に仲がいいんですね」


「そうですか?」


「はい」


「研究仲間ですから」


 オリビアが答える。


 その言葉に、ルーカスは一瞬だけ黙った。


「……まあ、そうだね」


 けれど。


 昨日。


 オリビアから好きだと言われた。


 その言葉を思い出す。


 研究仲間。


 それだけではない。


 ルーカスにとっては、もう。


 そんな簡単な関係ではなかった。


「ルーカス様」


「ん?」


「この部分、どう思います?」


 アリアに声をかけられ、ルーカスは資料を見る。


「これは――」


 三人で研究を続ける。


 オリビアが術式を解析し。


 アリアが古い資料と照らし合わせ。


 ルーカスが魔力の流れを整理する。


 思った以上に相性がよかった。


「……なるほど」


 ルーカスが式を書き直す。


「ここをこうすれば、魔力の流れが安定する」


「本当ですね」


 オリビアが覗き込む。


「先輩、やっぱりすごいです」


「ありがとう」


 ルーカスが笑う。


 その二人のやり取りを見て、アリアがふと口を開いた。


「ルーカス様」


「何?」


「昨日から思っていましたが」


「うん」


「オリビア様といるときは、表情が違いますね」


「……!」


 オリビアが固まる。


 ルーカスも少し驚いた。


「そう?」


「はい」


 アリアは穏やかに笑う。


「王宮にいるときより、ずっと楽しそうです」


「……」


 ルーカスは何も言えなかった。


 オリビアも、顔が熱くなる。


「それに」


 アリアが続ける。


「オリビア様も、ルーカス様のことをよく見ています」


「えっ」


「……」


 二人とも黙る。


「ふふ」


 アリアは楽しそうに笑った。


「失礼しました」


「アリア嬢……」


「でも」


 アリアは少し真面目な顔になる。


「私が婚約候補だからといって、何かを決めるつもりはありません」


「……」


「これは家同士の話ですから」


 オリビアが顔を上げる。


「アリア様」


「はい?」


「ありがとうございます」


「どうして?」


「……なんとなく」


 アリアは微笑んだ。


「こちらこそ」


 研究が終わるころには、外はすっかり暗くなっていた。


 アリアが先に研究室を出る。


「では、また明日」


「はい」


「またね」


 二人きりになった。


 静かな研究室。


 ルーカスは資料を片付けながら言った。


「……昨日のこと」


「はい」


「返事、まだしてなかったね」


 オリビアの手が止まる。


「……はい」


「ごめん」


「大丈夫です」


「ちゃんと考えたいんだ」


「分かってます」


 ルーカスはオリビアを見る。


「君のことを軽く扱いたくないから」


 その言葉に、オリビアの胸が鳴る。


「……ありがとうございます」


「それと」


「はい?」


「明日も研究しよう」


「……はい!」


 オリビアが笑う。


 その笑顔を見て、ルーカスも笑った。


 まだ答えは出ていない。


 婚約も。


 二人の未来も。


 けれど。


 少なくとも今は。


 二人の間にある気持ちは、昨日より確かなものになっていた。


 そして翌日。


 王宮から、一通の正式な書状がルーカスのもとへ届く。


 そこには。


 婚約候補についての、最終的な話し合いの日程が記されていた。

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