第三話 芽吹き
最初にやってきたのは、老人だった。
エドガーが廃屋を直してから二週間後。隣の廃村から歩いてきたという老人は、折れた鍬を両手で持ち、玄関先に立っていた。
「修復師がいると聞いたんだが……本当かい」
「ええ。どうぞ」
エドガーは鍬を受け取り、素材の状態を確かめた。鉄の部分は錆が深く、柄の木材は芯から腐りかけている。普通の鍛冶師に持っていけば「買い直した方が安い」と言われる代物だ。
「少し待ってください」
エドガーが手を当てると、錆が引いていった。腐った芯が締まり、刃が本来の鋭さを取り戻す。一分もかからなかった。
老人は鍬を受け取り、刃先を日光にかざして、しばらく黙っていた。
「……わしが若い頃に買った鍬だ。四十年使った。こんなに切れたのは、最初の年だけだった」
「本来の姿に戻しただけです」
「礼を言う」
老人が帰っていく後ろ姿を見ながら、エドガーは思った。
六年間、ゼクスの大剣を直し続けた。感謝されたことは一度もなかった。
この老人は、たった一度の鍬の修復で、振り返って頭を下げた。
噂は、思いのほか早く広がった。
二週目には三人来た。四週目には十人になった。魔物に追われて故郷を失った亜人の家族、重税に耐えかねて王都を出てきた職人、行き場をなくした元兵士。彼らは皆、エドガーの修復した農具を手に、この枯れた土地で鍬を振った。
エドガーの手が加わった土は、裏切らなかった。
種を蒔けば芽が出た。芽が出れば育った。普通の三倍の速さで、普通の二倍の実をつけた。修復した農具は壊れなかった。直した家は傾かなかった。
不毛の大地に、少しずつ人の声が増えていった。
その頃、王都では。
「新しい杖が爆発した」
レオンが包帯だらけの手を見つめながら、虚ろな声で言った。
鍛冶ギルドの最高級品だった。魔力を込めた瞬間に木端微塵になった。手の甲に細かい破片が刺さり、三針縫った。
「なぜだ」
「分からない。でも、雇った修復師は言ってた。『この杖、魔力の通り道の構造が通常品と全然違う。こんな高負荷に耐えられるように設計されていない。以前はどうやって使っていたんですか』って」
クラリスが静かに言った。
「……エドガーが、強度を上げていたのよ。毎回。私たちの気づかないところで」
誰も返事をしなかった。
「探す」
ゼクスが立ち上がった。
「路地裏で野垂れ死にしているはずだ。連れ戻して、また直させる。それだけだ」
その言葉に疑問を呈する者は、この部屋にはいなかった。




