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第四話 来訪者

秋の収穫が終わった頃、三つの影が境界線に現れた。

 エドガーは畑の端で農具の手入れをしていて、最初に気づいたのは隣にいた亜人の青年だった。

「エドガーさん、あの人たち……」

「分かってる」

 エドガーは手を止め、ゆっくりと立ち上がった。

 ゼクス、クラリス、レオン。

 装備はひどい有り様だった。鎧は継ぎ接ぎだらけで、クラリスの聖印は輝きを失い、レオンの杖は柄を布で巻いて補強してある。顔は痩せ、目の下に隈が浮いている。

 三人とも、エドガーが知っている顔より、ずっと疲れて見えた。

「エドガー!」

 ゼクスが怒鳴った。その声は、以前より少し掠れていた。

「よくも騙してくれたな。聖石も武器もめちゃくちゃだ。今すぐ王都に戻って全部直せ」

 周囲で作業していた人々が手を止め、武器に手をかけようとした。エドガーは片手を上げて制した。

「……何を騙したと思っているんだい」

 エドガーは三人に向かって歩いた。止まったのは、十歩ほど手前だ。

「聖石が壊れたのは、僕が維持を止めたからだ。君たちの武器が寿命を迎えたのも、僕が強度を補い続けていたからだ。僕がいなくなれば、本来の姿に戻るだけだ。それを騙したとは言わない」

「うるさい!」

 ゼクスが腰の大剣を抜いた。新しく買ったものだろう。しかし刃こぼれがひどく、すでに補修の跡が見える。

「俺たちの足元に跪け。武器を直し続けると誓え。さもなければ、この土地ごと――」

「ゼクス」

 エドガーは静かに遮った。

「君の大剣、今の状態で僕に振れば折れる。昨日、岩に打ちつけただろう。内側にひびが入っている」

 ゼクスの手が、一瞬止まった。

「……なぜ、分かる」

「見れば分かる。それが僕の眼だ」

 沈黙が落ちた。

 クラリスが一歩前に出た。その目に、懇願の色がある。

「エドガー。お願い。私たちには、あなたが必要なの。一緒に戻ってきて。また、みんなで――」

「クラリス」

 エドガーは穏やかに、しかし揺るがない声で言った。

「君たちには、僕の『力』が必要なんだ。僕が必要なんじゃない。その二つは、違う」

 クラリスが何か言おうとして、止まった。

 エドガーは続けた。

「六年間、君たちのために力を使った。感謝されたことは一度もなかった。それでも続けたのは、僕が望んでいたからだ。でも今は違う。僕には、ここで守るものができた」

 エドガーが右手を、ゆっくりと前に出した。

「帰ってくれ。それだけでいい。力ずくで動こうとするなら、相応の対応をする」

 ゼクスが歯を食いしばり、大剣を構えた。

「なめるな。魔法も剣も使えない修復師が、俺に――」

 踏み込んだ。速い。六年間、最前線で戦い続けた勇者の踏み込みは、確かに速かった。

「――『概念修復・強制零化』」

 エドガーが呟いた瞬間。

 大剣が、空中で砕けた。

 音もなく。抵抗もなく。まるで砂が崩れるように、金属の粒子がばらばらになって地面に落ちた。エドガーが「内側のひび」を一瞬で完全崩壊まで進行させた。修復の逆回し。それだけのことだった。

「な……」

 ゼクスが、柄だけを握ったまま立ち尽くした。

 レオンが杖を構えようとして、杖の魔力結晶が急速に色褪せるのを見て、手を下ろした。クラリスは何も言わなかった。

 三人とも、エドガーの目を見た。

 怒りはなかった。憐れみもなかった。ただ静かな、どこまでも静かな目が、三人を見ていた。


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